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底辺歯車探索者 ~人生を決める大事な場面でよろけたら、希少な(強いとは言ってない)スキルを押しつけられました~  作者: 日之浦 拓
第五章 歯車男と森の王

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贈り物

「すーっ……ふぅぅ…………」


 俺達二人を背後に従え、一人先頭にたたずむローズが静かに深呼吸をする。周囲に潜んでいるであろうピンキーモンキーの姿は、背後に控える俺にも見えない。


 だが、敵は間違いなく何処かにいる。何故ならダンジョンの魔物は逃げないからだ。どれだけ深手を負おうと、仲間を全滅させられようと、奴らは逃げない。逃げるという思考を、ダンジョンに奪われている。


 故に今も、ローズは狙われている。張り詰めた静寂のなか、遂にカサリと音がした次の瞬間。


「そこじゃ!」


「ウキー!」


 ローズが指摘したのとはまったく別の場所から姿を現したピンキーモンキーが、その手に持った石を思い切り投げつけてくる。だがその石はローズの周囲に張り巡らされた見えない壁を滑るかのように軌道を変えると、そのまま背後に流されてポトリと落ちた。


「ぬあーっ! また外れたのじゃ!」


「ウッキキー!」


「ムカつくのじゃ! ムカつくのじゃ! えーい、もう一回なのじゃー!」


 ピンキーモンキーの位置を特定するのに失敗したローズが地団駄を踏むと、それを嘲笑うかのように頭の上で両手を打ち鳴らしたピンキーモンキーが再び森に姿を隠す。


 これで連続七回ハズレ。そんなローズの胸元には、菱形に削られた緑色の魔石のはまった、こじゃれたネックレスがぶら下がっていた。





「ふふふ、ローズは随分張り切ってるデスね」


「だな。いくら頑張ってもそんな簡単に目を養うのは無理だって言ったんだが……まあやる気があるのはいいことだしな」


 結局、俺はローズの為に「ウィンドベール」の魔導具を買った。おかげで財布は浮き上がりそうなほど軽くなったが、後悔はない。最初は遠慮していたローズも、いざ品物を受け取れば喜び勇んで身につけて、今はこうして特訓を繰り返している。


 で、俺達はそれを少し離れたところで見守っているというわけだ。ここならもし魔物の気が変わって直接襲いかかってきてもすぐに倒せるので安心というわけだ。


「でもマスター、本当によかったデス? あの魔導具のお金、マスターの個人資金からも出したデスよね?」


「うげっ!? な、何でそれを!?」


 実際のところ、金なんてなくなったところで大した問題ではない。借金までいくと別だが、そもそも一年前の俺は金なんて全然持ってなかったのだ。


 だが今の俺はどうかと言えば、当時とは比べものにならない装備を身につけ、ゴレミやローズという仲間もできた。これだけ揃ってりゃもう一度金を稼ぐなんてむしろ楽勝。


 なのでローズの安全の方を選んで購入を決断したわけだが、流石に明日の宿代すら怪しいという状況は看過できない。そこで俺はパーティ資金とは別の俺の個人資金からいくらかの金を出したのだが……まさかそれがばれていただと!?


「マスターの態度を見てれば一目瞭然デス。マスターはその手の嘘にこれっぽっちも向いてないデス。浮気とかしたら秒でばれるやつデス」


「ぐっ……ま、待て。じゃあひょっとして、ローズにも……?」


 浮気なんてするつもりはない……というかそもそも恋人がいない……のでそれはどうでもいいが、ローズにまで知られていたとしたら問題だ。一縷の望みをかけて問う俺に、しかしゴレミは無慈悲な答えを口にする。


「そりゃあもうバレバレデス。だからあんなに遠慮してたデス」


「ぬあーっ!?」


 その言葉に、俺は思わず天を仰ぐ。くっ、リーダーとしてさりげなく行動したつもりだったのに、まさかそんなことになっていたとは……っ!


「というか、そもそもパーティ資金は全員で共有してるお金なのデスから、万単位で金額が合わなかったらすぐにわかるデス。これでばれないと思う方がおかしいのデス」


「うぐっ!? ま、まあ、それは……」


「マスターは本当に、そういう肝心なところが抜けてるデス。スポスポでスカスカなのデス」


「……………………」


 生暖かい目を向けてくるゴレミに、俺はもはや何も言えない。ちなみに自分のものなのにローズ自身が金を出さなかったのは、先日の貴族騒動の際にローズが自分の金を使って色々とやってくれていたらしく、ローズの個人資金がすっからかんだったからだ。


 そう、ローズもまた俺達のために自分の金を使ってくれた。なら俺だってローズのために自分の金を使うことを躊躇うつもりなどない。ただ今回のことがなければローズはそれを言うつもりがなかったようで、だから俺も何も言わずに仲間のために……と思ったのだが、どうやら完全に隠しきっていたローズと違い、俺の方は随分とマヌケを晒していたようだ。


