リラお嬢様たちの奇行
リラの授業試験当日、王城では早朝から慌ただしかった。
「ヴァン、グラード久しいな」
ヴァンとグラードは王の間にて国王ローレンス・フォン・ロンフェローに謁見していた。
ローレンスの傍には宰相のロダンでは無く、30手前ほどの執事服を見に纏う男が立っていた。
サラッと背の高いその男の目は鋭く、何処となくグラードに似ている。
「陛下……、今日が何の日だか知っているのに俺を呼んだんですか!?」
「うむ、すまぬ、こんな日ではあるが召喚せざるを得なかった事、察してくれ。
我々が動けぬ場所で動きがあった……」
国王に謁見するやいなや不満を漏らすヴァンであったが、深妙なローレンスの前に沈黙する。
「デゼルト、でございますか」
グラードの言葉にローレンスは否定しない。
「クロード、説明を頼む」
ローレンスがそう言うと執事服の男がそっと前に出て語り出す。
「はい、かしこまりました。
先日、オスディア皇国とノートザムル間で停戦協定が始まりました。
ノートザムルが一方的に侵略戦争を始めて50年、突如としてノートザムルより打診があった様です。
オスディア皇国では当初、拒絶する予定でしたが、ノートザムルの出していた条件が、オスディア大陸からの全面撤退、捕虜の無条件解放、デゼルト大陸ミャトゥー山脈の東、モナークの譲渡、そして……、ミャトゥー山道封鎖を解除」
「ちょ、ちょと待て! モナーク譲渡にミャトゥー山道の開放?!
ノートザムルの奴ら何考えてんだ! 違う戦争が始まるぞ!」
クロードの話を遮り、ヴァンが声を上げる。
モナーク、昔、そこには獣人族の王が収めていた小さな国があった。
当時、オスディア皇国とモナークは友好関係にあり、モナークを通じて複数の国との交流もあった。
しかし、人間族による亜人迫害が始まり、戦争が始まった。
戦争を想定していなかった訳では無いが、当時のオスディア皇国には軍艦と呼べる物は無く、デゼルト大陸への出兵を断念、交流のあった国からの移民は積極的に受け入れた。
交流のあった国、それは現在、バウンセンに集まる様々な亜人たちの今は亡き国々、オスディア皇国は長きに渡り、バウンセンの解放を願い、訴えてきた。
そして、モナークからミャトゥー山脈の山道をひたすらに進むとバウンセンがあった。
「ヴァンよ、その懸念は正しいとワシも思う、オスディア皇国は停戦協定の席についた。
争いは好まぬがバウンセンの解放は我々も訴えてきた、個人として動ける立場ならオスディア皇国に手を貸したいとすら思っている。
しかし問題は、ノートザムル、奴らの真意がどこにあるかだろう……、そこで、君たちだ」
「三国の総意と言う事でございますか?」
「そう言う事だ、近いうち依頼が正式な形で届くだろう、だが、それとは別に君たちに頼みたい事がある。
オスディア皇国ロゼと数名を送り届けて欲しい、頼めるだろうか」
ここからオスディア皇国までの道のりは険しい、アストレア王国を横断し、船でデア大陸へ。
デア大陸からデゼルト大陸に渡ると、広大なデゼルト大陸を横断、更に船でオスディア大陸へ、そこから更に内陸へ進みたどり着く。
正規のルートでも半年近くかかる長きに渡る道のりである。
「デゼルト大陸の横断か……、俺が適任なんだろうな、はあ、またリラに当分会えなくなっちまう……」
「すまない、まだ何も言えぬが、どうしても必要な事なのだ。
リラの事はワシらが責任を持って見守ろう」
「まあ、あの学園にはあの人たちがいますし心配はしてないですよ。
わかりました、その依頼、我々『魔王の屋敷』が引き受けましょう」
ヴァンはローレンスの依頼を渋々承諾した。
「ところでヴァン、その名、どうにかならんのか……」
「それは国王様が直接言って下さい、国王様が言えば変わるかも知れませんよ」
「いや、無理であろうな……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「リラお嬢様、急いで下さい! 先方はもう、到着していると連絡が来ています!」
