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第22話 出発

 我はゴーレムなり。


 しばらく老婆の部屋で待っていると、老婆の部屋の扉がノックされた。

 おっ、タカラクジが到着したのではなかろうか。我は扉に駆け寄ろうとするニューメを追い抜き、扉へと駆けつける。


「トウアクイテ様、いらっしゃいますか?

 ネンマー・ジャンツ・ボ・ラクジタカです」


『うむ、老婆は部屋の中にいるのだ。

 入るがよい』


 我はタカラクジを部屋に招き入れるために、部屋の扉を開けた。とりあえず、まずは自己紹介からなのだ。


『初めまして。我はゴーレムなり』


「えっ?」


 タカラクジは、驚いた表情で我を見る。ニューメが連絡を入れていたから、我もこの部屋にいることは知っていたと思うのだが、この反応はよくわからぬな。


『ニューメから我もこの部屋にいたのを知っていたのではないのか? おぬしがタカラクジなのだろう?』


「いえ、ラクジタカです。タカラクジではありません」


 あれ、年末ジャンボ宝くじと似た名前だったから間違えたのだ。


『そうか、すまぬな。ラクジタカ』


 そんな我を押しのけるようにして、ニューメがラクジタカに近づき、焦りつつ報告をする。


「ラクジタカさま! お待ちしておりました!

 超重力空間が打ち破られた原因が、いえ、犯人がわかりました!

 このゴーレムさんが全ての元凶なのです!」


『ちょ、待って欲しいのだ!

 まるで、我がすべて悪いような言い方には断固抗議するのだ!』


「もう! ゴーレムさんは黙っててください!

 ゴーレムさんに話の主導権を渡してはダメだと、私は気づいたんです!」


『なっ!?

 ダメとはなんなのだ。会話とは言葉のキャッチボールだぞ!

 主導権を云々の話ではないのだ!』


 我とニューメのやりとりを目の当たりにしたラクジタカは、少し意外そうに我を見てくる。

 

「あの、あなたがゴーレムなのでしょうか?

 ロクバイから話を聞いていたのですが、本当に小さいのですね」


『うむ? ロクバイとはだれのことだ?』


「えーと、あなたが打ち破った超重力空間に閉じ込められていた巨人のことです。

 今も扉の外まで来ていますよ」


『なんと、あの巨人のことか!

 しかも扉の外まで来ているとな。やはり、まだ遊び足りなかったのだな! ちょうど我も退屈していたし、一緒に遊ぶのだ!』


 扉の外から、何かが遠ざかる音がした。我が部屋から出ようとすると、老婆が声をかけてきた。


「ちょっとお待ち、ゴーレム!

 あんたはまだこの部屋から出てはいけないよ!」


『なっ!?

 我は早く元の世界に戻りたいのだ。

 人もいっぱい来たし、そろそろ元の世界へつながっている扉を教えてくれてもいいのではないか?』


 老婆はしばし何かを考える。老婆は赤い瞳で我をまっすぐに見つめてくる。

 な、なんだ? 我に何を伝えようというのだ? 我は両手を握りしめ、老婆と向き合う。


「最初は、はやく帰ってもらおうと思ってたが、どうやらあんたは異世界への扉をたくさん壊したみたいだからね。しかも、扉を直せると言うし、あんたにはちゃんとけじめをつけてから帰ってもらわないとね」


 ああ、なるほどね。もっともなのだ。


『ふむ、さすがは老婆。目の付け所がひと味違うのだ。

 我はきちんと責任をとるゴーレムだから、きちんとけじめをつけるのだ。

 我が消してしまったという扉もすべて直そうではないか!』


「当たり前だよ!

 あんたが戻る為の扉は、ラクジタカたちに言って見つけておいてもらうから、あんたはがんばって扉を直すんだよ!」


『うむ! 我はやるときはやるゴーレムなのだ。

 任せておいて欲しいのだ!」


 我と老婆が扉を直す話でやる気を出しているとラクジタカが心配そうに話しかけてきた。


「あのトウアクイテ様、このゴーレムさんには、一刻も早く元の世界に戻ってもらった方がいいのではないでしょうか?」


 老婆は首を横に振った。


「扉が壊れたままだと、中にいる管理者が出てこられないのだろう?

