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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
最終章 歯車男と約束の君

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黒幕の正体

「人間……だった? ってことはあんたやっぱり、神様……なのか?」


 目の前にいるくたびれた中年親父から、神の威光はこれっぽっちも感じられない。ならばこそ多少怪訝な顔つきで問う俺に、エフメルは一瞬キョトンとした顔をしてから笑い声をあげた。


「神様!? はっはっは、まさか! 僕はそんな大層なものじゃないよ」


「じゃが、ゴレミ達どころかダンジョンまで作ったのじゃろう? そんなもの神様でもなければ不可能なのじゃ!」


「いやいや、そんなことはないよ。確かにこの世界の技術水準じゃ今はまだ無理だろうけど、それらは全て人の技……気が遠くなるほどの研鑽の積み重ねの果てに辿り着く、人間の技術さ。スキルなんて特別なものがなくたって、材料と作り方さえわかれば、君にだって作れるよ」


「は!? んなわけ……」


「あるんだって! 勿論最初から上手には作れないだろうし、ここまで至るには才能も必要だろうけどね。


 ほら、ドラゴンを斬れる名剣を自分が打てるとは思わなくても、それを打てる職人が何処かにいることは否定しないだろう? これはそういう話なんだ。


 人の限界は、君が想像するよりずっと高い……若者の君にはまだわからないだろうけどね」


「むぅ……」


 確かに二〇年も生きてない俺に、人の限界を語れるような人生経験はない。なので今ひとつ納得はできないものの、ひとまずそれを受け入れることにして。


「なら……人間でも神様でもねーなら、あんたは一体?」


「ふふふ、僕はアルフィアやゴレミ達と同じゴーレムだよ。より正確には本物のエフメルが、『目的』のために自らの全てをコピーして作ったゴーレムだね。


 ちなみにエフメルが作ったのは僕だけで、アルフィア達は僕が作ったゴーレムだよ。だから『お父様』なんてくすぐったい名前で呼ぶ子もいるわけだけど」


「そうです。我等姉妹は、全員創造主様に作られたのです」


「ゴレミ達の自慢の父ちゃんなのデス! でも何が自慢かは黙秘権を行使するのデス!」


「え、なんでそこで微妙な表現をするの!? ……まあ、そういうわけだよ」


「はぁ……」


 如何にも人の良さそうな笑みを浮かべるエフメルさんに、俺は何とも気の抜けた返事をした。するとエフメルは目を細め、俺を値踏みするように見つめてくる。


「どうだい? 僕が人ではなくただのゴーレムだと知って、ガッカリしたかい?」


「え? 何でですか?」


「そうじゃな。ゴレミの父君がゴレミと同じだったという、ただそれだけのことなのじゃ」


「……フッ、そうかい。なら僕の自己紹介はこれでいいね。それじゃ君達の今後のことだけど……さっきも言ったとおり、君達二人には我等の『目的』に協力して欲しいんだ。どうだい?」


「いや、どうって言われても、内容によるとしか……なあ?」


「そうじゃな。何をするのかすらわからぬのでは、答えようがないのじゃ」


 いきなり問われ、俺とローズは困惑の言葉を返す。いくらゴレミの父親……でいいのか? の頼みとはいえ、何をするのか、させられるのかもわからない状況で白紙手形は流石に切れない。


 そしてそんな俺達の気持ちを、すぐに理解したのだろう。エフメル……さんが苦笑しながら言葉を続ける。


「ああ、そりゃそうだね。ならまずは、我等の『目的』を話しておこうか。我々が目指しているのは……ズバリ『完全な人』を作ることだ」


「完全な人? あー、どっかで聞いたような……?」


「以前にフラム兄様から聞いた、オーバード帝国の建国理由なのじゃ!」


「あっ!?」


 ローズの言葉に、俺の脳内にもフラム様から聞かされた話が浮かんでくる。謎の容器に浮かぶ赤ん坊、クリスエイドのなれの果て……色んな意味で強烈な印象が残っており、思わず軽く顔をしかめてしまう。


 するとそれを見たエフメルさんが、微妙に困ったような表情を浮かべた。


「あれ? 何か反応が悪いね?」


「いや、『完全な人』っていうのに、あんまりいい思い出がなくて……」


「というか、それが目的ならフラム兄様にでも協力を申し出た方がいいのではないのじゃ?」


「いやいや、それは無理なんだよ。オーバード帝国で行われている研究と我々の目指すものは、方向性がちょっと違っててね。そもそもそれが理由で袂を分かった助手が建国したのがオーバードだから、あちらの研究成果をもらっても……」