私は門前に馬車を待機させ、玄関より大声を上げた。
「ルーク、それ耳タコ〜! 何で2時間も前に来てんだよ、あのババァ!!」
「リラお嬢様、言葉使い! 身分ある方々もお見えになっているのですからね!」
リラお嬢様には早めに用意をさせておいたのですが、先方は早くもマウントを取りに来ている様です。
これは私の落ち度、敵を甘く見ていました。
「リラ様! こ、これを持って行かれるのですか?!」
「あっ、それ大事! 持てる?」
「お任せ下さいリラ様!」
味方?も甘く見ていました、リラお嬢様とメアリーさんのやり取り……、急ぐ気配が全くありません。
そして……、出て来た2人は仲の良い姉妹の様にお揃いの白のワンピースをおめしになり……。
「なっ、なんて格好してるんですか?! それに、その荷物は?!」
季節は年末、気温は低く、馬車で待っているアランとミランは厚手のコートを羽織り、私もまた、動きを阻害されない程度に厚着をしています。
しかし、2人は薄手のワンピース一枚……。
しかも……、メアリーさんの両手には風呂敷で包まれた何かに、背中には大きなハンマーに草を刈る鎌。
リラお嬢様の両手にも同様の荷物に、背中には大きなフライパンや椅子が結い付けられていた……。
「さあ、行くよ〜!」
「はい!」
「……」
「行くよ〜! じゃ、ありません! 風邪をひいてしまいます! それに、何ですかその荷物は?!
そもそも何当たり前の様に徒歩で向かわれ様としているのです!
馬車をお使い下さい! もう先方は到着しているのですよ?!」
「え? まだ2時間もあるじゃない」
私は執事、当然突っ込まずにはいられませんでしたが、リラお嬢様の次の一言で私は沈黙、更に追い討ちがやって来ます。
「そうですよ、ルーク様、まだ2時間もあるじゃないですか」
「そ、そうですよねぇ〜」
メアリーさんに言われると返す言葉がありません……、仕方がない。
「アラン、ミランまた何かあるかも知れません、馬車をギルドに置いたら一般ギルド内で待機しておいて下さい」
私は意気揚々と歩く2人の後を追いました。
「メアリーさん、お荷物私がお持ちしましょう」
私は追いつくとメアリーさんが持つ荷物を持ってあげようと声をかけます。
執事としてはリラお嬢様の方に声をかけるべきなのでしょうが、リラお嬢様は好きでそうなされているご様子、私がメアリーさんに声をかけるのは当然の事なのです。
「あっ、大丈夫です」
「いや、良いから渡しなさい」
ズシッ!
——え?!!
半強制的に荷物を手にした私は驚きを覚えます。
荷物の重さが尋常では無かった、私も男です、持てない訳ではありません。
しかし、それはズッシリと重く、女の子の細い腕には耐え難い重さでした。
「メ、メアリー、コレは……」
——えっ、今なんと……?
私は耳を疑いました。
「重りですよルーク様」
——お、重り?? なぜ??
「鍛錬中ですので、コレは私が」
そう言うとメアリーさんは私の手からから風呂敷を受け取ると平然とした様子で歩き出しました。
「ふ、2つとも重り……、ですか?」
「はい!」
「リラお嬢様が持たれているアレも……」
「はい! 重りです」
振り返り、そう言うメアリーさんはとても可愛く、とても嬉しそうな笑顔をしていました。
——重り……、鍛錬……。
私は道中、その事が頭から離れず、道中、2人が持つ重りから目が離せませんでした。
「あっ、お待たせ」
ギルド手前、広場に着くとリラお嬢様は広場中央にある花壇の方へと早歩きで向かいます。
その先にはランス様とティファ様、そしてティファ様の服装は白のワンピース、両手には……二つの風呂敷が……。
私がティファ様のそれに気が付き顔を硬直させていると、ランス様もまた、リラお嬢様とメアリーさんの持つ風呂敷を眺め驚いた様子で顔を硬直させていました。
読んで頂きありがとうございます。
次回投稿は11月22日(月)の予定です。
多くの皆様に読んで頂ける様、精進して参ります。
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