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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
最終章 歯車男と約束の君

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増える新装備

 さて、無事に一〇層を超えた俺達の探索は、その勢いに乗って加速……とはいかなかった。というのもフラム様からもらった地図が一〇層までだったからだ。


 勿論、ここが今の最終到達層というわけではなく、単純にこんな深くまで潜るつもりなんてなかったからもらってこなかっただけだ。探索の進んでいないダンジョンの地図は相応に価値のあるものだから、「あるだけ全部」なんて雑な要求はできねーからな。


 ということで、今までとっていた階段までの道のりをあえて逸れて探索し、一日の終わりに次の層の階段まで行くという方法はここで終わりとなった。今は普通に未知のダンジョンを探索し、階段を探して下に降りるという、ある意味当たり前な活動を続けている。


 それに伴い、「一日一層」という基本理念も崩れた。そりゃそうだ、だって毎回簡単に階段まで辿り着けるわけじゃねーからな。ごく稀に他のパーティが近くにいて、たまたま階段を使っていたりすると大まかな方角だけはわかったりするが、そんな幸運はそうあるものでもない。


 なので一層降りるのに数日かかったりするようになったが……まあそれも悪いことばかりではない。その分戦闘は重ねるから微妙に強くなっていってるし、探索範囲が増えるということは、必然的にお宝を見つける可能性も増えるということだからな。現に……


「ぬぉぉぉぉ! いくのじゃ、フレアウィップ!」


 <原初の星闇(コスモギア)>、第一三層。久しぶりに見つけた隠し宝箱の中にあったのは、真っ赤な宝石のついた指輪であった。いや、正確には宝石じゃなく、海でとれるサンゴ? とかいう石らしいが、俺には艶はあるけど透明度のない赤い石、くらいの違いしかわからん。


 まあ材質はいいんだ。重要なのはそれがローズにも使える魔法の発動体だったことで、そして今、ローズの指輪から伸びている炎の鞭がその成果である。


「ブモォォォ!?」


 燃え盛る鞭に撃たれ、真っ黒なオークが更に黒く焼き豚になる。いや、顔は豚でも体は人間っぽいから、比率的には焼き人間……うん、この表現はないな。とにかく燃える縄に巻き付かれ、その体があっという間に黒い霧に変わっていった。


「ローズも大分新しい魔法の扱いに慣れてきたデスね」


「だな。最初はどうなることかと思ったが」


 サンゴの指輪があってなお、ローズの魔法は前に飛ばなかった。それどころか少し前から、わずかながらも発動に時間がかかるというか、不安定になってきていたのだ。


 これはダンジョンに入ってすぐの時にゴレミが口にした懸念、即ち「ローズの魔法制御力はダンジョンの仕様で成長しない」というのが、一〇層のボス討伐による魔力のみの成長で顕在化し始めたからだと思われる。


 まあその辺は本人の努力とこの指輪のおかげでどうにかなったのだが、魔法を飛ばせないという事実は変わらない。だがそこで、ふと俺が思いついて助言したのがコレである。


「やはりクルトは凄いのじゃ! 前に飛ばぬなら前に伸ばせば(・・・・)よいなど、並の人間では到底思いつかぬのじゃ!」


「はっはっは、まあな!」


 褒めるローズに、俺はちょっとだけドヤ顔で笑う。


 発動体の指輪を身につけた事で、ローズはこれまで漠然と自分の前に発動させていた魔法を、指輪を起点として発動できるようになった。そこで思ったのだ。遠くに魔力を飛ばせないなら、近くから魔力を込め続けて、その効果範囲を伸ばせないか?


