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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2007年4月上旬 里山公園で取材

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朝目覚めたら見ず知らずの妹が隣で寝てました

「あ、そうだ真幸と美空ちゃん」


 たったいままでの憤怒が嘘のように、友恵がケロッとして言った。


「真央ちゃんと会ったことは心の内に秘めておいてね。これからも会う機会はあると思うけど、芸能関係の人だからさ」


「うん、わかった」「わかりました」と、僕と美空はそれぞれ返した。


 芸能関係の人と会ったとき、それを秘密にしてほしいと頼まれるケースがあるのは知っていた。なにしろここは多くの芸能人ゆかりの地、茅ヶ崎。そういった約束事は何気ない日常会話の中で聞いている。


「ごめんね。でも私たちはもうお友だちだから!」


 長沼さんが手を合わせて申し訳なさげに詫びた。


「あ、いや、いえいえ!」


 そうか、僕と長沼さんは友だちになったのか。人見知りの僕はこれまで友だちの概念がよくわからないまま生きてきたけれど、相手がそう言ってくれたのならそうなんだ。友恵にも「うちら友だちじゃん!」と知り合って間もないころに言われた。


 高校生になったばかりの僕にとって12歳も上の人と友人関係になるのは不思議な感覚だけれど、僕を取り巻く人々の、とりわけ日本学生の社会通念イデオロギーがそうさせているだけで、本来年齢なんて無関係。年長者どころか動物や虫とだってその気になれば友だちになれる。


 こうして新たなことに気付くたび、僕は前へ進めている気がする。


 大人になるって、こういうことも含まれているのかな?


 まだまだ思春期真っ盛りの僕は、ふとそんなことを思った。


 大人になってからの交友関係はただワイワイガヤガヤ遊んだりお喋りをするだけではなく、加えて互いを高め合い、支え合う関係になると誰かが言っていた。


 僕は長沼さんという大きな存在に、何かを与えられるだろうか?


 それを問うたとしても彼女はきっと、そんなこと気にしなくていいよ、友だちだもん。そんな風に言ってくれる気がする。


 いまの僕にはまだ確かなことはわからないけれど、いまは新しい仲間ができたという事実だけを受け止めておこう。


 僕がアニメ作家を目指していると友恵に打ち明けなければきっと、長沼さんとは友だちになれなかった。努力が実って十数年後にアニメ作家になり彼女と知り合ったとしても、単なる仕事仲間という淡白な関係にしかなれないとような気がする。


「ありがとう! 真幸お兄ちゃんっ!」


 こ、この声は!!


「ふぁっ、ふあああ!!」


 ほ、ホンモノだあああ!!


 こ、これは人気ラノベ原作のアニメ『朝目覚めたら見ず知らずの妹が隣で寝てました』略して‘みずいも’のヒロイン、みずきちゃん(CV:長沼真央)の超絶プリティーボイス!!


 あぁやばいやばい胸がバクバクする不意討ちは反則だろ……。


「お兄ちゃんの絵が上手になってくの、みずき楽しみだなぁ♪」


「ふああ、ああ! お兄ちゃん頑張る! 頑張るよ!!」


 なんだなんだこのリアル妹では味わえない感覚は!!


「うん! がんばるお兄ちゃんがぁ、みずきはだぁい好きっ!」


「うぇへへへへへへ……」


「真幸完全にぶっ壊れたわ。真央ちゃんも悪ノリしてるし」


「まおちゃんってだぁれ? 新しいおともだち? みずきも仲良くなりたいなぁ♪」


「そうだね、みずきちゃんに声を当ててるおば、お姉さんかなぁ」


 身も蓋もないことを言う友恵。


「おい友恵、いまわざとおばさんって言いかけただろ」


 ん? この声もなんかのアニメで聞いたことある。確か男の子のキャラクターだったと思う。声優さんってすごいな、本当に色んな声を出せるんだ。


「いっけえええパシフィックドラゴン!!」


 当該キャラクターを思い出そうと記憶の本棚を物色していると、数十メートル離れたところからドラゴンのフィギュアを持って戦いごっこをする男の子たちの声が聞こえてきた。


「そうだ、パシフィックドラゴンの!」


「うん、海人かいとの声も私がやってるよ!」


 男児向け夕方アニメ『深海モンスターパシフィックドラゴン』の主人公、海人。普段はオンエアを見れないけれど、春休みなどの長期休業や祝日には見ている。


「いっしょに遊んであげたら子どもたち喜ぶんじゃないですか?」


「うーん、子どもたちにとってアニメキャラは実在する人物かもだから、夢を壊さないようにやめとくよ。私もちっちゃいときはド○え○んが本当にいると思ってたけどの○太くんはいないと思ってたから」


「え、何その差」


 友恵が言った。


「なんか、ド○え○んはロボットだから実在して、の○太くんは人間だからいないと思ってた」


「それ、わかります!」


 美空が激しく同意。


 え、何その理屈!?


「さすが美空ちゃん! 夢を与える絵本作家!」


 なんだかよくわからないけれどいまこの瞬間、長沼さんと美空の謎の同盟が結ばれた。


「はい、夢を与えられるようになりたいです!」


「大丈夫、自分が夢を持っていれば、誰かにも夢を与えられるようになる。みんなもね」


 長沼さんは僕や友恵、三郎にも語りかけた。


「あぁ、でも本当は、海人になってあの子たちといっしょに遊びたいなぁ」


 そう語る長沼さんの頬は少し紅くなっていて、心底嬉しそうに穏やかでやさしい眼差しを彼らに向けている。人生経験を重ねないと出せない、慈愛に満ちたオーラにあふれている。


 自分が演じているキャラクターの真似をしてくれる子がいる。それはきっと、声優にとってとても大きな喜びなのだ。


 お読みいただき誠にありがとうございます。


 クリスマスも安定の更新、来週元旦も平常通り更新予定です(投稿予約を忘れないようにしなければ)。


 今年は元旦から『再会』の一年となりました。


 元旦に高校時代からの友人たちと鎌倉で焼肉(激リッチ。あまりの旨味にびっくり)。その後、鶴岡八幡宮で早くも本年2度目のお参りをし、人通りのほとんどない深夜の小町通りを徘徊して昼間は混雑している閑散としたカフェでパンケーキを味わいました(これまた高い)。


 6月には約2年前に放送された某アニメと再会。横須賀の方々との出会いがありました。


 次に静岡県の沼津ですね。某スクールアイドルアニメの街ですが、地域のアクションに関して茅ヶ崎の商店街の方と繋がりがあり、新たな音楽が生まれたとのことでした。


 沼津は学生時代、たまに遊びに行っていましたが、今度は創作のヒントを見付けるため足を運ぶようになりました。


 茅ヶ崎には認識しきれないほどたくさんのご当地キャラクターがマスコットとして活躍していますが、住所は不明。


 一方、アニメや漫画、小説のような物語のキャラクターは現地の住人の一人。他の街をめぐりそれ改めて感じました。美空たちも茅ヶ崎市東海岸南みたいな住所がちゃんとあり、現地に、ときに出かけて他所の街に存在している。それを心掛けて描いております。ちなみに南野友恵の住所はサザン(南の)通り沿いにある共恵という地域です(笑)。


 地域の方にも地味に知れてきたうちの子たちですが、本作含めこれからもっと知ってもらえるよう頑張ってまいります。


 皆さまありがとうございます。この一言に尽きますね。


 来年もよろしくお願いいたします!

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