 自然に扉が直るのを待っていたら、どれほどの時間がかかることやら。ならば、ゴーレムに直してもらうのが一番だろう」


「たしかにそうなのですが、これ以上ゴーレムさんをこの空間に留めるのは危険ではないですか?」


 老婆とラクジタカ、ニューメの視線が我へと集まる。

 我は危なくないよとジェスチャーでアピールする。


「このゴーレムは非常識な存在だけど、きちんと行動を管理するお目付役がいればそんなにひどいことにはならないよ。

 ……多分」


『ちょっと待って欲しいのだ!

 我は別にお目付役がいなくてもきちんと扉を直してみせるのだ!』


 やる気を見せる我に、ニューメが心配そうに声をかけてくる。


「あのぅ、ゴーレムさん。ゴーレムさんが壊した扉は全体の30%近くになります」


『なんと!?

 我の万物崩壊は結構な数の扉を壊してしまったのだな』


「結構な数というより、膨大な数ですね。

 数でいうと約240万ですから」


『えっ?』


「えっ?」


 我とニューメは互いに見つめ合う。

 今、ニューメはなんと言った? 240万? 多すぎるのではなかろうか?


『ニューメよ? 240個の間違いではないのか?

 我の耳がおかしくないのであれば、240万と聞こえたのだが』


「いえ、ゴーレムさんの耳はおかしくないですよ。

 ゴーレムさんが壊した扉の数は約240万です」


『な、なんだと!?

 240万? 1日で6000個以上の扉を直しても、1年以上かかるぞ!?』


「正確には1日で6575、6個くらい直す必要がありますね」


 ぐっ、なんということだ!?

 我の前に巨大な壁が立ちはだかったような気分なのだ。


『く、しかし、我はゴーレムなり!

 ゴーレムに二言はないのだ! 我はきちんと扉を直しきってみせるのである!』


 我は両手を握りしめ、天に向かって振り上げる。


「そうじゃな、ではニューメよ。

 おぬしはゴーレムと相性も良さそうじゃから、お目付役はおぬしに頼もうかね」


「えっ!? 私ですか!?」


「ニューメよ、ゴーレムさんの手綱をしっかり握るのですよ!」


「えっ!? ラクジタカ様!?」


 慌てるニューメをよそに、老婆とラクジタカは我が元にもどるための扉を探すための算段を始めた。どうやら、かなりの管理者を動員し、我がいた世界につながる扉を探してくれるようだ。


「ラクジタカよ、それではゴーレムがいた世界へとつながる扉の捜索はあんたに任したからね。

 あたしの占った辺りを中心に探してみておくれ」


「はい、わかりました!

 トウアクイテ様。それでは私は扉の捜索の指揮にあたります」


 ラクジタカは、最後にニューメに向き合い、声をかける。


「ニューメよ、あなたに世界の運命がかかっています。しっかりね!

 あなたなら出来ると信じていますから」


「えっ、本当に私だけがお目付役なんですか!?

 あと何人か応援をお願いします!」


「わかりました。

 扉の外にいるロクバイにも応援を頼んでみましょう」


 ラクジタカはそう言うと、扉の外に出て、辺りを見回して、また入ってきた。


「ごめんなさい。ロクバイがいなかったので、応援はすこしだけ待ってください。

 必ず送りますから」


「ぜ、絶対ですからね!

 私が過労死する前にちゃんと応援をよこしてくださいね!」


「ええ、必ず!」


 そういうとラクジタカは颯爽と扉の外へと駆けて行った。


『ニューメよ、おぬしも大変だな』

「ゴーレムさん、扉を直すことだけに集中してがんばりましょうね」


『うむ! 任せておくがよい!

 我はこう見えても集中力には自信があるのだ!』


「ニューメよ、手に余るだろうから、その時にはあたしに連絡をよこしな。

 その時は、あたしも応援に行ってあげるからさ」


「と、トウアクイテ様」


 ニューメはきらきらとした目で老婆を見つめる。

 なにやら感動しているようだ。まぁ、よい。少しでもはやく扉を直して、元の世界に戻るのだ。


『ニューメよ!

 それでは扉を直しに行くのだ!』


 そう言って我は颯爽と扉の外へと駆け出した。我の後を追ってニューメが慌てて扉の外へと駆け出してくる。


「ちょっと待ってくださーい!」というニューメの声が辺りに響き渡った。



 ◆


 ゴーレムとニューメが去った後、老婆は扉を閉めつつ呟いた。


「あたしも最初からついていった方がよかったかねぇ。

 まぁ、なんとかなるかのぅ」

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