「なんだよ、全部バレバレだったのか。じゃ、これもいいか。ほれ」


「え、何デスか?」


 小さく息を吐いてから、俺は腰の鞄から小さな青いリボンを取り出し、ゴレミに渡す。以前に女性冒険者がゴレミに贈り、今もその頭にピタッとくっつけてるやつの色違いだ。


「リボン……?」


「いや、探索に必要な装備ではあるんだが、それでもローズにだけ買うってのは何かバランス悪いだろ? だからそれはゴレミにだ。


 あー、言っとくけど安物だからな! 流石に同等の価値がある魔導具を買ってやれるほど、俺の懐は深くねーからな」


「ゴレミに……マスターが…………っ」


 あえて適当な感じで言う俺に、しかしゴレミは大きく目を見開いて、俺の渡したリボンを大事そうに両手で胸に抱え込んでしまう。その大げさな反応に、俺の中で何故か罪悪感のようなものが持ち上がってくる。


「お、おい、それ本当に安物だからな! そんな大層な感じのやつじゃねーぞ!?」


「金額なんてどうでもいいのデス。マスターがこれをゴレミにくれたという、その事実こそが何よりも尊いのデス」


「いやいやいやいや重い重い! 違うから! ほんとそんな、大したもんじゃねーから! あー、くそっ、何だ? もっと何か、ちゃんとしたもんをやった方がよかったのか?」


「そんなことないデス! これより凄いお宝なんて、世界中探したってないのデス!」


「勘弁してくれ! そんな安物、ぜってーすぐボロボロになるし!」


「確かに、この世に存在する全ての物は、いつか壊れてなくなってしまうデス。でも、それでも、たとえこのリボンが失われてしまったとしても、マスターがこれをゴレミに贈ってくれたことがなくなったりはしないのデス!


 ほらほら、そんなことよりマスター。これをゴレミにつけて欲しいデス!」


「え、俺がつけるのか?」


「そうデス! マスターが一番いいと思うところにつけて欲しいデス! ちなみに左の内もも辺りが、マスターがチラ見するのに一番お勧めのスポットデス!」


「んなとこにつけねーよ! ったく。なら…………これでどうだ?」


 俺は差し出されたリボンを受け取り、ゴレミの頭につけてやる。右側にはピンクのリボンがついているので、左側だ。メイド服も青いので逆にピンクのリボンが浮いてしまっている感じだが……まあ俺がお洒落を語ってもいいことは何もないので、あとはゴレミ自身の美意識に任せることにしよう。


「やった! 漸く当たったのじゃ! おーいクルト、ゴレミ! 遂にピンキーモンキーの位置を当ててやったのじゃ!」


「ムギャギャギャギャー!?」


 と、そこで遂にピンキーモンキーが石を投げてくる場所を当てられたらしいローズが、喜び勇んで声をあげながらこっちに駆けてくる。その背後ではピンキーモンキーが燃えており……どうやら怒ってローズに駆け寄ったところを、フレアトラップで燃やされたようだ。


「おぉぅ、派手に燃えてんなぁ……って、ローズ! とどめも刺さねーで放置したら危ねーだろ!」


「それはそうじゃが、妾ではとどめが刺せぬのじゃ。悪いが二人のどちらかが……ぬ? ゴレミよ、そのリボンはどうしたのじゃ?」


「にゅふふふふ……これはマスターからのプレゼントなのデス! お洒落番長ゴレミのお洒落指数が二万とんで七九あがったのデス!」


「とんでもない上がり幅じゃな!? しかしクルトが……そうか、それなら納得なのじゃ」


 よくわからん数字をあげてクルリと一回転するゴレミに、ローズがうんうんと納得の意を示す。え、お洒落指数って共通概念のある数字なのか? わからん、俺にはまったくわからん。


「まあいいや。じゃ、俺は敵にとどめを――」


「マスター!」


 燃えるピンキーモンキーにとどめを刺しに行こうとする俺を、ゴレミが呼び止める。振り返った先にいたのは、月のように静かな佇まいに、太陽よりも輝く喜びを溢れさせた石娘。


「今日この日この時のことを、ゴレミは絶対に忘れないデス。いつまでも、どんな姿になっても。


 だからマスター、以前にも言ったことを今回も、何度だって言うデス。ワタシは……ゴレミは世界一幸せなゴーレムなのデス!」


「フッ、そうか」


 満面の笑みでそう言うゴレミから顔を逸らし、俺はそのまま魔物の方に移動していく。喜んでくれるのは嬉しいんだが、そこまで喜ばれたら照れくさくてしかたねーっていうか……はは。


「ああ、俺もお前に会えて幸せだよ」


 決して本人には聞こえないように小さな声でそう呟くと、俺は改めて燃えているピンキーモンキーに向かって剣を引き抜くのだった。

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