対決その2
《パラライズ!》
マーギンがプロテクションでは防げないデバフ魔法を敵味方関係なく全方向にかけたことで、痺れてバタバタと倒れていく子供達。
「悪い、みんなもしばらくそのままでいて」
全方向にかけたので仲間にもパラライズがかかっている。
「てめぇ……何しやがるつもりだ?」
バネッサがマーギンの様子を見て動こうとする。
「バネッサ、無理して動くな。そのまま見とけ」
《プロテクション!》
魔導具で自動攻撃されても大丈夫なようにみんなをプロテクションで包んでから、元第一王子の所に向かったマーギン。
「ぐっ……うぐ……」
「お前に聞きたいことがある」
マーギンはそう言って、第一王子のパラライズを解除した。
「これがパラライズですか。敵を無効化する素晴らしい魔法ですね」
元第一王子は笑顔で対応する。
「うるさい。俺の聞くことだけに答えろ。プロテクションで俺の攻撃を防げると思うなよ」
バシュっ。
「ガッ……」
マーギンはパーフォレイトで男の肩を撃ち抜いた。
「分かったら素直に答えろ」
「こんなことをしなくても初めから素直にお答えしますよ。ノウブシルク王」
「お前、トルクに何をした?」
マーギンから自然と威圧が出て恫喝する。
「何を怒ってらっしゃるのですか? トルクの命を救ったのは私ですよ」
その言葉を聞いたマーギンの眉がピクッと動いた。
「魔力暴走はご存知ですか?」
マーギンは黙ったまま答えない。
「その様子ならご存知のようですね。トルクは私の血が濃いのか、生まれたときから魔力値が高かった。他の子供達も同じです。何もしなければ死にゆく存在です。まぁ、トルクは特別でしたので、他の子供達とは少々違う方法を施しましたが」
「だから、何をしたかを聞いてるんだよっ!」
バシュっ。
反対側の肩をパーフォレイトで撃ち抜く。
「魔力暴走を防止する処方を施したのです。トルクには心臓にですが。ご存知ですか? 額に施すより、心臓に施す方が難しいのですよ」
と、自慢気に話す。
「支配する魔法陣まで刻んだのか?」
マーギンはそんな魔法陣があるか知らないが、ブラフでそう言った。
「子供が親の言うことを聞くのは当然のことでしょう? まぁ、母親がトルクを連れて逃げたのは誤算でしたが、血の繋がりは侮れませんね。こうしてちゃんと自ら戻ってきてくれたのですから」
男は話をはぐらかしたが、恐らく正解なのだろう。
「何が目的だ?」
男はニヤリと笑う。
「王は魔人の存在をご存知ですか?」
またマーギンの眉がピクリと動く。
「さすが、博識でいらっしゃる。私は確かめたいのですよ。魔王がどのような存在なのかを」
「魔王だと……?」
「王は魔王を名乗られておられますよね? 私は王が本物の魔王なのか確認をしたかった。この廃坑に入っても平然と魔物を倒し、ここにたどり着かれた。魔王ならこれぐらい平気なのは当然です。なにせ、魔物を生み出すのが魔王なのですから」
マーギンは口を挟まずに、男の話すことを聞いた。
「魔物と動物の違いは、魔核があるかないか。と言うより、動物に魔核が与えられ、魔物になったというのが私の仮説です。そして、魔物になると寿命がなくなる。であれば、人間に魔核を与えれば魔人になるのではありませんか?」
あの子供達に埋め込まれた魔結晶は魔核の代わりのつもりか。
「魔人なんていない」
「そうでしょうか? ではお見せしたいものがあるのですが、動いてもよろしいですか?」
マーギンは小さく頷くと、男は撃たれた肩で上手く動かない手で引き出しから、ザラッと宝石を出した。
「実に見事な宝石でしょう?」
「宝石には興味がないからどうでもいい」
「ではご説明しましょう。この宝石は人工的に作られたものなのです。天然の宝石と違って、気泡や不純物がまったくない。実に美しい宝石だ」
「そんなものはたまたまに決まってるだろ」
「それは違います。これはこの部屋からゴロゴロと出てきたものです。このような様々な種類の宝石がこれだけここにあったにも関わらず、大切に保管されていませんでした。つまり、この宝石は大切にするほどのものではないと言うことです」
