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第9話 対ゴンレム

 我はゴーレムなり。


 我は、ゴンレムから降りて、キュッキュッとゴンレムを磨く。


 はー、かっこいい!

 途中の町で手に入れた赤いペンキを塗ってから、ゴンレムのかっこよさがグンと上がったのだ!


 ただ乱暴に扱うとペンキが剥がれちゃうから、注意が必要なんだけどね。赤くするだけで3倍速で動けそうなのだから、不思議なものなのだ。


 さて、ひと通り磨き終わったら、次なる戦場へと行こうではないか!


 世界に平和をもたらすその日まで、我は走り続けるよ!


『ゴンレム、発進!』



 ◆ ◆ ◆



 ゴーレムは、ゴンレムのコクピットに乗り込み、勢いよく発進させる。


 ゴーレムは、気づかなかったが、すでにこの時には、ゴンレムは世界統一政府が送り込んだ偵察機に捕捉されていた。


 世界は、ゴーレムの思惑と少し違う形でひとつになろうとしていた。この世界に住む人々は、ゴンレムの脅威にさらされる中で気がついたのだ。


 人間同士で争っている場合ではない、と。


 意思の疎通もできない、強大な力を持った相手の出現により、このままでは世界は壊し尽くされるのではないかと、指導者たちは危機感を抱いた。


 それが、世界統一政府の発足につながったのだ。


 世界統一政府が発足するまでには、多くの問題があった。しかし、発足の後押しをしたのも、ゴンレムだったのだ。ゴンレムが猛威をふるい続けた1年の間に、ゴンレムに対する攻撃として核兵器を使用する国もあった。


 だが、ゴンレムは核攻撃にも耐えた。

 まるで、何事もなかったと言わんばかりに、走り回るゴンレムの姿を捉えた映像が世界中に出回った。この映像は、核兵器を使用した国への非難などを含め様々な物議を呼んだが、核攻撃でも決定打に至らないゴンレムの非常識さを世界中に知らしめたのだ。



 対ゴンレム。

 

 世界は、「対ゴンレム」という一つの旗印の下で、初めて一つになったのだった。

 そのために、世界統一政府の旗は、ゴンレムのシルエットに×印という、海賊旗のようなデザインとなった。


 世界統一政府は、対ゴンレムの最後の作戦を立案実行する。

 これがダメなら、もうどうしようもないという悲壮感を漂わせながら、対ゴンレム戦が始まった。



 ◆


 

 政府の反応とは反対に、一般の人々の間では、赤いゴンレムは人気者だった。

 なぜならば、ゴンレムが通った後では、兵器は壊されるが誰も死んでいなかったからだ。ゴーレムはこの1年間、人を殺さないという縛りプレイをし続けたのだ。


 弱者を助けながら、世界中で戦い続けるゴンレムの姿は、人々にとって一種の娯楽になっていた。そして、世界統一政府が発足し、人同士の戦いが終息したことによってもゴンレムの評価は上がっていたのだ。


 指導者達は最悪の事態を想定して危機感を抱いていたが、一般の人々は何となくゴンレムがひどいことをするとは思えなかったことも、ゴンレムの人気につながっていた。


 人々は、世界統一政府が発表した対ゴンレムの最終作戦の行方がどうなるのかを注視する。

 ゴンレム対世界統一政府軍の勝敗の賭が行われようとしたが、ゴンレムの勝利に賭ける人が圧倒的に多くて成立しなかった。



 ◆ ◆ ◆

 


 我はゴーレムなり。


 最近は争いもなくなって平和になったのだ。

 我の活動の成果と言えるのではないだろうか!


 我のゴーレムイヤーが戦闘音を捉える。


 むむむ!


 我が平和と思ったらこれだ。

 まだまだ我は戦い続けねばならぬようだ。


 この世界の者達にも困ったものだぜ。

 やれやれ。


 おっし! 行くのである!

 まだまだ世界は我を必要としているのだ!


 わふー!


 我はアクセルを全開にして、ゴンレムを発進させる。


 

 ◆



 我はゴンレムソードで、戦っていたロボットの手足を切断する。


 むっ!

 今度はまた少し離れたところで戦闘がされているのだ! 我は戦闘をしているロボットの所まで駆けつけ、即座に戦闘不能にする。


 それを何度か繰りかえすうちに、荒野の中央へと我はやってきた。



 我は、首をかしげる。

 なんで、あのロボット達はこんなところで戦っていたのだろうか?


 見ようによっては、我をおびき出すためだけに戦っていたようではなかろうか。

 うーん、まぁ、そんなわけはないか。我の思い過ごしなのだ。


 我がどっちに行こうかと考えていると、天空から巨大な光線がゴンレムめがけて降り注いできた。



 な、何事だ!?

 我は突然の攻撃に驚き慌てる。

 

 ゴンレムには、バリアをはっているのでノーダメージだが、地面にものすごい深い穴が開いていっているぞ!

 まるで我のラインライトのようではないか。




 はっ!?


 ま、まさか!

 我のラインライトを真似された!?


 これは我のラインライトに対する挑戦状なのだ!

 多分、ラインライトはおまえだけのものではないと言っているのだ!


 くそ!


 研究されてしまったのだ。まさか、ラインライトを真似されるなんて。痛くもかゆくもないが、我のオリジナリティが脅かされているのだ。


 おっ、天空からの光線が徐々に先細っていくのだ。

 いつまでも撃ち続けておけるものではないようだな。


 おし、元祖ラインライトを見せてやる!


 くらうがいい!

 これが本物のラインライトなのだ!


 我はゴンレムの両手を真上に挙げ、巨大なラインライトを発射する。おっ、天高くで何かが爆発したような気がするぞ。ふっふっふ、命中したのではないかな。


 我は満足をして、天空を見上げて一人うなずく。



 そんな時、我がゴンレムの前に、どこかで見たことがあるような人影が姿を現した。


 ?


 ん? なんだろう?

 どこかで見たことがある気がするぞ。


 どこだったかな?


 我は眉間に人差し指を当てて、必死に思い出す。我の脳裏に、この世界に入って来た日の事が思い出された。


 そ、そうだ!

 あの人影は、四角い箱に入っていった者と同じ気がするのだ。

 あれはこの世界の管理者なのではなかろうか。


 ま、まずい。

 もしかして、我ってば怒られるのではないだろうか。うむ、一人で楽しんでたから、怒られてしまう気がするぞ。


 どうしよう。どうすればいい?


 我はアセアセと考える。

 そうだ! 出ちゃおう! この世界から出てしまえば良いのだ!

 こういう時は、逃げるが勝ちなのだ。


 ゴンレム。おぬしの事は忘れないぜ!


 我はゴンレムに簡単に別れを告げ、『出る』と念じて、この世界から脱出する。



 ◆



 気がつくと我は四角い箱の前に立っていた。

 うむ。帰って来れたのだ。デカイ鳥の言っていたことに偽りはないのである。


 おし、管理者が帰ってこないうちに、とっととこの部屋を出よう!


 あっ、そうだ。

 最後に、お世話になった世界に挨拶をしておこうかな。


『我はゴーレムなり! また人々が戦うならば、我はすぐに駆けつけるからね! みんな仲良く暮らすのだ!』


 我は四角い箱に声をかけて、あせりながら部屋を後にした。

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