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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2006年9月

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対立

「好きなことをしたいな! でもそれだけじゃなんかね、物足りないのっ!」


 私はいま、ステージ上でダンスと歌唱を同時にこなしている。元々ダンス部がやるはずだったのに。しかも先ほどは軽音楽部の代わりにバンド演奏までさせられた。


 講堂最後部の壁にはなぜか菖蒲沢麗華と並んで観覧している真幸の姿が。もしかして知り合いなのかな?


 まぁいいや、いまはステージに集中。


 軽音楽は歌うだけだったから少しの練習でなんとかなったけれど、踊りながらの歌唱は一週間以上練習をしても大変ハード。からだがみるみる乾き、大気に水分を吸い上げられる感覚だ。


 まさかボランティア部に曲作りを丸投げした仕返しに敢えてハイテンポでベリーベリーハードに仕上げた渾身の一作にカウンター攻撃を喰らうとは……。


 そもそもボランティア部の私がなぜステージに立っているのか。


 それにはちょっとしたわけがあった___。


 まず軽音楽部。これはバンド内での揉め事に起因。どうもメンバー内で許容し難い事案があったらしく、バンドは本番前日の夕方にまさかの解散。急遽ボランティア部と楽器演奏が得意な他部の生徒を寄せ集め昨夜は22時まで、きょうは朝7時から本番直前まで音楽室で猛練習。どうにかステージを成功させた。


 その解散したバンドの修羅場がなんだかとてもすごかったので、まずはそこへ至るまでの事情を説明をしよう。



 ◇◇◇



 事の発端は2日前、木曜夜に遡るという。


 楽曲提供先バンドでドラム担当をしていたしずかさん。名前とは裏腹に派手で、お嬢様学校の生徒とは思えない女の子が塾を終えて藤沢市街を歩いていたとき、同バンドのボーカル担当、清美きよみさんが他校の男子と仲睦まじげに並んで歩いていたところを目撃したという。彼女は控えめな性格で自分からは滅多に口を開かないタイプだけれど、話し掛ければ気さくに応えてくれる、ほんわかした子。


 それを見て、なんだろう? と気になった静さんは二人を尾行した。というのも実はその男子生徒、静さんの恋人なのだとか。


 この話は昨日、金曜日の朝早くに教室でされたのだけれど、居合わせた私と他6名のクラスメイトが聞いていて、うち一人がそこで「それって浮気じゃん!」と突っ込んだ。


 しかし静さんは「付き合ってるからって他の女子といっしょに行動するなっていうのは彼の視野を狭めることになるから可哀想」と、ここまでは問題視していない旨を伝えた。


 それを聞いた内向きな子たちは大層驚き理解に苦しみ、対してアグレッシブな子は「わかるわかる! 付き合ってるからって行動を制限して視野を狭めたらそれは相手の人生を奪うも同然」と激しく同意していたけれど、私は恋愛経験どころか初恋もまだなのでよくわからなかった。


 ただ、反感を買いやすいのは後者かな? どうなのだろう? 本当によくわからない。しかし後者の三名は全員超英才教育を受けていて、親御さんは成功者揃い。自身も医療、絵画、文筆、それぞれが得意とする分野で賞の常連になっている強者揃い。


 おそらく単なる仲良しの人間関係ではなく、激しく口論したり、嫌われるとかそんなことはお構いなしの、目指す未来のために本気でぶつかり合える仲間がいるのだろう。だからどんどん視野が広がって、互いに怜悧れいりな恋人同士の信頼関係も築けている。そんなところかな。


 前者にも後者にもそれぞれの考え方があり、それに基づいて人生を歩む。いずれ作家になったらネタにできそうなシーンだから、両者の応酬をしっかり目に焼き付けた。


 この時点で「信じられない浮気は絶対ダメ!」「違う浮気じゃなくて視野を狭めたくないの!」「浮気と何が違うの!?」「恐れながらあなたがたと私どもでは住む世界が異なりますの。ですのでご理解いただけなくて結構です」と内向き対アグレッシブの衝突が始まり話はストップしたのだけれど、そうこうしているうちに同じくクラスメイトである清美さんは登校し、教室の空気は引き波のようにサーッと青ざめた。

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