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名もなき創作家たちの恋  作者: おじぃ
2006年9月

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38/307

落書きのような絵画から読み取れるもの

 あれから2週間。とうとう僕らが作った楽曲が発表される鎌倉清廉女学院文化祭の当日を迎えた。


 見知らぬ女学生たちの発表会は軽音楽部、ダンス部いずれも午後からだそうで、なんとなく11時に入場した僕は怪しさ全開で独り女子校を徘徊している。


 友恵を連れてくれば良かった……。


 知らぬ者との対面は、社交的でどんどん人脈をつくりたい友恵ならともかく、人見知りの美空にとっては気まずいだろうと今回は思いきって一人で来てみたものの、校内のほとんどを入学検討者と思しき女子小学生または中学校およびその保護者が埋め尽くし、数える程度にいる同じ年ごろの男子はもれなく複数人行動。雰囲気からして地味だけどナンパ目的っぽい。


 しかしなんだこの宮殿のような学舎まなびやは。ここに足を踏み入れてからずっとそわそわして仕方ない。本当に中学校なのだろうか? 何名かの大スターを輩出したごく一般的な、強いていえば建て替えたばかりの体育館はソーラー発電機能付きの我が校とは大違いだ。


 そわそわしながらただ徘徊しているだけでは不審者色が濃くなってしまう。とりあえず僕は2階に上がり、適当な教室に入った。どうやらここでは美術部の展示をしているようで、生徒が描いたと思われる絵画がイーゼルに立て掛けられている。


 僕のほかに数組の女学生が閲覧中だけれど彼女たちの目を気にしていたらキリがなく身が持たない。


 へぇ、漫画みたいなイラストもアリなんだ。こっちの絵は由比ヶ浜海岸だな。ここから近く、スケッチしに行きやすいのだろう。


 おっと、なんだこれは……?


 ほとんどを人物画や風景描写が占めるなか、ひときわ異彩を放つ混沌とした絵画が一枚。


 アボカドかと思いきや、タイトルは『平穏ではいられない私の心』。


 作:星川美空


 なるほど納得。美術部にも手を貸していたのか。


 キャンバスにはアボカド、またはタマゴのような楕円が赤、青、紫、焦げ茶、深緑の油絵の具で描かれている。


 ただしそれはきれいな楕円ではなく、ところどころ飛び出ている。一見落書きのような作品だけれど、ちょっと思考を巡らせると一つの推論が浮上した。


 この作品で美空が訴えたいのはタイトル通り自分自身。穏やかなまるい心で立っていたい自分だけれど、心は淀み、迷いが生じてきれいな形状になりきれない。そんな心理状態が読み取れる。


「お気に召されましたか?」


 背後から、上品で少々高飛車な重みをはらんだ人に声をかけられた。


「あ、はい、これ、僕の友人? が描いた絵なんです」


 友人? と疑問符を付けたのは、僕と美空の関係がどのようなものか掴めていないから。三郎や友恵なら友人と断言できるし、仮に僕が友人か否か判断しかねても、彼らからそう言ってくれる。


「星川さんの? わたくし星川さんのクラスメイトで、菖蒲沢麗華と申します」


「あ、えと、星川さんの近所に住んでいる清川真幸と申します」


 ウェーブのかかったロングヘアに菖蒲沢麗華といういかにもお嬢様らしい彼女に物怖じするも、人見知りの僕はいつも通り挙動不審に自己紹介をした。

 お読みいただきまして誠にありがとうございます!


 今回は1234文字でなんだかいい感じでしたのでここで切らせていただきました(/。\)

 ちなみに文庫本2ページ強分でございます。

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