萌え系イラストレーターの話
興味を持たれてしまったので、僕は友だちとピクチャードラマを創ることになった旨を凜奈に渋々伝えた。仲間にプロ作家が混じっている点は伏せた。
「ほへぇ~、そうなんだっ。私もそういうのやってみたいけど、なにせお金がね」
「お金……」
「まさかそこまで考えてなかった?」
「い、いや、そんなことはないよ……! バイトしたほうがいいかな~とか、うっすら考えてた!」
凜奈はジト目で僕を見た。
違う。全く考えてなかったわけじゃないんだ! お金の工面以前にどうやってピクチャードラマを作るのかさえわからないんだ! 友恵が知っていそうという想定があるからあまり真面目に考えなかったんだ!
友恵が知らなかったらどうしよう……。
「そうそう、バイトね。私は同人誌の寄稿で高校生としてはウッハウハな額をもらったけど、大人になったら暮らしていけるかどうか……」
陽が沈みかけたロマンチックな渚で現実的な話題が出るのは致し方ない。この風景が茅ヶ崎の標準的な夕方だから。素敵な日常が末永く続きますように。
お金の話は友恵もよくしている。いまのところホクホクしているようだけれど、今後どうなるかはわからない。クリエイターは不安定な職だから。
「もし、もしだけど、イラストレーターとして暮らせなくなったときの策はあるの?」
「とりあえずキャリアだね。手に職だよ。誰にでもできる仕事じゃなくて、特殊な仕事をするの。メカニックみたいな技術系とか、あとはなんだろう。うーん、市営バスの運転士とか」
なぜ民間のバス会社ではなく市営バスかというと、前者と後者では待遇に雲泥之差があるからだろう。
「渋い職だね」
「そうだね。美容師も考えたけど、それこそイラストレーターと同じで需要に対して人数が多過ぎる。ほかだと、料理人かな。和菓子屋さんでいちご大福職人とか」
「いちご大福職人?」
和菓子職人じゃないのかと思ったけれど、揚げ足取りはやめておく。
「へへっ、例えばだって。仮にイラストの仕事が尽きなくても、稿料安い案件が多いからそれだけで暮らせないかなって思うから、いちご大福職人は割と現実味ある。熱海はお年寄りの観光客が多いから、和菓子も普通のベッドタウンより需要がある」
「そうだね、言われてみれば。でも稿料は上げられないの?」
「交渉すればある程度は上げられるかもだけど、そもそも私みたいな萌え系イラストレーターは需要が限られてるから、跳ね上げ過ぎると自殺行為になりかねないよね」
「確かに。依頼者だって複数のイラストレーターと仕事してるだろうし、イラストの需要に対してイラストレーターの人数が多いと必然的に食いっぱぐれが出てくる。でも価格を抑えられれば潤沢な収入は得られなくても廃業リスクは下がる……」
「うん、厳しいけどそれが現実だね。稿料が安くても多くのイラストレーターが生き残るか、高くして一部の人だけが生き残るか」
凜奈曰くこの課題はイラストレーターの間でよく言われるらしいけれど、殆どの場合『稿料上げるべき』止まりで、より多くのイラストレーターが生き残って欲しいと言う人は少ないという。
けれど稿料を上げて尚且つ多くのイラストレーターが生き残るやり方もあるわけで……。
お読みいただき誠にありがとうございます。
先週は取材のため休載させていただきました。




