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第25話 負のスパイラル。そして、彼女はキレる

 ないわーフィールドに呑み込まれた管理者達は、自身の力が急激になくなっていくのを感じていた。

 正確には、なくなっているというよりは、自身の内側に力が封じ込められてしまったような感じを受けていた。


 閉じ込められてしまった管理者たちは近くにいた管理者の姿を見たときに驚愕する。その姿を見て、ないわーと思った管理者AとBのようになってしまっていたのだ。


 驚いた管理者たちは自分自身の手や足、身体を見て、さらに絶望する。

 管理者達は、自分自身がないわーと思うおかしな色と柄になったことに、がっくりと肩を落とした。


 ないわーフィールドは、管理者たちの絶望とないわーという思いを受け止め、さらにそのフィールドを広げていく。


 ないわーフィールドは負の思いを受け止めることで、その思いを力に変えているのだ。負のスパイラルにより、ないわーフィールドはその領域を拡大させ続ける。



 ◆


 ネンマー・ジャンツ・ボ・ラクジタカは、異常な空間に呑み込まれて、変な色と柄になってしまったことに激しい動揺を覚えていた。こんなのないわーと思いながら、自身の胸に絶望を抱きながらも、周りの管理者たちの安否を確認する。


「みなさん! 大丈夫ですか!」


 ほどなく、おかしな色と柄になって、力がでなくなった以外は生命に別状がないことが確認できた。


 確認できたことにより、すこし、ほっとするが、まだ安心できないとラクジタカは気を引き締める。


 ラクジタカは異常な空間の中心の方へ視線をやる。中心の方は黒よりもさらに暗く、何も見えなくなっていた。感じるプレッシャーも空間の中心の方が強いみたいだった。この空間は何なのだと胸の奥から不安がわき上がってくる。


 ラクジタカは周りを見回した。

 周りの管理者たちは、生命に別状はなさそうだが全員が精神に深い傷を負っているように見えた。

 このままでは絶望のあまり生きる気力を失う者が出るかもしれないと危機感を覚えた。

 

 ラクジタカは、今は原因の究明よりも、全員の安全を優先させるべきだと考え、管理者たちをまとめ、励ましながら、異常な空間から脱出すべく行動を開始した。


「みなさん! 今はこの空間から外に出ることにだけ集中しましょう!」



 ◆ ◆ ◆



 我はゴーレムなり。


 我が扉を直し始めてかなりの時間が経った。

 おかげで扉を直す時間もかなり短縮されてきている。さすがは我。まぁ、何事も繰り返しやっていると上手くなっていくのだ。


 そんな我とは対照的に徐々にやつれてきている者がいる。

 ニューメである。


『ニューメよ。おぬし、徐々にやつれてきているが大丈夫なのか?

 ちゃんと休憩を取った方がいいぞ?』


 ニューメは目の下に大きな隈を作りながらも、気丈に返事をする。


「はい、ありがとうございます。

 大丈夫です。なぜか、ネンマー・ジャンツ・ボ・ラクジタカ様に連絡が取れないのです。

 こんなことは今まで一度もなかったのですが」


『なんと?

 タカラクジと連絡が取れないのか!?」


「ラクジタカ様です」


 我は次の扉を直しに行こうとした足を止め、腕を組んでむむむと考える。

 そんなニューメは突然考え始めた我を見て警戒心をあらわにする。


「ゴーレムさん?

 余計なことは考えなくて良いですよ。

 もう扉を直すことだけに集中してください!」


『えっ、でも、こういう場合、物語だと必ず何かが起こっているはずなのだ!

 だから、我もそこに駆けつけた方がいいと思うのだが』


「うっ、たしかに。

 ラクジタカ様と連絡が取れないのは異常です。

 でも……」


 ニューメは我の言葉をきっかけに考え始め、何かを迷っているようだ。時折、我の方をちらっと見てくる。我はそんなニューメに向かって拳を握りしめ、『行っちゃおうぜ』と声をかける。


 ニューメはうううと悩みながらも、答えを出した。


「だめです!

 ゴーレムさんはこのまま扉を直す方に集中してください!」


『えええええ。本当に? 本当にか?

 我がいかなくていいのか?

 数々の問題を解決してきた名探偵ゴーレムが行かなくていいのか!?』


 ニューメは、じとっとした目で我の方を見てくる。


「ゴーレムさんは、問題を解決しているかもしれませんが、

 そもそもの原因がゴーレムさんにあることがほとん、ど!?」


 そんなニューメは何かに気づいたかのように、目を見開いて我の方を見てくる。


「ひょっとして、ゴーレムさんが何かをしたんじゃないんですか!?

 今のところ、この空間で異常があった原因はすべてゴーレムさんですよ!」


『なっ!? なんでもかんでも我のせいにされては困るぞ!

 だいたい、我はおぬしと共にずっと扉を直しているではないか!』


「うー、たしかにゴーレムさんは、扉を直すしかしていませんね」


『そうなのだ!

 だから、我が原因ではないと思うのだ!

 おし、それでは原因を確かめに行こうではないか!』


 我が走り出そうとしたら、ニューメが足を伸ばして、我の足をひっかけた。

 我はコテっとこける。文句を言おうとニューメの方を見ると、ニューメは足を押さえてうずくまっていた。


『ニューメよ、何をしているのだ?』


 ニューメは足を押さえてうずくまっている。

 我の問いかけに返事もできぬようだ。我はうずくまっているニューメの表情を見ようと覗き込む。


 ニューメは、くぅって感じの痛そうな表情をしていた。まるでタンスの角に小指をぶつけた痛みをこらえているような表情なのだ。


 我はニューメの肩にぽんと手を置く。

 そして、ニューメを安心させるために、力強く宣言する。


『ニューメよ、安心せよ。

 我がラクジタカの様子を確かめてくるからな!』


 我が走り出そうとしたら、今度はニューメが我の手をがっと掴んだ。

 なんだ? 邪魔なのだけど。


『なんなのだ? 我に任せ』

「だー! もう、うるさいです!」


 我の言葉にかぶせるようにニューメが大声をだした。

 さらにニューメは目をつり上げて、我に詰め寄ってくる。


「ゴーレムさんは、黙って扉を直してください!」

 

 にゅ、ニューメがキレたのだ。

 我との会話で、どこにキレる要素があったであろうか? いや、ない。我はニューメを刺激しないようにおそるおそる声をかける。


『う、うむ。わかったのだ。我は扉を直していくのだ。

 にゅ、ニューメよ、カルシウムをもっと取った方がいいのではないか?』


 ニューメは我をキッとにらみつけてくる。

 ちょっ、怖いんですけど。


『さぁ、がんばるのだ!

 直さないといけない扉はまだまだ多いからな!』


 我は、ラクジタカの様子を見にいくのは諦め、再び扉を直し始める。

 キレたニューメの方をちらっと見るが、どうやら老婆に連絡をしているらしい。

 


「トウアクイテ様! ラクジタカ様と連絡が取れないんです!

 もう、私だけではゴーレムさんの暴走を食い止めきれなくなりつつあります!

 どうか、応援を派遣してください」


 ゴーレムさんの暴走って……。

 理性的なゴーレムと、我の中では評判なのに、ひどい言われようなのだ。


 我はそんなニューメの言葉をこっそりと聞きつつ、扉をがんばって直し続けるのであった。


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