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第24話 残念。そして、悪夢の始まり

 我はゴーレムなり。


 ニューメの指示に従ってどんどん扉を直していく。

 しかし、先はまだまだ長い。我がどれほど直しても、まだ千にも満たぬのだ。


 まったくまったく、240万の扉を直すとかどれだけの時間がかかることか。


 我は一言言ってやりたい。


『誰だよ、こんなに壊してしまったバカ野郎は!?』


 と、ね。そんな我の一言はどうやら口から出ていたようだ。

 我の一言を聞いたニューメが冷めた目で我を見つめてくる。そして一言我に向かって言ってきた。


「ゴーレムさんです」


『あっ、はい、そうですね』


 とりあえず、ここは素直に認めておくほうが良いのだ。扉を壊してしまったのは、我に間違いないみたいだからな。


『しかし、ニューメよ。これほど扉を壊すとは、我の【万物崩壊】は恐ろしいスキルのようだな』


「えっ、ゴーレムさんはわかってて使ったのではないですか?」


 扉が直りきったので、次の扉に移りつつ、ニューメの問いに答える。


『いや、我も使うのは初めてだったからな。

 全力で発動しなくてよかったのだ。やっぱり、何事もほどほどが一番なのだ』


 ニューメが半眼で我を見つめてくる。


「なんで、ゴーレムさんは初めてのスキルを使っちゃうんですか?」


 我は扉を直し始めながら、ニューメをチラリと見やる。なんでって言われてもねぇ。


『何事にも初めてはあるからな。

 我のスキルの中で、あの黒い空間を壊せる可能性のあるスキルを使っただけなのだ。

 可能性があったら、それを使ってみる! 何もおかしいところはないであろう』


 ニューメは、ええええとつぶやきながら、我にさらに話しかけてくる。


「ゴーレムさんはもうちょっと考えて行動した方がいいと思います」


『なっ!? 失礼な!

 我も考えて行動しているのだ!』


「いやいやいや、考えて行動しててこれだとゴーレムさんは残念なゴーレムになってしまいますよ」


『わ、我が残念なゴーレムだと!?』


 ニューメは我を見て、しっかりと首を縦に振った。そして、再び同じ言葉を口にする。


「残念なゴーレムですね」


 我は扉を直しながらも、ニューメの方を呆然として見る。【残忍】というスキルは持っていたが、残念とは、これ如何に。


 我はしょんぼりしつつ、扉を直す。

 扉の直りが、少しゆっくりになったような気もするけど、仕方がないのだ。


『はぁ、我が残念なゴーレムとは。

 はぁ、残念なゴーレム……』


「えっ、あのゴーレムさん?

 扉を直すスピードがおそくなってますよ」


『いや、でも、残念なゴーレムと言われたのは初めてだからな。

 ニューメの評価というか、価値観がおかしいという可能性もあるのではなかろうか』


「えっ、ちょっとゴーレムさん?

 扉を直すスピードは元に戻りましたけど、なんですか?

 その私の価値観がおかしいというのは」


『うむ、1人からの評価にだけ、過剰に反応してはダメなのだ!

 10人いれば、その評価も10通りあるだろうからな』


 我はニューメの方をチラリと見る。


 我は1人うむうむと頷きながら、作業を続ける。ニューメが、「ちょっとゴーレムさん」と話しかけてくるが、我は集中して扉を直し続けたのであった。



 ◆ ◆ ◆



 ネンマー・ジャンツ・ボ・ラクジタカの元に異常な空間が発生したという連絡がもたらされたのは、ないわーフィールドが発生してすぐのことだった。


 ラクジタカは、ゴーレムのいた世界につながる扉がまだ見つかっていないのに悪いことは重なるものだと、思いながら連絡を聞いた。そして、すぐさま、問題の異常な空間が発生したという場所へと向かうのだった。



 ◆



 ラクジタカが到着した時にはすでに100名近くの管理者が異常な空間のまわりに集まっていた。

 ラクジタカは管理者たちをかき分け、異常な空間に近づく。何が原因でこの空間が発生したのかはわからないが、見るからにまがまがしい黒いオーラが空間から放たれていた。


「これは、いったい?

 誰か、これが発生した瞬間を見た人はいませんか?」


 ラクジタカの問いかけに、管理者の一人が手を上げて、回答する。


「ラクジタカ様、おいらはこの空間が発生したところを見ました。

 管理者のAとBが、ある扉のところで変なポーチがかかっているという話をしていました。すると突然、その変なポーチから、黒いオーラが出て、この異常な空間を形作ったのです」


「変なポーチですか?」


「はい。見たこともないようなおかしな柄のポーチだったと思います。

 あんなポーチを身につける人の気が知れないわと思ってしまうような柄のポーチです」


 管理者の言葉に反応するように、ないわーフィールドは、ぐぐぐっと一回り大きくなった。

 ラクジタカは突然の巨大化に驚きつつも、みんなを異常な空間からもっと離れるように指示を出した。


「いきなり大きくなるなんて……。どういうことなのでしょう?

 巻き込まれた人はいませんね?」


 すると、ラクジタカの問いかけに答えた管理者が、あっと何かを思い出したかのような声をだした。


「すいません、ラクジタカ様。

 管理者AとBがこの空間の中に飲み込まれています。

 他には飲み込まれたものはいないはずです」


「管理者AとBは飲み込まれたままなのですか!?」


「はい、そうです」


 ラクジタカは、この異常な空間の中へと入って、救助をすることができるのかを思案する。

 使い魔を召喚し、異常な空間の中を調べさせようとした時に、異常な空間の中から、ぬぅっと2つの人影が浮き上がってくる。ラクジタカや異常な空間を囲んでいた管理者達は、何が起こっても対処できるように身構える。


「ラクジタカさまぁ、助けてくださーい」

「力がまったく出ないんです」


 声をかけられたことによって、ラクジタカは人影が管理者AとBであることを理解する。

 2つの人影は異常な空間から浮かび上がってこようとしていた管理者AとBだったのだ。


「管理者A、B!

 あなたたち、無事なの? どこかに異常はない?」


 ラクジタカは、少しだけ異常な空間に近づき、管理者AとBに声をかける。そんなラクジタカの問いかけにAとBは異常な空間から外に出ながら、返事をした。


「えーっと、力がでないこと以外は大丈夫です」

「あっ、B、おまえ、変な色と柄になってるぞ!」

「えっ、A、おまえこそポーチみたいな変な色と柄になってるぞ!」

「なんだって!?」


 異常な空間から出てきた管理者AとBは、おかしな色と柄になっていた。

 それは管理者AとBの服だけでなく、肌や髪もおかしな色と柄に変わっていた。


 それを見たラクジタカはもちろん、他の全ての管理者達も、全員が「うわぁ、ないわー」と思ってしまう。言葉には出されなくても、ないわーポーチには管理者たちのさげすみが伝わった。


 ないわーポーチは管理者たちの強い思いを受け止めてしまったため、ないわーフィールドがさらにググンと広がる。

 それは先ほどの比ではなく、一瞬でかなりの大きさにふくれあがり、ないわーフィールドを囲んでいた管理者たちは一人残らず、飲み込まれてしまった。



 管理者達にとっての悪夢が始まろうとしていた。

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