69 美容師さんに「それでよかったんですよ」と言われた話(1)
古民家を探しているとき、一度すごく気に入って買おうとした家がありました。
今の家より北に進んだ先の、元タバコ農家の家。
目の前には広大な水田。家の前にはイチジクの大木。
平屋で朝から日没まで日当たりが良さそうで、トトロのサツキやメイが住んでいたような家。
ネットの情報では「築60年以上」とあって、正確な築年数がわからない家。
車で見に行ったら、これがあちこちに隙間があって、光が射しこんでいる。
台所は土間で、流しは四角いタイル張り。
土間から一段上がると八畳の畳の部屋。
度肝を抜かれたのは、八畳間にお仏壇があって、鴨居には遺影が七、八枚も掲げられていたこと。
(どういうこと? これを始末しないで売るってこと?)とその手の信仰心がゼロの私でも、さすがにちょっと引きました。
汲み取り式のトイレは外にあり、風呂釜はプロパンガス。
リフォームにいくらかかるのか、と思いました。
家の裏には二階建ての物置のような建物。聞いたら「タバコの葉を乾燥させる部屋だ」そうで。
でもその家を買おうと思ったんですよ。私、とにかく引っ越したかった。
家の周囲に家が一軒もないのも気に入ったし。
そこを管理している不動産会社の社長に「買います」って言いました。あんなボロ家を買う人なんていないと思いながらそう伝えたら、社長の返事は……。
「先日、小さい子供がいる東京の若夫婦が見に来たんで、そっちの返事を聞いてからでいいですか?」とおっしゃる。
「はい、結構です」
そう返事をして帰宅したら、翌日に「若夫婦が買うって言うんですよ。申し訳ないけど、あちらが先なんで」と断られました。
「あんな不便な、周囲に人家のない家を、子育て中の夫婦が買うんだ?」と驚きました。
我が家は結局、その家よりもずっと安くて広くて造りも立派で、近所にお店が何軒もあって、トイレとお風呂が最新式の現在の家を買ったのです。「あそこ買わなくてよかったわー」とか思いました。
その話を美容院で美容師のお兄さんにしたところ……。
長くなるから、続きは次回。




