シスコも頑張っている
ライオネルに着いたマーギン達はシスコの仕事ぶりを見学。
漁港で在庫の確認や、これから仕入れを増やしてほしい魚の指示をしている。
「こんなのどうやって処理するのよ?」
マーギン達がシスコの仕事ぶりに感心していると、シスコが何か揉め始めた。
「う、売れなければ、こちらで処理しますし……」
「どうやって処理するっていうの? それに、これを獲ってくる漁船とは契約してないじゃない」
「あの……こいつを獲ってくる船長も困ってまして、ちょっと手伝ってやれないかなと……」
「勝手なことをしないでちょうだい。ちゃんと契約してるならともかく、王都で取り扱ってないものなんて責任持てないじゃないっ!」
「どうした?」
「聞いてよ、マーギン。こんなの勝手に取り扱ってるのよ。契約もしてないのに」
と、見せられたのはクジラだ。
「あー、以前にクラーケン討伐に協力しなかった漁船か」
マーギンもクジラ漁船のことは覚えていた。
「クジラはライオネルで消費してるんじゃなかったのか?」
「そ、そうなんですけど、最近売れ行きが落ちて、困ってるようなんです」
組合に入らなかった漁船のことまで知ったこっちゃないが、ライオネルの漁師達は昔からの知り合いだからな。困ってたら助けてやりたいと思うのは当然か。と、マーギンは状況を理解した。
「どうしてクジラが売れなくなった?」
「タイベから旨い豚肉も入ってくるようになりましたし、牛肉の流通も増えたからだと思います。それに安い肉は魔狼肉が主流になりまして……」
ハンナリー商会の流通が上手くいきだした影響を受けたのか。牛肉ほど旨くなく、魔狼肉より値段が高いからだな。
「シスコ、クジラが売れなくなったのは、ハンナリー商会の影響もあるな」
「そんなの知らないわよ」
また面倒なことを言い出しそうなマーギンにツンするシスコ。
「クジラも甘醤油で煮たら、結構旨いんだけどな」
「マジか?」
と、甘辛に反応するバネッサ。
「シスコ、旨かったら取り扱いしてやるか?」
と聞くと嫌な顔をするので、眉間のシワを伸ばしてやる。
「触らないでよ!」
「またヒスコになってんぞ。お前の方が立場が上になるんだから、現場で頑張ってる人たちに威圧をすんな。お前らも勝手にやる前に、報告ぐらいしとけ。ヒスコが怒るのも無理ないだろ」
と、両方に注意をしておく。
「ヒスコさん、勝手なことをしてすいませんでした」
ヒスコ呼びが定着しそうなシスコ。
「どうやって食べるのよ」
「なら、いろいろと作ってみて、食べてみようか」
と、今日はクジラ尽くし料理にすることに。
定番の大和煮、竜田揚げ、刺身、皮下脂肪を鯨油で揚げたコロを魔法を併用して作る。
「生で食うのか?」
ライオネルではステーキが一般的な食べ方だ。しかも、熱をしっかり通すので硬い肉になる。ロッカは好きそうだが。
「クジラも生で食べられる。ニンニク醤油で食べようか。生姜醤油でもいいぞ」
そして、クジラ尽くし料理での宴会。あちこちから、これがクジラか? と驚きの声が聞こえてくる。
「マーギンは食わねぇのか?」
と、大和煮をモグモグしながらバネッサがおでんを作っているマーギンに話しかけてくる。
「これももうすぐできるから、気にせず食ってろ。甘辛く煮たのも旨いだろ?」
「あぁ、クセもそんなに気にならねぇ。フツーに旨ぇ」
おでんも完成したので、マーギンも宴会に参加。酒は日本酒か焼酎だ。
「マーギン、クジラは初めて食ったが、なかなか旨いな」
「クジラは火を通し過ぎると、かなり硬くなりますからね。ここで保管したやつなら刺身でも安全に食えます」
マーギンもニンニク醤油でクジラの刺身を食べ、焼酎をロックで飲む。
「うん、旨いわ。これ、飲み屋街の名物になるんじゃないか?」
