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第28話 小手調べ

「これは、いったい……。

 いったい、何が起こっているの?」


 ネンマー・ジャンツ・ボ・ラクジタカは、全世界儀を前に、呆然と呟いた。

 たしかに、報告では星が、世界が食べられるとは聞いていた。しかし、実際に自身の目でその光景を見てみると悪い夢だとしか思えなかった。


 明らかに異常な星が動き回っていた。その巨大な星は、目があり、口があり、身体に比べて小さな手足がにょきっと生えていた。巨大な星は転がりながら移動しており、たまに小腹が空いたのか、近くにある星を手に取り、ポリポリと星を食べている。


 全世界儀を前にしたラクジタカの周りには多くの管理者たちが集まっていた。

 ある者は心配そうな表情を浮かべ、またある者はがっくりと肩を落とし、また別のものはどうやってあの星を駆逐するのだと喚いていた。


 そんな中、一人の管理者が現在までにわかっている状況をラクジタカに報告するために、ラクジタカの横へ並んだ。


「ラクジタカ様、あの怪星によって、食べられり、壊された星は3000におよびます。

 その内、管理者が管理していた星は31です。幸いというのもおかしいですが、知的生命体が発生するまで成熟した星や世界はありませんでした」


「3000……。こんな異常な星は、創世録にも記録されたことはありません。

 すべての世界儀の数に比べれば微々たる数ですが、はやくなんとかしなければ、手遅れになりそうですね」


 ラクジタカのつぶやきに、報告をしていた管理者は質問をする。


「手遅れですか?」


「ええ、見てみなさい。あの星を。

 星を食べるごとに少しずつ成長しています。

 このままのスピードで成長していくと、どれほどの恐るべき存在になるかわかりません」


 ラクジタカの言葉を聞いた管理者達は、静まりかえった。誰かがゴクリとつばを飲み込んだ音が辺りに響きわたる。


「あなたは、あの星がどこから来たのかを調べてください。

 全世界儀を使って、壊れたり、食べられた星がどの辺りから分布しているのか調べ、起点と思われる近くの世界や星を管理している管理者の元に確認に行ってください」


「はい! わかりました」


 ラクジタカは、頼みましたよと声をかけ、他の者達に視線を送る。


「他の者達は、私と一緒にあの星の討伐に当たってください。

 あと、ウインエヒ・ロクバイも招集をかけてください」

 

 その言葉を聞いた管理者達は、少しざわついた。


「ラクジタカ様、ウインエヒ・ロクバイとは、あの暴れ者の管理者をですか?

 大丈夫なのですか」


「ええ、ロクバイは、ある出来事をきっかけに変わりましたから。

 相手の強さがわからないことには、どれだけの戦力を用意すればいいのかわかりません。

 ここにいる者達だけで、一度、あの星がどの程度の強さなのか、一当てしてみましょう」


「「「はい!」」」


 ◆



 ラクジタカを筆頭に、管理者たちは全世界儀に手を向け、「入る」と念じた。

 ラクジタカと約80名の管理者達は、異常な星の前へと躍り出た。


「大きい」


 ラクジタカは、思わず呟いてしまった。全世界儀で見ていて、その大きさはわかっているつもりだったが、間近で見るとその大きさに押しつぶされそうになる。


 異常な星は、突然、現れた強い力を持った者達を警戒しつつ視線を向けた。

 そして、重々しく口を開いた。


『何者だ?』


 地の底から響き渡るようなその声を聞いただけで、数人の管理者は戦意を失いかける。

 しかし、ラクジタカは驚きつつも、異常な星に返答をした。


「はじめまして。私は、ネンマー・ジャンツ・ボ・ラクジタカと申します。

 管理者達のとりまとめをしている者です。星よ。星を壊したり食べたりすることはやめてください。

 世界のバランスが壊れます!」


『年末ジャンボ宝くじだと?

 変わった名前だな』


「いえ、ネンマー・ジャンツ・ボ・ラクジタカです」


『我は星を食べなければ生きていけないのだ。

 生きるためには食べるしかないだろう』


 ラクジタカの訂正を無視して、星はマイペースにしゃべり続ける。

 もしも、ここにニューメかトウアクイテがいたならば、星とラクジタカのやりとりにゴーレムの影を見たことだろう。


「どうしても、食べたり壊したりするのを止めてはもらえないのですか?」


 ラクジタカの問いかけに、星は静かに、そして厳かに頷いた。


『何かを犠牲にしながらでなければ、生きることができない。

 それが生きるということなのだ。感謝を捧げつつ、我はしっかりと生きていく』


「しかたありません。

 私たちもあなたを放置したままにはしておけないのです!

 恨みはありませんが、あなたにはここで消えていただきます!」


 星は目を閉じ、身体全体を左右に振った。

 どうやら、首がないために、身体を振るしかなかったようだ。


 星はカッと目を見開き、ラクジタカ達をにらみつける。

 そして、ふっと目を細め、自嘲気味に笑った。


『結局は、戦うことでしか、語り合うことができぬとは。哀しいものだ。

 しかし、戦うというので、あれば手加減はせぬぞ!』


 星は拳を握りしめ、足を肩幅に開き、大きく叫んだ!


