表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済!】天涯のアルヴァリス~白鋼の機械騎士~  作者: すとらいふ
第二章 旅立 〜幻のオーガスレイヤー〜
60/278

第二十五話 憤激・2

第二十五話 憤激・2


「あれ?」


 必死に回避行動を取っていたヨハンはエンシェントオーガの猛攻がピタリと止んだことに気が付いた。走りながら後ろを確認すると、いつの間にか追っていたはずのオーガ達がいないではないか。


「やばっ! 見失った?!」


 この作戦の()()はエンシェントオーガを一時も休ませないことにある。食事をとらせず、睡眠もままならない状態を長時間続けることで弱体化を図るのだが、わずかでも目を離すわけにはいかない。


 ヨハンは急いで、来た道と呼べるか怪しい荒地を戻る。少し走るとそこにはエンシェントオーガのものと思われる大きな足跡が急に横へと逸れていた。どうやらここで方向転換したようだ。とりあえずヨハンは慎重に足跡を辿っていくことにした。


「……ん? 確かここは……」


 しばらく足跡を追うと、森が無事なままの所に出てきた。この辺りはエンシェントオーガによってまだ()()されていないらしい。しかもヨハンはこの近辺に見覚えがあった。


「という事は、もしかして!」


 ある事を思い出したヨハンは一気に走り出した。するとすぐにエンシェントオーガの姿を遠くに見つける。彼らはちょうど真っ黒な炭の山の横に座り込むところだった。ここからではよく見えないが、ヨハンはそこに何があるのかを知っており、これから起きる事もすぐに想像がついた。気付かれないよう、近くの倒木が積み重なった影へと隠れる。








 ――ヨハンがエンシェントオーガ達を見失うほんの少し前。


 空腹のオーガ達はとある匂いを嗅ぎつけた。一瞬、あまりの疲労と空腹で幻覚の中にいるのかと疑ったが、どうも間違いないらしい。その匂いに釣られていつの間にか自分たちの夜営地に戻ってきていたのだった。とっくの昔に燃え尽きてすっかり冷たくなっていた焚火跡のすぐ横には匂いの源、肉の塊があったのだ。彼らにとっては量が少ないが、空腹で目も回りそうな今は僅かな肉でもありがたい。一体のオーガが相棒の方を見やり、相棒も同じ思いなのかコクリとうなずく。


 まったく、怒りと空腹と疲労で頭がどうにかなりそうだ。あの憎たらしい人間どもにはウンザリさせられる。大人しく我々(エンシェントオーガ)に殺されていればいいものを、小癪にもちょろちょろと逃げ回るばかりではないか。それだけなら適当に奴らの村の一つでも滅茶苦茶に破壊しつくせばこの怒りも収まるだろうが、忌々しいことに我らへ歯向かってくるあの不遜な態度。矮小な人間が取っていい態度ではない。必ず、必ず奴らを血祭りにあげてやらないと我々の名誉に関わることであるし、何よりこの怒りの矛先を向ける場所がない。


 ……いや、まずはこの肉を焼いて食おう。そしてひと眠りでもしてから、人間たちの村や町を襲う事にしよう。ひとまず、あの邪魔な機械人形(理力甲冑)の事は忘れることにする。


 そう思い、目の前の肉をむんずと掴み上げた時、もう一体のオーガが肉の下に紐のようなものが垂れていることに気が付く。


 その瞬間、閃光と爆音、そして鋭い痛みがエンシェントオーガ達の全身を包んだ。









「やった!」


 思わずヨハンは操縦席でガッツポーズをとる。向こうの方ではエンシェントオーガ達が小さな爆発に呑み込まれてるのが見えた。実は最初の出撃の時にヨハンが彼らの夜営地にこっそりと先生特製の罠を仕掛けていたのだ。ヨハンはその事をすっかり忘れていたし、オーガ達もこの近くにはなかなか寄らなかったので今まで放置されていたのがようやく役に立った。


 ヨハンが仕掛けたのはブービートラップだった。村で解体途中だった牛一頭分の肉の下にはこれまた一斗缶が何個か置かれていた。この一斗缶、なんと大量の爆薬と釘や小さな鉄片、理力甲冑の壊れた装甲の破片が詰め込まれていたのだった。オーガ達が空腹でこの牛肉トラップを持ち上げると、仕掛けられている紐が起爆装置を起動する。すると一斗缶の爆薬が爆発し、辺りに小さな散弾を爆風と共にまき散らす凶悪な罠となるのだ。


「ま、近くに他の人間なんかいるはずないし、今は非常事態デス。こういうぎりぎりアウトな罠でもなんでも活用していかないと! 魔物との戦いに条約も犯罪もへったくれもねーデス! やったもん勝ちデス!」


 ヨハンは先生の言葉を思い出し、これは確かにアウトだよなぁと頷く。人間相手にこんな罠を仕掛ければどんな恐ろしいことになるだろう。いくら戦争とはいえ、軍事行動にはいくつかの決め事やルールがある。理力甲冑が戦争の主役になった現在でも、一定の人道に反する作戦や攻撃は行わないように取り決めがされているのだが、これは明らかにルール違反に定められる類の罠に違いない。


 罠の位置からステッドランドが隠れている場所はかなり離れているが、ここまで破片が飛んでくるようで機体のあちこちから小さな金属音が聞こえる。いくら全身に装甲をまとっている理力甲冑とはいえ、もっと近い距離では危なかったかもしれない。


 爆発自体は小さいので煙がすぐに晴れる。そこには朱色の肌をさらに赤くしたエンシェントオーガ達が佇んでいた。よく見れば、軽装鎧で覆われていない露出している肌からは無数のかすり傷がつき、所々に破片や釘のようなものが刺さっている。より赤く見えた肌は全身から血がにじんでいるからだった。


「ヨハン、そろそろ交代の時間よ。今どの辺?」


 無線からクレアの声が聞こえる。ようやく交代か。


「ウッス、今は奴らの夜営地です。ちょうど先生の罠が発動したところなんスが、奴ら結構な傷を負ったみたいっス」


 ヨハンが返答し終わった瞬間、地の底から湧き上がるような叫び声が鳴り響いた。あまりに声が大きいので操縦席の壁やシートがびりびりと震えている。


「ヨハン! 今の音は何!?」


 耳の奥がキーンとしつつもクレアの質問になんとか答える。


「あー、奴ら完全にキレたみたいっスね。なんでしたっけ? ()()()()()()()()()でしたっけ?」


「……それをいうなら、()()()()()()じゃない?」


「そうそう、それっス。そんな感じの言葉」


 無線の向こうから何故かため息が聞こえる。何かおかしなことを言ったかなとヨハンは不思議に思う。


「いいからさっさとそこから逃げなさい。私とレフィオーネが空から見張っているから、奴らが暴れだす前に離れないと危ないわよ」


 ヨハンはクレアに言われた通り、何やら暴れるような音や激しい怒声を背後から聞きながらその場を一目散に逃げだした。恐ろしくて振り返る事が出来ないが、どうやらヨハンのステッドランドには気が付いていないようなので、さっさとこの場から離れることにしよう。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