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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第七章 歯車男と夜の雪

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温もりの誘惑

「ハッハー! どうよ?」


「うむ、よく似合っておるのじゃ!」


「マスターがモッフモフになったデス!」


 店の外。買ったばかりの新装備でポーズを決める俺に、ローズとゴレミが賞賛の拍手をしてくれる。外だというのにちっとも寒くないあたり、流石は寒冷地用の装備ということだろう。


「やはりそのコートは暖かそうなのじゃ。それに手触りも凄くいいのじゃ!」


「だろ? いいよなこれ」


 すべすべツルツルとした毛皮の感触にローズがうっとりと手を滑らせるので、俺もまた同じように触ってみる。こいつはシルバースノーウルフという「シルバーかスノーのどっちかだけでもよくないか?」という名前をした魔物狼の毛皮だ。その名の通り雪のように白い表面には輝く艶があり、滑らかな肌触りは俺の短い人生では縁の無かった高級品の雰囲気をこれでもかと醸し出している。


 ちなみに、こいつの裏にはホワイトベアという名前そのままのシロクマの魔物の皮を合わせて貼り付けてあるとのことで、耐久性はかなり高いらしい。ただ通気性は悪く、そのおかげで暖かい反面、蒸れるという欠点がある。


 しかしそれを逆手に取ったのが、鎧の下に来ているインナーシャツとパンツだ。ぱっと見は普通のシャツとパンツだったんだが、どうやらこいつは汗……というか水分を吸うと発熱するという効果があるらしい。それによって本来なら蒸れて汗を掻くことで体が冷えるという悪循環を、汗を掻くことで更に温めるという防寒対策に昇華しているのだ。


 勿論ぐっしょりと濡れるほどまでいったら普通に冷えるらしいが、実に画期的な素材だ。キノコか何かの繊維を元にしているらしく、下着にしてはかなり高価だったが、おかげで今、俺の体は大分温かい。


 魔導具や魔法付与による「耐寒」ではなく、あくまで素材の持つ防寒性能であるため過信はできねーが、ダンジョン序盤くらいならこれで十分だといわれたので、ひとまずはそれを信じた形だ。あとはもう実際にダンジョンに潜ってみて、その感触を確かめてみるしかないだろう。


「じゃが正直、妾はクルトがずっと見ていたあの鎧の方を買うと思っていたのじゃ。本当にこっちでよかったのじゃ?」


「うん? あー、まあな」


 コートから手を離したローズに問われ、俺は苦笑しながら答える。「耐寒」の付与が為された金属鎧は確かに防具としては最高のできだったが、あれを選べなかった理由は幾つもある。


「流石にあれは高すぎるだろ。フラム様から貰った金を全部吐き出せばそりゃ買えるけど、手入れにだって金もかかるし……何より俺達みたいなのがあんなピカピカの鎧着てたら、ぜってー悪目立ちするって。


 アルトラ聖国の時みたいに変なのに付きまとわれるのは、ローズだって嫌だろ?」


「うぐっ!? あれは確かに面倒だったのじゃ……」


 俺の言葉に、ローズが露骨に顔をしかめる。探索者としての経歴も一年を超え、俺も一七歳になりはしたが、世間的にはまだまだ新人、ガキ扱いだ。そんな奴が何千万クレドもするような金属鎧を身につけてこれ見よがしに歩いていたら? 騙して金を奪おうとする奴、すり寄って甘い汁を吸おうとする奴、色んな奴が纏わり付いてくるのが目に見えている。


 それにそこまでの金額となると、殺してでも奪い取ろうとする輩すらいるかも知れない。そんな見えてる罠を踏むつもりはこれっぽっちもないというのも、買い換えではなく買い増しで対応した理由の一つなのだ。


「まあ正直、これだって結構な値がしたけど、流石にこれ以上は妥協できねーしな。地元の新人が使ってるみてーな日常の延長にある防寒着に命を預けるのは、いくら何でも怖すぎる」


「そうデスね。そもそもそういう新人は大ダンジョンになんて潜らないのデス。地元の小ダンジョンでお金を貯めてしっかりした装備を調えてから大ダンジョンに行くデス。でもそこまで模倣するのは流石に遠回り過ぎるのデス」


「だな。だからまあ、この辺が落とし所って考えたんだよ」


「なるほど、よくわかったのじゃ!」


「そりゃよかった……てか、ローズの方こそ平気なのか?」


 笑顔で頷くローズの姿を見て、今度は俺がそう問い返す。ローズの腕には新調した耐寒の魔導具の腕輪が嵌まっているが、服はいつものドレスのままだ。ヒラヒラしたスカートから覗く足は、見ているこっちの方が寒くなりそうだ。