『我は惑星なり!

 我を倒したくば、生命をかけてかかってこい!』



 ラクジタカたち管理者と、異常な星の戦いが始まった。



 ◆



『惑星パーンチ!』


 異常な星が巨大なこぶしを振るう。しかし、管理者たちが小さすぎて当たらない。


『惑星キーック!』


 異常な星が巨大な足を振るう。しかし、足が短すぎて届かない。さらにバランスを崩してこけてしまった。ラクジタカはその隙を逃さず、攻撃を繰り出す。出し惜しみは不要とばかりに、自身が持てる最大の攻撃を繰り出した。


「ボボンパ!」


 ラクジタカの手から、まばゆいばかりの光が星に向かって放たれる。

 星は、その攻撃を避けることもできず、大きな口を開けていたため、口の中にボボンパが直撃してしまった。ボボンパーという轟音が鳴り響き、巨大な煙が異常な星の口からモクモクと上がる。


 その光景を見たラクジタカは、どの程度のダメージを与えることができたのかを目を細めて観察する。周りの管理者達からは、さすがはラクジタカ様だと歓声が上がった。


 白目をむいていた星の目が、ぎょろりと黒目になった。星は目を輝かせながら、もぐもぐもぐと口を動かす。ラクジタカも他の管理者たちもその様子を見ていたために、ギョッとする。あれほどの攻撃を受けても大したダメージを与えられないのかと思っていたら、星が大きな声で叫んだのだ。


『おーいーしーいー!!』


 その叫び声を聞いて、管理者達はぽかんとした。今、この星はなんと言った? おいしい? いや、まさか、と管理者たちの誰もが思ったが、聞き間違いではないことがすぐにわかった。


『なんだ!? これ!?

 すごくおいしい! もっともっと欲しいぞ!

 どんどん、撃ってくるがいい!』


 いち早く我に返ったラクジタカは、呆然とする他の管理者達に声をかける。


「くっ。あの攻撃が単なる栄養にしかならないなんて。

 口惜しいですが、今は一旦退きます!」


 そう言って管理者達がどんどんと全世界儀の外へと脱出していく。

 その様子に気づいた星は、あっという声を上げつつ、ラクジタカに向かって手を伸ばす。


『ま、待て!

 もっと、もっとくれ!』


 ラクジタカが星に掴まれかけたが、間一髪で全世界儀の外へと脱出することが出来た。

 星は、捕まえることができなかったことが悔しくて、転がり始める。


『うわぁあああああああああああああああ!』

 という、星の叫び声が辺りに宇宙に響き渡った。



 ◆



 我はゴーレムなり。


 とうとうこの時がやってきた。

 長かった。こつこつと直し続けて、ようやく最後のひとつになったのだ。


「ゴーレムさん。

 これが最後の場所です」


 ニューメが感極まって、涙目になりつつ、声を震わしながら、我を最後の扉があった場所の前へと案内する。我は、うむと厳かな雰囲気を出しつつ、扉の前へと進んでいく。


 そして、扉があった場所の前へと移動し、我は手を前に差し出す。


『直れ、直れ』


 我のスキル【復元】によって瞬く間に、壊れた扉が元通りになった。

 その様子を見ていた、ゴーレム監視隊のメンバーがうわああああと歓声を上げ、我の方へと殺到してくる。


 ふっふっふ。

 長い戦いだったが、我はやりきったのだ。胴上げをされちゃうかもしれないなと内心期待しつつ、我は当たり前の事をしただけだぜと言おうとして、周りを見るが誰も我の方には駆けつけてこない。


 あれ? と思いながら、周りを見ると、ゴーレム監視隊の面々はニューメの元へと殺到していた。


「隊長! おめでとうございます!」

「とうとう、ぐす、とうとう終わりましたね!」

「はい! これも皆さんの協力があったおかげです。

 ありがとうございます!」

「何をおっしゃいます! 隊長がいたからこそ、順調に扉の修復ができたんです!」

「そうです! 隊長がいなければ、ゴーレムを止めることは出来ませんでした」

「いえ、私一人では成し遂げられませんでした!

 本当に皆さんのおかげです! ありがとうございました!」

「「「隊長!」」」


 な、なんだこれ?

 ここは、我の元に殺到してくるところではなかろうか。


「みんな! 隊長を胴上げしようぜ」

「いいですね!」

「おう!」

「えっ、ちょっと皆さん、まってください」

「それ、わーっしょい! わーっしょい!」

「「「わーっしょい! わーっしょい!」」」

「ちょ! ちょっと待ってくださいよー!」


 我をそっちのけで、ニューメの胴上げが始まった。


 ぐぬぬぬぬ。ニューメが胴上げされているのだ。

 くそぅ! 超楽しそうなのだ! 我はニューメの胴上げを地団駄を踏みながら見守るしかなかったのであった。

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