と、倉庫で働く人たちに聞いてみる。
「こんなに旨い食べ方があるんですね。これなら勝負になりますよ」
「だってよ。シスコ、クジラ漁船と契約して、取り扱いしてやれば?」
「で、でも……」
ここで働く人たちの話によると、クジラ漁船の船長は、以前クラーケン討伐のときに協力しなかったことで、ハンナリー商会に取り引きしてほしいと言えなかったようだ。
「王都で扱わなくても、ライオネルだけで消費できるんじゃないか? それなら、こいつらに任せとけばいいしな。あと、これも食ってみろ」
と、おでんのコロをシスコに食べさせた。
「美味しい……これもクジラなの? ぜんぜん硬くないし、口の中で溶けるみたいな感じだけど」
「それは脂だから、肉みたいに硬くならん。それに出汁が出るから、他の具材も旨くなる。臭み抜きをちゃんとしてやらないとダメだけどな」
シスコは日本酒を飲みながら、真剣な顔でおでんを食べていた。
クジラ尽くしで盛り上がったことで、飲み屋街に来ていた人たちも、何があるんだ? と集まってきた。
「みなさーん、これから扱う新商品です。食べていってください。お酒は有料です」
酔ったシスコは集まってきた人にクジラ料理を振る舞うと言い出したが、酒は金を取るとしっかりしていた。
「マーギン、おでんにカニを入れて」
「はいよ。カニはすぐに煮えるからな」
剥き身にして、おでんの出汁に漬けるとすぐに完成。
「コロも入れて」
どうやら、カニとコロのコラボを楽しみたいようだ。
「カニコロカニコロカニコロー♪」
シスコが壊れたのかと心配したが、上機嫌で歌いながら食っているので大丈夫だろう。
スー、スー。
酔って寝てしまったシスコに毛布をかけておく。
「随分とストレスがたまっていたようだな」
ロドリゲスがシスコの様子を見てそう言った。
「前に比べたら、マシみたいだけどね」
「こいつはいつも冷静で、一歩後ろから見て物を言うやつだと思ってたんだがな」
「どうだろうね? 俺にはいつもこんなんだぞ」
「うちにもだ。シスコのどこが冷静で一歩後ろから見て物を言うやつだってんだよ」
と、マーギンとバネッサが言う。
「なら、お前らには気を許してるってこった。今回、ここに一緒に来たのは少し淋しくなったからかもしれんな。進む道が別になったが、そういうことに気づいてやれよ」
ロドリゲスは笑いながらそう言って、大隊長達とまた飲み始めた。
「結構冷えてきやがったな」
バネッサはそう言って、寝ているシスコを見る。
「大隊長達もまだ飲むみたいだから、ここで泊まるか」
マーギンはそう言って、マットレスを出してシスコを寝かせ、その上にコタツを置いた。
「幸せそうな顔をしやがってよ」
と、バネッサもコタツに入り、マーギンもコタツに入った。足を伸ばしたいがシスコが邪魔だ。バネッサは遠慮なく、シスコの上に足を乗せている。
「あー、ずっるーい」
と、カタリーナがマーギンの隣に乱入。
「あれ? 出ちゃうの?」
「足を伸ばせんコタツはしんどいからな」
そう言って、バーベキューコンロを出して炭に火を点ける。
「おー、温か……くもないな」
前だけ暖かくて、背中側が冷たいので毛布を羽織る。
「お湯割り飲んじゃお」
と、暖まるために焼酎のお湯割りを飲んでいると、ローズが隣に座ってきた。
「私にももらえるか? 姫様はコタツで寝てしまったようだ」
コタツの方に目をやると、バネッサとカタリーナもシスコの隣に並んで寝ていた。
「甘いのにする?」
「同じのでいいぞ」
ローズにお湯割りを渡して、羽織っていた毛布をローズにもかけ、2人で羽織る。
「こうしていると暖かいな」
「そうだね」
マーギンは寒いのも悪くないもんだと思いながら、炭火の柔らかな明るさに照らされるローズの横顔をチラッと見るのであった。




