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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第七章 歯車男と夜の雪

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出会った奇跡と過ごした軌跡

「うへへへへ……いいな…………うへへへへ……うっ、頭が……」


「マスター、はしゃぎすぎなのデス! まだパーティが始まってもいないのに、今倒れたらあまりにもしょぼくれすぎなのデス!」


「わ、わかってるよ……」


 嬉しくて何度も剣を振ったり変形させたりした結果、ちょっと魔力が切れてきてふらっとなった俺に、ゴレミが呆れたような声をかけてくる。


 わかってる、わかってるんだ。わかってるんだが……うへへへへ……


「うわー、もの凄く気持ち悪い顔で笑ってるわね……」


「まったく仕方のない奴なのじゃ。まあ気持ちはわかるのじゃが」


「そこまで喜ばれるなら、オレとしても作った甲斐があったというものだ。ちなみに、その剣にはまだ他にも機能があるんだが……」


「え、こんなスゲーのに、まだ何かあるんですか!? 一体どんな!?」


 勢い込んで問う俺に、しかしオヤカタさんは髭ごと首を横に振る。


「それは教えられん。いや、教えることはできるが、今のお前がそれを聞いても、おそらく頭で理解するだけで終わってしまうだろう。それでは真の力が引き出せん。


 だから使い方は、お前が自分で探せ。その力が本当に必要になった時には、きっとわかる。いい武器というのはそういうものだからな」


「おぉぅ……わ、わかりました」


 何となく深い感じのする台詞に、俺は感嘆の声と共に頷く。とはいえ教えるだけ教えてくれよという気持ちもなくはないのだが、ここでそれを言い出すのはあまりに空気が読めなすぎだしな。


「ほらほら、それよりもういいでしょ! アタシ待ちくたびれてお腹がペコペコなんだけど!」


 と、そこで遂に我慢の限界を迎えたらしいフレデリカが騒ぎ出す。まあ確かに、袋に入ったままとはいえ、部屋の隅にご馳走を置いたまま話をし続けるのはそろそろ限界だろう。


「ははは、わかったよ。なら続きは食いながらにするか」


 正確な時間はわからねーが、ゴレミが街まで行って料理を持って帰ってきているのだから、おそらくダンジョンの外ではそろそろ日が落ちるくらいの頃だろう。なら飯を食うのに早すぎるってのはないはずだ。


「では、早速準備をするのじゃ!」


「ふふふ、今夜はパーティーナイトなのデス!」


 ということで、俺達は手分けしてゴレミの持ってきた料理を袋から出し、テーブルだけでは全く足りないため、その辺にあるちょっとした台座なんかもフル活用して所狭しと料理を並べていく。その作業が終わると、目の前に広がるのは圧巻の光景だ。


「いやー、こうして見るとマジで大量に買ってきたな」


「ゴレミが体より大きい荷物を運んできた時はビックリしたのじゃ」


「今日のために選りすぐりの料理を選んだのデス! 冷めても美味しいものだけじゃなく、簡単に温め直せる料理や、スープなんかもてんこ盛りなのデス!」


「うぅぅ、もう待ちきれないわ! ねえ、まだ? まだ食べちゃ駄目なの?」


「落ち着けフレデリカ。さっきは料理より帰る方を優先していたじゃないか」


「さっきはさっきでしょ! オヤカタの意地悪! 髭引っ張っちゃうから!」


「はっはっは」


 怒ったフレデリカがぎゅーっとオヤカタの髭を引っ張ったが、オヤカタは痛がるそぶりを全く見せない。話では聞いていたが、どうやらあの髭は本当に強靱なようだ。


「それじゃスープや料理も温め直し終わったデスし、そろそろパーティを始めるデス! マスター、一言挨拶をお願いするデス!」


「え、俺か!? えっと……いや、本当に俺か!?」


 俺に挨拶と言われても、オヤカタさんに「剣をありがとうございます」くらいしか言うことがない。


「ふふふ、クルトよ。ここはリーダーとしていい感じの言葉を期待しておるのじゃ!」


「ローズまで!?」


 だが、逃げ道は塞がれているらしい。なので俺は観念して、これまでの日々を思い出していく。


「俺達がこのノースフィールドに来てから、一ヶ月くらいか? まあその半分はここで過ごしてるわけだが……一ヶ月とは思えないくらい色々あったな。ソエラさんの話にローズがビビりまくったり、マフラーのチクチクを嫌がったり、魔法を暴発させて下着を燃やし尽くしたり……」


