表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大江戸巌窟殿 恨みは捨てない── ただ、置き場所を決める  作者: 真野真名
第四章 巌窟殿は陰の中

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/27

第一話|噂を作らない男




 巌助は、何もしなかった。


 それは、怠けていたわけではない。

 むしろ逆だ。

 噂を作らない、という仕事をしていた。


 ***


 江戸には、噂が多い。

 人が多いからだ。


 人が多い場所では、話は、事実より先に歩き出す。


 巌助は、それを知っていた。

 噂は、作ると早い。

 だが、早いものは、崩れやすい。



 巌助は、貸した。

 だが、自分から話をしなかった。


 条件だけを出し、理由を言わない。


 理由を言うと、人は、それを物語にする。



 返済が遅れた者がいた。


 巌助は、怒らなかった。

 だが、次は貸さなかった。


 それだけだ。


 騒がない。

 責めない。


 責めると、噂になる。



 町の人間は、少しずつ困り始める。


「巌助は、何を考えているんだ」


 考えていると思われる、というのは、信用の芽だ。



 巌助は、奉行所に近づかなかった。

 賭場にも、寄らなかった。


 寄らない、という選択は、それだけで、目立つ。



 それでも、噂は生まれる。


「静かな金貸しがいる」

「余計なことを言わない」

「条件は、変えない」


 巌助は、その噂を否定しなかった。

 肯定もしない。


 噂は、放っておくと、勝手に痩せる。


 ***


 ある日、巌助は、商人に呼ばれた。


 呼ばれた、ということは、噂が必要な形になったということだ。


「殿、と呼ばれているそうですね」


 商人は、そう言って、様子を見た。


 巌助は、首を振った。


「呼び方は、任せます」


 それ以上は、言わない。


 否定すると、話題が増える。


 ***


 その日から、巌助は、少しずつ、名前を持ち始めた。


 自分が名乗らない名前。


 それは、重くならない。



 巌助は、帳面を閉じた。


 数字は、整っている。

 人も、整いつつある。


 だが、まだ、動かない。


 動くと、噂が太る。



 噂を作らない男は、噂に守られる。


 その仕組みが、静かに、動き始めていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