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死神悪役令嬢は、全部第二王子のせいにする  作者: 栗原ちひろ
第2章 死神悪役令嬢と第二王子、第一王子暗殺に奔走する
14/17

14.ドレスで魔法具を盗むことになってしまった!

「シーラさま、お素敵ですわ!! お素敵すぎて、わたくし、今にも目が潰れそうです!」


 叫ぶヒルダの前で、私はくるりと一回転する。


「目は大事にしてくれ、ヒルダ。君の美的感覚を信用してる」


「一生大事にします、死んでも宝石箱に入れて先祖代々受け継がせます、でもってお墓には『シーラさまにお褒めいただいた目の持ち主、ここに眠る』って書かせますぅ!!」


 ヒルダは相変わらず大げさだ。

 私は、姿見に映ったドレス姿のシーラをチェックした。

 ゴージャスすぎる赤い髪に映えるドレスは、水色だ。光沢のある水色の生地に、大きめの白い花の柄が染め抜かれている。品はいいが、かなりド派手なドレス。


「ドレスのド派手と私のド派手が殴り合い、最終的に美しい友情が生まれているのが見事だ。赤毛に青って、ほぼほぼロボみたいな色合わせだしな」


「ろぼ? と、おっしゃいました?」


「忘れろ」


「はい! ええと、赤と青は確かに目に痛い組み合わせですけれど、こちらは光沢のある生地。着れば明るい青から黒に近い色までグラデーションしますから、かなり品のいい印象になりましてよ。金色に光るシーラさまの赤い髪にはぴったり。新入生歓迎会の主役はシーラさまに決まりですわね!」


 ヒルダはにっこにこだが、このドレスを着ていくのは新入生歓迎会だぞ?

 二年生の私が、新入生歓迎会の主役を張ってどうする。

 私のドレスはこれで充分。むしろちょっとやりすぎだ。

 今回の会の主役は、リサ。


 そして、私の目的は――リサに集まってくるであろうイケメンのひとり。

 この魔法学園の、生徒会長なのだ。




『コルネリウス暗殺のために必要な魔法具は、あとひとつ。【調停の指輪】だ。この盗みは、校内でやるしかないと思っている』

 

 数日前、エトは私に告げた。

 最近の私たちは空き時間や廊下ですれ違うときを利用し、あらゆる方法で連絡を取っている。

 それもこれも、この国の第一王子にしてエトの兄、コルネリウスを暗殺するため。

 そのためには、コルネリウスの魔法を無効にする魔法具が必要なのだ。


 私は答えた。


『校内の誰かがその魔法具を持っている、ということか? しかし、寮に保管しているのなら、いくらでも盗み出せそうなものだが』


『寮内での盗難事件にするのは、なるべくなら避けたいんだ。僕の仕業っていうことがバレやすくなる。

そうじゃなく、彼が自然になくしたことにしたい』


『とすると、そいつが魔法具を持ち出したタイミングが狙い目だな。――読めた。新入生歓迎パーティーか』


 私はピン、と来て言う。

 エトはうなずいた。


『君はやっぱり勘がいい。新入生歓迎パーティーにはみんな盛装でやってくる。家宝の装飾品をつけてくる者も珍しくはないよ。ターゲットの彼は生徒会長だから、挨拶に来るはずだ。来なかったら、また機を見計らう』


『ちなみにそいつ、イケメンか?』


『うーん、まあ、そうかな? 健康的な美形だ。でも、なんで?』


 エトの問いに、私は微笑む。


『ならばそいつは、必ず来る。誓ってもいい』


 なぜならここは乙女ゲー世界で、主人公はリサだからだ。

 新入生歓迎パーティー。

 乙女ゲー的には、主人公が校内のイケメンたちと遭遇するイベントになるだろう。

 めぼしいイケメンは全員やってくるはずなのだ!!


 と、そのまま言うとエトが困り顔になる気がしたので、黙っておいた。

 エトはそんな私をじっと見つめたあと、そっと笑った。


『信じるよ。君のドレス姿も楽しみだ』




「…………………………ひどいお世辞だ」


 思い出したら、顔がかっと熱くなってしまった。

 さすが第二王子といおうか、社交スキルが高い。

 しかし、しかしだ。私なんかおだててなんになる?

