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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第八章 歯車男と大異変

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目的の場所へ

「にしても、失敗か……何で駄目だったのかはわかったのか?」


 人間だろうがゴーレムだろうが、できないことはできない。それは当たり前のことなので、調査が上手くいかなかったことそのものを責めるつもりは最初からない。


 だが何故駄目だったのかという理由がわかるかどうかは大きな違いだ。故に問う俺に、ゴレミが頭を撫でられながら答える。


「使用されている回線の種類がマズかったのデス。このダンジョンの場合、層の隙間である階段部分には次の層のデフォルト設定がまとめて書き込まれているデス。


 一括で大量の情報を書き込むためにダウンロード用の帯域幅が広いので、ダンジョンコアから情報を引っ張り出すには都合がいいかと思ったのデスが、こっちから情報を要求するための権限がとても低かったのデス。


 なのでゴレミの処理能力では、通常と違う命令を割り込ませることができなかったのデス」


「お、おぅ。えーっと…………つまり、駄目だったってことだな?」


 何もわからないことがわかった俺に、ゴレミがクスクスと笑いながら頷く。


「そうデスね。階段部分から情報を引っ張り出すのは難しいと思うデス。<火吹き山(マウントマキア)>の時みたいに、何か特別なきっかけ……足がかりがあればもっと行けるとは思うのデスが」


「そっか。ならその足がかりとしてもっとも有力なのが、ゴレミが寝てたあの場所ってことでいいのか?」


「そうデス! あそこからならかなり深い情報まで探れるデス! それどころかこっちからダンジョンコアにアクセスして、異変を解決……までは無理でも、ちょっとくらいは緩和することすらできるかもデス!」


「よくわからぬが、何だか凄そうなのじゃ! それに妾もゴレミのいた場所を見てみたいのじゃ!」


「よし、わかった! なら当初の予定通り、このまま二層の探索に移る。時間は……まあ何とかなるだろ」


 出たら構造が変わるとわかっているのだから、当然ダンジョン内部に少しでも長く留まれるよう、水だの保存食だのの類いは多めに用意してある。


 それにそもそも、降りたところでまだ第二層。出てくる魔物も大した脅威ではねーし、一層のおそらく最短ルートも地図にあるから、帰るのは容易だ。


 なら普段はあまりやらない、ギリギリまで粘るという探索をやってみるのも悪くない。ただ問題があるとすれば……


「さて、それじゃまずは前に限定通路があった場所まで行きたいところだが……何処だ?」


 白紙の地図を片手に、俺はそう言って首を傾げる。ここだけ聞けばアホ丸出しの台詞ではあるが、構造も広さも全く違うのだから、以前の場所が何処だったかと言われてもわからないのだ。