 それを実現したのがこの「フレアウィップ」の魔法だ。指輪から伸びる炎の鞭は強力無比であり、その射程は五メートルほどもある。遠距離攻撃としてはまだまだ心許ない距離だが、これまでの「手の届く範囲」から比べれば格段の進歩である。


「確かにこのやり方は、普通の魔法士なら絶対に思いつかないデス。思いつく意味がないデスし、思いついても実行できないのデス。


 ローズ、その鞭の維持にどのくらいの魔力を使ってるデス?」


「うむん? そうじゃな、普通のファイヤーボールの一〇〇発分くらいじゃろうか?」


「そんなのローズ以外には実用性皆無なのデス。でもだからこそ、ローズ専用魔法になったのデス」


「専用! ふふふ、専用……いい響きなのじゃ!」


「おーい、浮かれて振り回すのはいいけど、俺達を巻き込むなよ? ゴレミはまだしも、俺はそれに巻き込まれたら秒で死ぬからな?」


「そんなヘマはしないのじゃ! ほれ、このように……あっ!?」


「うおっ!? あっぶ!?」


 クネクネと曲がる鞭は素人目に見てもわかるくらい制御が難しいのだろう。手が滑ったとかではなく、本当に予期せぬうねり方をした炎の鞭が、俺の横を通り過ぎていく。


「ばっ!? おま、ふざけんなよ!? マジで死ぬからな!?」


「す、すまぬのじゃ……むぅ、やはり鞭は難しいのじゃ。これならせめて棒状にでも固まってくれた方が使いやすいのじゃが……」


「そのレベルまで魔力密度をあげたら、ゴレミでも溶けちゃうかも知れないデス。マスターはもれなく干からびるデス」


「勘弁してくれよ……」


 どうやら使いこなすには、まだまだ訓練が必要らしい。だが幸いにして時間はたっぷりある。ダンジョン内なら練習相手(・・・・)に事欠くこともねーし、ま、気長にやっていけばいいだろう。


 それにゴレミ、ローズと来たなら、次は俺の装備がくるかも知れない。そんな期待にこっそり胸を膨らませながら更に探索を続けていくのだが……


「何でだよ!?」


 一六層。軽い魔物部屋にあった宝箱からでてきたのは、ゴレミ用の防具……防具? とにかく敏捷性を増加する効果がついているとかいう、ゴーレム専用頭防具「ネコ耳カチューシャ」であった。


「うおっ!? びっくりしたのじゃ。クルトよ、何故突然叫んだのじゃ?」


「マスターはウサ耳の方がよかったデス?」


「そうじゃねーよ! 別にウサ耳だろうがネコ耳だろうがどっちでもいいけどさ。そうじゃなくて……ほら、順番っていうか、次は俺の番じゃね?」


「ああ、そういう……確かに順番と言えば順番じゃが、宝箱じゃからのぅ」


「それにマスター、仮にマスター用の剣とか出たら、取り替えるデス?」


「えっ!? それは…………?」


 言われて俺は、腰に下げた剣に視線を落とす。オヤカタさんに打ってもらったこの剣はもはや俺の体の一部といってもいいほどで、当然だが他の剣に変えるつもりはない。


「い、いや! でもほら、普通に防具が出てくる可能性もあるだろ?」


「それは確かにそうなのデス」


「では……そうじゃな、次にクルトが身につけられるような装備がでたら、それはクルトのものにするということでどうじゃ?」


「いいと思うデス。マスターもそれでいいデスか?」


「お、おぅ……何かごめんな?」


 あっさり認められると、アホな我が儘を言ったことが恥ずかしく感じられてしまう。するとゴレミが優しい笑みを浮かべて俺の背中をポンポンと叩いてくる。


「いいデスよ、マスター。ゴレミはいつだってマスターの味方なのデス! 子供みたいな我が儘だって笑顔で受け入れるのデス! おっぱいも揉ませてあげるのデス!」


「揉まねーよ!? 仮に揉んだら突き指するわ! ったく、くだらねーこと言いやがって……ほら、次いくぞ次!」


「はーいデス!」


「一体どんな装備が出るのかのぅ? 楽しみなのじゃ」


 二人の視線を感じながら、俺は不貞腐れたように歩き出す。なお次の宝箱に入っていたのは幻惑系の魔法を防止する頭部用魔導具「タヌキ耳カチューシャ」であり、ニマニマと笑う二人に見守られながら、真っ赤な顔でそれを頭につけさせられることになるのだが……それはもう少し先の話である。

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