 おだてていい気になる人間ならともかく、私だぞ!?

 むしろ平静に戻るのが面倒だ。合理的じゃない……。


 近くで聞いていたヒルダは、文字通り飛び上がった。


「えっ!? お世辞!? わたくしが、シーラさまのことでお世辞など言うはずがありませんわ!! し、ししししんじてくださいまし、この目と心臓を見てくださいまし!」


「心臓は見えないし見せなくていいからな、ヒルダ。独り言だ」


 私はヒルダに釘を刺し、エトのことを頭から追い払う。

 考えるべきはコルネリウスのこと。

 そして、リサのことだ。

 長い赤毛を持ち上げながら、私は聞いた。


「そんなことより、ヒルダ。一年生のことを聞かせてくれ。私はこうして実家からドレスを持ってこさせればいいが、一年生たちはどうするんだ? 実家が遠い子も多いだろう」


「さすがはシーラさま、今まで一年のことなど眼中になかった、ということですのね!? 雑魚どもも、一枚はドレスを持って入学するものです。なにせこの学園は名門。ちょっとでもいい結婚相手を見つけたい雑魚は、必死でしてよ。ただまあ、庶民出身のあの女は、ぺらぺらのドレス一枚用意できたかわかりませんけど」


 うふ、と笑うヒルダ。

 庶民出身のあの女というのは、リサのことだろう。

 そうか、この世界の庶民って、そんなか。


 ……ちょっと不安になってきたな。

 あの子、ちゃんと主人公としてイケメンたちを虜にできるのか?

 リサには、できることなら、ターゲットの気を惹いてもらいたいんだ。

 その隙をついて指輪をかすめとりたいんだ――。


「……ちょっとリサの様子を見てくる。ちゃんとした格好で出てくれなくては、名門魔法学園の名に関わるからな」


「シーラさま……なんという高貴ッ!! まぶしすぎて、やっぱり目が潰れるッ!!」


 のけぞるヒルダの襟首をつかみ、私は寮の部屋を出た。

 狭い廊下をずかずか歩いて行くと、みんなが慌てて道を空ける。

 私を見ると、みんなの目がキラキラになり、顔がとろけていくのがわかる。


「シーラさまだわ」

「なんておきれいなの……」

「婚約さえなかったら、殿方よりどりみどり」

「しっ、なんて不敬な! コルネリウス殿下はこの国の『最高』よ!」


 年若い少女たちがささやき合う。

 私は腹の底をくすぐられるような気分になった。

 転生前の私は、目立つような容貌ではなかった。『目立たない顔』は殺し屋の財産だ。下手に目立つ顔よりよっぽどありがたかった。財産だと思っていた。

 罵り言葉を受けたことも数多い。気にはならなかった。

 私には、相手を殺す力があったから。

 血袋に何を言われても気にならない。

 でも、もし、転生前もこんな顔を持っていたなら――。


 やめよう。無駄なことを考えている。


 私は新入生の寮に入り、適当な生徒をつかまえてリサの部屋を聞いた。


「リサ、ここか? 私だ、シーラだ。入ってもかまわないか?」


「シーラさまです!? どうぞどうぞ、すみません、今、歓迎会の準備でとっちらかってますが、お気になさらずです!」


 明るい返事に、ヒルダが鼻で笑って扉を開ける。


「お気になさらずって、あなた……。寛大なるシーラさまは気になさらないかもしれませんが、このヒルダは気にしましてよぅわえあぁあああ!?」


「なんだ、その悲鳴は。リサ……」


 ヒルダを中に押しこんで、自分も室内に入る。


 そして、私は、絶句した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 待ってました! 最新話(´ω`*)!! 嬉しーー!! ヒルダの推し言(おしごと)今回も炸裂でしたね(笑) 本当に、目は大事にしてほしい。目が見えなくなったらシーラの眩しい姿を拝めなくなる…
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