「うむ? 勿論平気なのじゃ。ただクルトとは違って『暖かい』のではなく、『寒くない』じゃから、風情はないのじゃが」


「風情ねぇ……寒くないならその方がいいんじゃねーか?」


「むぅ、クルトはわかっておらぬのじゃ! 暑さや寒さを感じるというのも、それはそれで一つの楽しみなのじゃぞ!」


「そうデスよ、マスター! 真夏に冷房をガンガン効かせた部屋で熱々のうどんを食べたり、真冬に炬燵に潜り込みながらアイスを食べるのが至福なのデス! 季節感は重要なのデス!」


「お、おぅ? わ、悪かったよ。よくわかんねーけど」


 何故か二人に詰め寄られ、俺は思わず一歩後ずさる。今ひとつピンとこないが、どうも俺の方が分が悪いらしいのでひとまず謝っておくと、ゴレミが「まったくマスターは……」などと軽く不貞腐れたような声を出しながら、なんちゃってメイド服の内ポケットから、何だか見覚えのある青いリボンを取り出して頭につけた。


「あれ? それひょっとして、俺が前にやったリボンか?」


「そうデスよ。せっかくマスターがキャラデザを更新したので、ゴレミもお洒落番長に返り咲きなのデス!」


「きゃらでざ……? てか、それまだ持ってたんだな。てっきり駄目になって捨てちまったのかと思ってたけど」


 いつだかは覚えてねーが、ゴレミが着けていたピンクのリボンは、割とすぐに駄目になってしまっていたような気がする。それに合わせて青いリボンもつけなくなっていたので、てっきり一緒に駄目になって捨てちまっていたのかと思っていたんだが……そんな俺の言葉に、ゴレミが強い口調で抗議してくる。


「マスターからの贈り物を捨てるわけがないのデス! 今までは駄目になりそうだったので大事に大事にしまっておいたデスけど、今日からはまたつけ始めるのデス!」


「ほーん。そりゃいいけど、何で急に?」


「ふっふっふ、その理由は、ゴレミとマスターの愛が膨れ上がったことで、リボンに『不壊』の属性が付いたからなのデス!」


「……不快? え、何それ。臭くなっちゃったとかか?」


「その『不快』じゃないのデス! 壊れない方の『不壊』なのデス!」


「あー、そっちか……って、は!? え、嘘だろ、『不壊』!?」


 不壊とは、読んで字の如く壊れないということだ。ダンジョンから発見される魔導具のなかには、時々それを付与されたものが発見されるらしい。なお「らしい」というのは、俺はそんなもの見たことがないからだ。


 だってそうだろ? 何をしても壊れないなんて、それがどんなものであろうととんでもない効果だ。ダンジョンの深層で見つかるような魔導具にしか発現しない効果らしいので、それを見る機会なんてなかったわけだが……それが何で俺の買った安物のリボンに?


「マジか? 何で!? てか、何でそんな事わかるんだよ!?」


「それは勿論、ゴレミのラブセンサーがビンビンに感じ取ったからなのデス! あ、でも、実際に壊れないか試してみるとかは絶対にノゥ! なのデス!」


「そ、そうか……いや、別にいいけど」


 俺としても、自分が贈った贈り物を「本当に壊れないか試してみよーぜ?」と剣で斬ってみるような趣味はない。もしそれでスパッと斬れちゃったりしたら、一生心に傷を負いそうな気がするしな。


「ほーら、ローズ。ゴレミのリボンとローズの腕輪がおそろっちなのデス! マスターからのプレゼントで、色も同じなのデス!」


「うむ、そうじゃな。お揃いは素敵なのじゃ!」


「「ねー!」」


「…………ははっ」


 顔を見合わせ声を揃える二人に、俺も釣られて小さく笑う。ゴレミとローズが楽しそうなら、本当に不壊属性なんてもんが付与されてるのかどうかなんて些細なことだ。


「さて、と。装備も揃え終わったし、今日はそろそろ宿を取って休むとするか。で、明日からはいよいよ新しいダンジョンだ!」


「むぅぅ、妾はまだちょっと怖いのじゃ」


「なら今日はゴレミと一緒に寝るデス? 今ならマスターもついてくるデスよ?」


「何で俺が!? 普通にゴレミがローズの部屋に行けばいいんじゃねーか?」


「それだとマスターが寂しくて死んでしまうのデス! 凍えるマスターを優しく抱きしめるのはゴレミの義務で特権なのデス!」


「別にそんなの頼んで――」


「あと、ゴレミの体はじんわり温かいですから、寒い夜にお布団に入れておくと大分幸せ指数があがると思うデス」


「…………まあ、別にいいけど?」


「むぅ。この歳で男女の同衾は……いやしかし、ほかほかの布団は魅力的過ぎるのじゃ……」


「ふふふ、ゴレミハーレム再結成なのデス! オフトゥンは木の葉にて最強なのデス! マスター、ローズ、続くデス!」


「はいはい。ったく、しょうがねーなぁ」


「何故木の葉なのじゃ……?」


 ハイテンションに叫ぶゴレミを先頭に、俺達はそうしてソエラさんから教えられていた宿に向かって歩き始めるのだった。

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