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【完結済!】天涯のアルヴァリス~白鋼の機械騎士~  作者: すとらいふ
第二章 旅立 〜幻のオーガスレイヤー〜
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第二十一話 滞空・1

第二十一話 滞空・1


 レフィオーネからクレアが降りてくる。格納庫に備え付けられた、理力甲冑に搭乗したり整備する際に使われる急な階段をトトトっと駆け降りると、下でユウとヨハンが待ち構えていた。


「ク、クレア!」


「姐さん!」


 二人は興奮してクレアに詰め寄ってくる。あまりの勢いにクレアは思わず後ずさってしまう。


「この機体! 空を!」


「飛ん! 飛んで!」


「二人とも! ちょっと落ち着いて!」


 クレアはどうどう、とまるで馬を落ち着かせるようにする。それでも二人の興奮は治まる様子がない。


「あの機体、空を飛んでた! 理力甲冑が空を!」


「空を! フワッて! ゴォーって風が!」


 段々と二人の語彙力が退化していく。そんなに空を飛んだ事が衝撃的だったのだろうか? いや、衝撃的か。正直、自分でもちょっと信じられない。


「ユウ、ヨハン。クレアが困っているデスよ。レフィオーネの事なら私が教えてあげるデス」


 ブリッジにいた先生が格納庫にやってきた。初戦闘、初飛行を終えたレフィオーネの様子を見に来たのだが、三人が機体の下で騒いでいるので仕方なく割って入ったのだ。


「せ、先生! あの機体!」


「あー、もう。それはいいデスから。……この機体、レフィオーネはこの世界で初めての単独飛行が可能な理力甲冑デス。結果は……ま、見ての通り、大成功デス」


 先生は事も無げに言って見せるが、理力甲冑の常識を超えるような機体をこの先生は作り上げてしまったのだ。この異世界(ルナシス)では殆ど航空機に関する技術が発達していない。ホワイトスワンや先の戦闘で撃墜した機体は分類上、船舶に該当するであろう代物で、あくまで飛行するものではない。


「レフィオーネの元になった機体が軽量化の果てに軽くし過ぎたって話は前にしましたよね? その話を聞いた時に飛行可能な理力甲冑のアイデアを練っていたんデスよ。問題は山積みだったんデスけど、最終的にはこの天才がバッチリ解決しました!」


 先生の解説によると、一番の問題は飛翔するための推進力だった。いくら極端に軽量化した機体とはいえ、理力甲冑の大きさの物体が宙に浮くためにはそれなりに大がかりな推進装置が必要となる。帝国にいた時にもこういった飛行可能な理力甲冑を開発しようとしたらしいが、結局この問題を解決できなかったという。


「それで先にホワイトスワンを実用化して、推進装置のノウハウを蓄積していったんデスよ。飛行中に機体を制御させる安定翼なんかも結構データ取れました。で、結局のところ推進装置を完成させたのは理力エンジンデスね。理力エンジンを使う事で取り込んだ空気をめちゃくちゃ圧縮することが可能となり、それを推進力として利用できるようになったんデス。しかもなんか不思議なことに、理論値よりも推進力が高い値を示しているんデスよ! 多分、理力を含む空気を高密度に圧縮したせいですかね? まあ、そこら辺はこれから研究するとして、とにかくこの短期間で実用化にこぎつける事が出来たんでヨシとしましょう!」


 先生はフフンと鼻を鳴らす。いつもはただのちびっ子にしか見えないが、やっぱりこの人は凄い技術者なのだろう。


「あの! 先生! そんな事より、俺のステッドランドにも()()付けてよ! 俺も空を飛びたい!」


 ヨハンはレフィオーネの腰部を指さす。オトコノコにとって空を飛ぶことは憧れなのだ、と言わんばかりの勢いだ。正直、ユウにもその気持ちはよく分かる。しかし、と思ってレフィオーネの腰部のまるでロングスカートのように延びたパーツを見る。これは空を飛ぶための安定翼を兼ねた推進装置になっているとのことだが、レフィオーネの女性のような細身のシルエットによく似合っている。……あれをちょっとゴツい体型のステッドランドに装着するのか?


「いや、無理デスよ。今はもうあれだけ作る資材が無いし、ステッドランドは重たいし、それに何よりもう理力エンジンが無いデス」


 レフィオーネの背部にはアルヴァリスにも搭載されている理力エンジンと同じものが搭載されている。帝国から亡命するときに持ってきた理力エンジンはもうこれで残っていないそうなのだ。肝心要のパーツがなければどうしようもない。ユウは少し安心して、代わりにヨハンの顔は一瞬曇ったが、すぐにパっと晴れる。


「じゃあじゃあ! レフィオーネを操縦させて下さいよ! 姐さん、いいでしょ!」


 ヨハンはクレアの手を取り、ブンブンと上下に振る。クレアは困った様子で言い淀んでいるが、どうしたんだろうか。


「えっとね、ヨハン。レフィオーネを操縦するのは結構難しいのよ。かなり分厚い説明書をね……」


「多分、ヨハンには無理デスよ。オマエ、操縦は上手いデスけど、マニュアル全然読まないタイプデス。絶対に操縦方法覚えられないから必ず墜落しちゃいますよ。ま、それでも乗りたいなら今後、授業をしてやってもいいデスよ?」


 ああ確かに、とユウは心の中で思う。ヨハンは理力甲冑の操縦は上手いほうだが、天性の勘でやっているような気がする。理論よりも実践派、と言えば聞こえが良いが、実際は勉強が嫌いで体を動かすことが好きな少年だ。


「いや、やっぱ遠慮しとくっス……」


 やはり勉強とか授業とかの単語に拒否反応を示している。


「僕は授業を受けようかな……。だって空飛びたいし」


「お、ユウはやる気あるようデスね。クレアもまだ飛行に関しては未熟デスからね、定期的に訓練飛行と授業をしましょう! ついでにヨハンも参加するデス。これは絶対的な命令デス!」


 ヨハンは訓練とはいえ飛行できる嬉しさと授業を受けたくない気持ちで何とも言えない顔をしている。あきらめろ、ヨハン。こういう勉強は必要なんだぞ。


「私のプランではレフィオーネをひな型にして飛行型理力甲冑を量産するデス。そうなったら一人でも多くの操縦士に飛行教習を行わなければいけないデスからね、お前らはこれから教官候補デス! 理論から実地まで全て出来るようになるデスよ!」









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