マーギンは今の男の言葉で、この部屋は過去に魔人の巣だと言われていた部屋なんじゃないかと思った。自分が持っていた宝石も魔人の巣にあったもの。まさか、本当にこの宝石が人工宝石なのか……と思わざるを得ない。
「どうやら、信じていただけたようですね。そう、いくら見事な宝石でも、人工的に作り出せるなら、そこまでの価値はありません。しかし、そのことを誰も知らなければどうなります?」
人工宝石を作り出したものは幽閉されたか、殺されたか、か……。
「これを作り出したものは、どれぐらいの年月をかけて作りあげたのでしょうね。一度きりの短い人生でこれを作れるものでしょうか?」
「何が言いたい?」
「これを作った方の記録を読み解きました。300年近くかかって作ったようです」
「なんだ……と?」
「ここは研究室だったようでしてね、宝石以外にも、魔導具や兵器の研究、それに……」
男は焦らすように話すのを止める。そして、マーギンの反応を確認してから、信じられない言葉を言った。
「異世界召喚」
「なん……だと?」
「はっはっは」
マーギンの反応を見て、男はいきなり笑いだした。
「これもご存知とは恐れ入りました。あなた本当に何者なんですか? 誰も知り得ないことを知ってらっしゃる。それともシュベタインにもこのようなことを研究している人がいるとでも? それはあり得ませんね。もし研究していたなら、あんなしょぼい魔導兵器に驚くはずはありませんからね。ということはあなた自身が知っていたということになります。違いますか?」
マーギンはいきなり図星を突かれて反応ができなかった。
「まぁ、いいでしょう。異世界召喚は研究されてはいましたが、成功した記録がありません。それにかなりの魔力が必要になる。その魔力も魔導具で何とかなりそうですがね」
「まさかお前……」
「魔力を集める魔導具は多大なリスクがあるのです。何かあればその地が失われるほどの破壊力を秘めているのですよ。ゴルドバーンは大変だったようですね」
こいつ……あの召喚装置と魔力を集める回路をゴルドバーンに伝授したのか。
「異世界からきたのは人間とは呼べない者のようでしたが、理論がある程度正しかったと立証されたのは僥倖でした」
「お前……」
「そうそう。話が逸れてしまいました。王の聞きたいことは私の目的でしたね。私の目的は魔人になることです」
「なんだと?」
「この国だけでなく、他の国も愚かな人間が多すぎると思いませんか?」
「何が言いたい?」
「最も多くの人を殺したものは何だと思います? 病気ですか? 怪我ですか? それとも魔物?」
「だから、何が言いたいっ!」
元第一王子の言葉に翻弄されるマーギン。
「人ですよ」
「何がだ?」
「人を一番殺したのは人なのですよ、ノウブシルク王」
と、真面目な顔をしてマーギンを見つめた。
「人はちょっとしたことで殺し合う。平穏な国であっても王が変わればまた争いの繰り返し。そして、この大陸は人が滅亡しかけた。実に愚かな生き物なのですよ人間というものは」
こいつはどこまで知ってるんだ?
「しかし、私が魔人となり、この世界を支配すれば、未来永劫争いはなくなる」
「たとえ、寿命がなくなっても、永遠が続くと思うな」
「そうでしょうか? 人々が私の言うことをきちんと聞けば可能だとは思いませんか?」
マーギンはここにきて、この男のやろうとしていることを理解した。
「傀儡の世界を作ろうとしているのか、お前は……」
「当たらずとも遠からずってところです。同種族を気に入らないという理由で殺し合うのは人間だけです。気に入らないという感情は欲から生まれるのですよ。そんなつまらない欲はなくせばいいのです」
「それはお前が決めることじゃない」
「いいのですか?」
「何がだ」
「このままだと、いずれ人類は同じ道を辿ります。今度は絶滅するかもしれませんね」
マーギンは少しずつ、こいつの言い分も分かると思い始めたのであった。