「マスター、こうなる前の地図は持ってるデス?」


「ん? あるぞ。これだ」


「ちょっと借りるデス」


 俺が取り出した地図を受け取ると、ゴレミが白紙の……正確には階段の位置だけ書き込んだ地図を重ね合わせ、何やらクルクルと回し始める。


「こっちの座標がこっちで、縮尺がこうデスから…………乱数の範囲がこのくらい、となると…………わかったデス! 多分この辺なのデス!」


 満面の笑みを浮かべたゴレミが、そう言って白紙の地図の上に四カ所ほど指で突く。


「四カ所なのじゃ? しかも全部方向がバラバラなのじゃ」


「流石にこれ以上は絞れなかったデス。それとこの場所も絶対というわけじゃなく、あくまでも痕跡がある可能性がある……くらいなのデス」


「ははは、それでも目指す場所がわかっただけで十分だって! お手柄だぞ、ゴレミ」


「ふふー! お役に立てて嬉しいのデス!」


 俺が更にグリグリと頭を撫でると、ゴレミが嬉しそうに笑う。そうしてしばし頭を撫でてから、俺達はいよいよ第二層に足を踏み入れた。


「次のマッピング担当は妾なのじゃ! 頑張るのじゃ!」


「おう、頼むぜ。わかんねーことがあったらいつでも聞けよ? まあ俺もマッピング初心者だから、わかんねーことだらけだけどな!」


「それは自慢げに言うところではないのじゃ!? でも頼もしいのじゃ!」


「いざとなったらゴレミが補正するから、気楽にやってみるといいのデス」


「うむ! 二人共ありがとうなのじゃ!」


 マッピング道具一式を受け取ったローズが、ほぼ白紙の地図を見つめて手を動かし始める。最初は楽しげだった表情が徐々にしかめっ面に変わっていくが、マッピングは遊びではなく、仲間の命を預かる大事な役割なのだから当然だ。


 なので助けを求められたり、明らかにマズい失敗をしない限りは、俺もゴレミも手も口も出さない。ローズの仕事(せいちょう)をしっかりと見守りながら探索は続いていき……まずは最初の指定ポイントに辿り着いた。


「多分ここ? なのじゃ」


「了解。ゴレミ、どうだ?」


「少し調べてみるデス。周囲の警戒をお願いするデス」


「任せろ」


 そこにあったのはただの壁。歯車が嵌まりそうな穴も開いてねーし、ぱっと見だろうがじっくり見だろうが、周囲と何も変わりのない石壁だ。俺とローズが警戒するなか、壁に手を突いたゴレミが本物の石像になってしまったかのように……いや、最初から本物の石像ではあるんだが……無言で立ち尽くすこと、しばし。


「駄目デス。ここには何もないデス」


「そっか。んじゃ次だな」


「それなら向こうの方に行くのじゃ!」


 最初の当ては外れたらしい。だが残りはまだ三カ所もあるし、ガッカリするのは早すぎる。せっかくなので多少遠回りになったとしても未踏の部分を埋めながら歩いていき、辿り着いた二カ所目も外れ。次こそはと魔物を蹴散らし、曲がりくねる面倒な通路を抜けて辿り着いた三カ所目。


「……どうだ?」


 俺の目には、ここもまた今までと同じただの石壁にしか見えない。なので期待し過ぎないように軽い感じて問うてみたのだが、こちらに顔を向けたゴレミが壁から手を離してニヤリと笑う。


「あったデス! ほんのちょっとデスけど、痕跡が残ってるデス!」


「うぉぉ、本当なのじゃ!?」


「マジか!? でも歯車を嵌める穴とか開いてねーぞ?」


「勿論、ちゃんとした『限定通路』としては機能してないデス。ただ『石壁』というのは情報量が凄く少ないデスから、上書きされても『限定通路』の設定情報が大分残ってるのデス。これなら時間をかければ……マスター、ローズ、もうちょっと守ってもらってもいいデス?」


「当然! なあローズ?」


「無論なのじゃ! 一〇〇年だって守ってみせるのじゃ!」


「ふふっ、それは頼もしいデス。それじゃちょっと頑張ってくるデス!」


 やる気を漲らせるローズの言葉に、ゴレミが改めて集中し始める。既にこれも三回……いや、階段も入れると四回目か? ということで特に何か問題が起きるということもなく、淡々と時間だけが過ぎていったわけだが……


ビーッ! ビーッ!


『ダンジョン管理システムに、不正なアクセスが検出されました。対象のスキャン開始……人間二人、および不正な登録コードを持つゴーレムの存在を確認。対象を排除するため、最低濃度で「くらやみのしずく」を投下します』


「な、何じゃ!?」


「おいおい、どっかで聞いた覚えのある内容なんだが……!?」


 何処からともなく鳴り響くけたたましい音と、何処かで聞き覚えのある警告の言葉。それに伴い近くの天井から夜の闇よりなお黒い水滴が滲んで垂れ落ち、床に零れるとそれらが魔物の形を成していく。


「「「グギャァァァァァァァ!!!」」」


「ぬぉぉ、黒い魔物が沢山なのじゃ!」


「上等! ちょうど退屈してたところだからな!」


 守るべき者を背に、俺はニヤリと笑って腰の剣を引き抜いた。

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