「なんと!? ではその助手殿が妾達のご先祖様なのじゃ!?」


「そう言えば、あそこにある魔導具は全部初代皇帝が持ってきたとか言ってたもんな。なるほどそういう……」


 そう言われてみると、確かにゴレミが入っていたこの魔導具は、オーバードにあった魔導具に似ている気がする。だがそんな俺達の言葉に、エフメルさんが首を横に振る。


「いや、彼がそのまま皇帝になったわけじゃなく、あくまでも皇帝を補佐するような立場だったはずだよ。何せ皇帝になんてなったら、忙しくて研究が続けられなくなっちゃうからね」


「あー、それは確かにそうなのじゃ。陛下はいつも忙しそうなのじゃ」


「ふーん、そんなもんなのか」


 俺には王様とか皇帝なんてのは椅子に座ってふんぞり返ってるイメージしかねーが、皇女であるローズがそう言うならそうなんだろう。


「じゃあエフメルさんの言う『完全な人』は、オーバードのそれとどう違うんです?」


「それは……少し長い話になるから、移動しようか」


 そう言うと、エフメルさんがパチンと指を……指を…………?


「あ、あれ? 鳴らないな?」


「はぁ……そういうところが凄く父ちゃんなのデス。アルフィア姉ちゃん、頼むデス」


「わかりました。転送先は応接室でいいですか?」


「ああ、頼むよアルフィア」


「了解しました。プライベートキーを使用してゲートを接続……さ、どうぞ」


「ありがとうアルフィア。それじゃ君達、行こうか」


「あ、はい」


 エフメルさんに促され、俺達は出現した黒い渦に入る。するとその先は簡素ながらも落ち着いた小部屋になっており、俺とローズは言われるままに席に着く。


「じゃあアルフィア。悪いけどお茶を……あれ? アルフィアは?」


「姉ちゃんはまだ自力で動けないデスから、あのままデスよ?」


「えっ!? そ、それは…………大丈夫、かな?」


「多分あとで滅茶苦茶拗ねられるのデス。頑張ってフォローするといいデス。ということで、お茶はゴレミが入れるデス」


「あっ、ちょっ!? うぅ、何で先に言ってくれないんだろう……」


 既に黒い渦は消えてしまっているため、今更さっきの場所に戻ることもできないんだろう。席を立つゴレミの背を悲しげな目で見つめるエフメルさんに、俺とローズも何とも言えない気持ちになる。


「何じゃろう。凄くいたたまれない気持ちなのじゃ」


「ゴレミも言ってやりゃいいのに……いや、それともゴレミなりの意趣返しとかなのか?」


「そんな意地悪なことはしないのデスー! マスターとイチャイチャラブラブしてた姉ちゃんに嫉妬したなんてことは絶対にないのデス! はいマスター、ローズ、どうぞデス」


「全部自分で言ってるじゃん……ありがとよ。あとそれ酷い言い掛かりだからな?」


「妾はゴレミより兄も姉も多いのじゃが、そういう喧嘩のできる相手はいなかったのじゃ。正直ちょっと羨ましいのじゃ……ありがとうなのじゃ」


「はい、父ちゃんの分なのデス。ほら、しょぼくれてないでさっさと話を始めるデス」


「ありがとうイリス……いや、今はゴレミだね。あれ? ゴレミの分はないのかい?」


「今の状態だと飲食はできないデス」


「あ、そうか。ならゴレミもアルフィアみたいに、覚醒後のボディを模した新しい体を作ってもいいかもね。でもそうなると、クルト君の魔力じゃ維持できないかな?」


「その辺はまた後で考えるデス。それより父ちゃん、早く話を始めるデス!」


「おっと、すまない。歳を取るとすぐ話が横に逸れてしまってね。この前もガルマに話が長いと――」


「父ちゃん!」


「ゴホン、ゴホン。わかってるよ。それじゃ始めようか……悲しくもありきたりな、何処にでもある悲劇の話を」


 ゴレミに怒られ咳払いをして……そうしてエフメルさんが、湯気の立つお茶を遠い目で眺めながら話を始めた。

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