「ちょっ、ちょっ、ちょっ!? 何で妾の恥ずかしいところばっかり話すのじゃ!? もっと他にも色々あったはずなのじゃ!」


「ははは、そうだな。協力技のヒート歯車ストライクを使ってみたり、スノーウルフ相手に勇敢に立ち回ったりしたよな。でもほら、思い出話ってのは……そっちの方が面白いだろ?」


「むぅぅ、理解はできるが納得はできぬのじゃ……」


「大丈夫なのデス。今はゴレミが予備の下着を持ち歩いているのデス。もう誰にもローズをノーパン皇女なんて呼ばせないのデス」


「今まで誰にもそんな風には呼ばれておらぬのじゃ! 風評被害も甚だしいのじゃー!」


「ほらほら、落ち着けって。で、まあそんな風に探索をしているときに、不意に誰かが助けを呼ぶ声が聞こえた。俺達がそっちに向かうと、フレデリカがスノーウルフに襲われてたんだよなぁ」


「うっ! そんなこともあったわね……ち、違うわよ! いつもはそんなヘマしないんだから! あの時も言ったけど、漸くエルフの気配を見つけて、ちょっと浮かれてただけなんだから!」


「そうかそうか。でもそのおかげで、俺達は出会えた。そうしてここにやってきて、オヤカタさんとも出会って……そう言えば、最初は魔物と勘違いしちゃいましたよね。申し訳ないです」


「……いや、いい。まあ確かに、オレの見た目は人間とはちょっと違うだろうしな」


「そうじゃな。髭を伸ばしておる者はおるが、そこまで伸びた者は見たことがないのじゃ」


「まあとにかく、そんな誤解や行き違いから始まった俺達だったけど……気づけば半月、ずっと一緒に暮らしてきた。特別な何かをしたってわけじゃねーけど、でもそれなりに仲良くなれたと思う。


 だが、それも今日で終わりだ。明日にはフレデリカが、仲間のところに帰る」


「……………………」


 俺の言葉に、いつも元気なフレデリカがしゅんと羽を垂れ下がらせる。俺はそんなフレデリカをそっと掴むと、自分の肩の上に乗せた。


「そんな顔すんなよ。出会いがあれば別れもあるし……何よりお前は、ずっと離ればなれになっちまった仲間と再会できるんだろ? なら俺達やオヤカタさんとだって、また再会できるかも知れねーんだし」


「そ、そうよね! 今はお別れだけど、でもまた会えるわよね!」


「きっとな。つーか、空飛べるんだからそっちから会いに来りゃいいじゃねーか。そんときはまた、今日みたいなご馳走で歓迎してやるからさ」


「ホント!? 約束よ? 絶対だからね!」


「マスター、本当にいいデス? 今日のこれ、三〇万クレドくらいかかってるデスよ?」


「ヒュッ……さ、さんじゅうまん?」


 こっそりと話しかけてきたゴレミの言葉に、俺は思わず息を飲む。そりゃこんだけの料理を用意するには大分金がかかってるだろうとは思っていたが、まさかそんなにかかっていたとは……!?


「……お、男に二言はねぇ! やってやろうじゃねーか!」


「やったー! それじゃ次は友達も全員連れてくるから、この三倍……ううん、五倍くらい用意してよね!」


「ごばい…………ぐ、あ…………あー! 任せとけ!」


 目をキラキラさせて言うフレデリカに、俺は勢いで見栄を張った。横でゴレミとローズが呆れたような顔をしているが、特殊な魔導具がなければ行けないような場所に帰る友に対し、ここでけち臭いことなんて言えるわけがない。


 が、これ以上話を続けて、更なる約束を増やされるのがよくないことは理解した。なので俺はテーブルの上に置かれていた木製のジョッキを高々とあげ、挨拶の終わりとパーティの始まりを宣言すべく声をあげる。


「というわけだから、乾杯!」


「流れが突然過ぎるのじゃ!? か、乾杯なのじゃ!」


「かんぱーい、デス!」


「みんなにアンタ達を紹介するのが、今から楽しみね! かんぱーい!」


「……乾杯」


 それに合わせて全員がジョッキを突き上げ……なおフレデリカのものは、オヤカタさんのお手製だ……こうして俺達全員が過ごす最後の夜が、賑やかに始まった。

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