第27話 終わるまであと少し
我はゴーレムなり。
我からないわーポーチがまた外れなくなってしまった。これはいったいどういうことなのか。
まぁ、考えても分からないことはあまり考えないことにしよう。
ないわーポーチを肩にかけて、我ら3人は大勢の管理者達がいた場所に戻った。そこは喜びに包まれていた。今までの重く暗い雰囲気が嘘のように、開放感にあふれた喜びに包まれていたのだ。
我も良かったねと思いながら、スキップをしつつ近づいていく。
すると我らに気付いた管理者達が横によけ、老婆の元まで道を開いた。
ちょっと管理者たちの我を見る目が生暖かい気がする。
これは、迷宮都市で感じていた視線に似ているぞ。あれだ、ないわーポーチを見た者がよく我の方に向けてくる目と同じなのだ。
もう!
我も好きで肩にかけているのではないのだ。外れないのだよとアピールしても、恐ろしいモノでも見るような目を我に向けつつ、我から距離をとる管理者たち。
なんてことだ……。
ないわーポーチがここまで忌避されるとは。
恐るべし、ないわーポーチ。
我はスキップをやめ、とぼとぼと老婆の元まで歩いて行く。
『老婆よ、戻ったのだ。
ないわーポーチを我が肩にかけたら、黒い空間もなくなったのだ』
「うむ、それが元凶のポーチかえ。
見たところ、色と柄がないわーって思うだけの普通のポーチなのにね。
なんであんな異常事態が発生したんだろうね」
『もう! またないわーって言う!
我もないわーって思うけど、そのないわーと思う心がないわーポーチに伝わって今回の事態が起こったのではないのか?
本人には、どうしようもないことをつっついてはならんのだ!』
「む? まぁ、そうだねぇ。
たしかに、ないわーって思えば思うほど黒い空間が広がっていっていたから、そうなのかもしれないね」
『うむ。きっとそうなのだ』
老婆と話している我に声をかけて来たのは、ニューメの分身No.1とNo.3だった。
「ゴーレムさん。勝手にどこかに行ってはダメですよ!」
「そうです! まだまだ直さないといけない扉が多いんですからね」
『うむ。だが、今回の件は我が来なかったら、まだまだ黒い空間が広がったままだったのだから、別にいいではないか』
そこにニューメのNo.2も会話に加わる。
「でも、黒い空間の原因もゴーレムさんだったじゃないですか」
『なっ! 確かに我のないわーポーチが起点になっていたけれど、こんな事態はいままで起こったことなかったのだ。
これは我にとっても想定外の事態だったのだ。そう、想定外なのだ』
そんな我の抗議をさらりと受け流し、ニューメは3人に分かれていた分身体を1つに戻した。
その様子にラクジタカは驚く。
「にゅ、ニューメ?
あなた、いつの間にそんなことが出来るようになったの?」
「はい。一人ではゴーレムさんの監視に支障を来すので、これではダメだと思い、3人に分身出来るようになりました」
ニューメが良い笑顔でラクジタカに返事をする。
その返事を聞き、ラクジタカはなんとも言えない表情を浮かべた。
「そ、そう。ごめんなさいね。応援を派遣することもできずに」
「いえ、大丈夫です!
慣れましたから!」
そんなニューメの答えを聞き、我らのまわりにいた管理者たちがニューメに賞賛の声を送った。
「す、すげー」
「あのゴーレムの行動を監視できるとは、並大抵の事ではない」
「分身って何があれば、分身をしようと考えるような事態になるんだ?」
「さすがは、ラクジタカ様のアシスタントね」
おお、やはり、分身の術を使えるというのはなかなかすごいことだったのか。
『ニューメよ、分身の術はみんなの羨望の的だな』
「いえ、違うと思います」
『そうか? まぁ、いいや。それでは扉を直しに戻るのだ』
「はい、戻りましょう。
もう勝手にどこかに行ってはダメで、って」
我はタッタッタと扉を直しに戻るためにかけだした。
「ゴーレムさん! 話は最後まで聞いてください!」
◆ ◆ ◆
ゴーレムとニューメが去って行った方を見ながら、トウアクイテとラクジタカは大きくため息をついた。
「ニューメが頑張ってくれているのはいいけど、一人では無理そうだね」
「はい。トウアクイテ様。
ゴーレムさんを監視するための部隊を作り、ニューメの応援に派遣します」
「そうだね。それがいいわえ」
トウアクイテとラクジタカの話を聞いていた管理者たちも、全員が同意するように深くうなずいたのであった。
◆ ◆ ◆
我はゴーレムなり。
我はないわーポーチを肩にかけたまま、どんどんと扉を直していく。
ないわーポーチがあっても、我が寝転んだまま、転がって移動していくのに何の不都合もない。今日も我は寝転がりながら、扉をどんどんと直していく。
そんな変わらぬ日々を送っている我の周りには変化があった。
そう、とうとうニューメの元に応援の部隊が派遣されてきたのだ。
その数は100人。ニューメを指揮官として我を監視する部隊が出来上がったのである。
我を取り囲むように、一定の距離を置きつつ配置された100人のゴーレム監視隊の隊員達。
隊員達は我に話しかけてくるわけでもなく、黙々と我を監視しているだけだ。正直、居心地が悪い。なんというか、もっとこう、フレンドリーに来てくれて良いのだよという視線を送ってみても、スッと目をそらされるのだ。
まったく、この人達は暇なの? と、疑問に思いつつ、我は扉を直している。
たまにニューメが休むときは、代わりに老婆か、ラクジタカが、ゴーレム監視隊の指揮をとるようになった。
ゴーレム監視隊のローテーションは完璧のようだ。
そして、我の扉を直すという戦いももうじき終わる。
我が効率的に頑張ったおかげで、すべての扉が直し終わるまであと少しというところで、その凶報がもたらされたのであった。
◆
その日も我は寝転がりながら、頑張って扉を直していた。
今日はめずらしく、ニューメとラクジタカが二人とも来て、我の監視の指揮に当たっている。
話を聞く限り、我がいた世界につながる扉を見つけたそうなのだ。
どうやら、我がないわーポーチをかけていた扉こそ、我がいた世界につながる扉だったらしい。
灯台もと暗しとはよく言ったものなのだと、我は感心しつつラクジタカの話を聞いた。
そんな時にあせった様子で、ラクジタカの元に駆けつけてきた者がいた。
「ラクジタカ様!
た、大変です! 星が、世界が、どんどんと食べられています!」
ラクジタカは、その報告に眉をひそめる。
「どういうことです?
星が、世界が、食べられる? そんなことがあるのでしょうか?」
「はい! 間違いありません。現在進行形で事態が悪い方向へと進んでいます!
どうか、ご指示を!」
「分かりました! すぐにそこへ案内してください!
ニューメ! ゴーレムさんの監視は任せましたよ」
「ハイ! ラクジタカ様! ゴーレムさんの監視は私に任せてください!」
ラクジタカはニューメに対してほほえみながらうなずくと、報告に来た者と一緒に駆けだして行った。
どうやら、我が口を挟む暇もなく、何か悪い事態が起こっているようなのだ。




