対決
翌朝、大隊長達ともう一度坑道図を見て、どこかに違和感がないか確認をする。
「坑道は入り組んでいるが、道を間違えたとは思えんな」
「そうですね。それに、魔物だらけの坑道を行き来するのも変なんですよね」
「確かにな」
ここを拠点にしているのならば、もっと楽に外に出られるようにしているだろうとの結論に至った。
「隠し部屋か」
と、オルターネンが呟く。
「ねーねー、マーギン。前みたいな仕掛けがあるんじゃない?」
カタリーナは謎解きが好きなのか、マーギンの横から坑道図を覗き込みながら、ふむふむと何か分かったような顔をする。
「謎はすべて解けたわ!」
どこでそんなセリフを覚えたんだ?
「ここだけ坑道がないのって、変よね。きっとここが隠し部屋なのよ」
坑道は入り口からまっすぐ奥に向かって、途中からいくつかに分岐している。マーギン達は一番奥まで続いている道を選んで進んだのだ。
「そこって、サラマンダーが出たポイントより入り口に近いじゃないか」
「そうよ。ここまでなら、魔物が出なかったじゃない」
「確かにそうだけどさ」
「壁とかもっとよく見て探せばいいじゃない。どうせ奥に行くにしても通り道なんだし」
ということで、壁に何か仕掛がないか探しながら進むことにした。
ぺたくたぺたくた。
あちこちを触りながら進むカタリーナ。バネッサとカザフは天井を見ながら進む。
「あっ……」
壁を触っていたカタリーナが声を上げた。
「どうした?」
「ここ触ってみて」
と、カタリーナが言うので、マーギンが確かめる。
「なんか変なのか?」
「他の所より少し温かいの」
「えっ?」
一箇所だけ触ってると気づかないほどの差だが、他の所と触り比べると確かに少し温度が高い気がする。
「本当だな」
だが、何か仕掛があるようには見えない。
「ちょっと静かにしててー」
と、トルクが地獄耳を使い、壁に耳を当てる。
「音が聞こえる」
マーギンも地獄耳を使って壁に耳を当てた。
「モーター音かなんかだなこれ。カタリーナ。ビンゴだ」
そうマーギンが言うと、とても満足そうな顔をした。しかし、隠し部屋に入るための方法が分からない。
「壊すぞ」
ドゴッ。
マーギンが思案する間もなく、大隊長がヴィコーレで壁をぶち抜いた。何か仕掛があったらどうすんだよ? とマーギンは突っ込みかけたが、特に仕掛はなかったようだ。
もうもうと舞い上がった土煙が収まると、パチパチパチパチと、拍手の音が聞こえた。
「よくたどり着きましたね、ノウブシルク王」
壁の向こうは機械がたくさんある近代的な部屋になっており、机に座る男が拍手をしていた。
「お前は、第一王子だな?」
「元、と言った方が正しいですね」
元第一王子は慌てる素振りも見せない。それにこいつは……と、マーギンは固まった。
「どうされましたノウブシルク王? 私に用があったのではないですか?」
マーギンが目にした男の髪は長く、後でくくっているがフワフワのくせっ毛。しかもこの顔立ち。
「お前、トルクの父親か?」
「ほう。私の子はトルクと名付けられたのですか。無事に成長したようで何より。では、トルク。こちらに来なさい」
「誰がお前の元になんかっ!」
そうマーギンは叫んだが、トルクの様子がおかしい。フラフラと男の元へと歩いて行こうとする。
「トルクっ、どうした」
目の光が消えたトルクがマーギンの顔を見た。
ぎゅっ。
「ぐっ、お前何を……」
トルクが見えない手でマーギンの首を掴んだ。
「いいですよ。実に素晴らしい。やはりお前は私の最高傑作だ」
その様子を見た元第一王子が手を叩いてトルクを褒める。
「何やってやがんだっ!」
バネッサがトルクに向かってオスクリタを投げた。
ぎゅっ。
「てっ、てめぇ……」
オスクリタを見えない手で掴み、そしてバネッサの首も絞める。それを見た大隊長とオルターネンがトルクを止めようとしたときに、全員が見えない手で掴まれた。
トルクのやつ、これだけ同時に見えない手を出せるのか……
首を掴まれているマーギンはトルクの本来の力を初めて知る。
「そのまま殺しなさい」
そう指示されたトルクの見えない手に力が入る。しかし、トルクに攻撃ができないマーギンは身体強化で絞め落とされないようにするのが精一杯だ。
《シャラ……ンラン》
そのとき、カタリーナが振り絞るような声でシャランランを唱えた。
フッ。
一瞬、見えない手の力が緩んだ。
「目を覚ませ馬鹿野郎っ!」
ビタンっ!
マーギンは見えない手から逃れ、トルクにビンタをした。そのことで全員を掴んでいた見えない手が消えた。
「トルクっ、俺だ。マーギンだっ。分かるか!」
トルクの肩を激しく揺さぶるマーギン。
「ま、マーギン……」
トルクの目に光が戻る。
「死ねいっ!」
大隊長とオルターネンがその隙を突いて、元第一王子に斬りかかった。
ガキンっ。
「なんだと?」
ヒュンヒュン。
バネッサのオスクリタも攻撃を仕掛けたが、すべて弾かれる。
「無駄ですよ」
「プロテクションか?」
「御名答。いや、実に便利ですねこの魔法は」
プロテクションを使った元第一王子をすぐさま鑑定するマーギン。しかし、光属性の適性はない。
「お前、魔導具でプロテクションを出したのか」
マーギンが眉を顰めて睨みつける。
「御名答。さすがノウブシルク王になられただけのことはありますね。実に聡明だ。あの無能な王よりずっとノウブシルク王に相応しい」
「実の父親を無能呼ばわりするのか?」
「それが何か?」
と、微笑んだ。こいつは何を考えてやがる……と、マーギンは理解ができない。
「トルク、こっちに来なさい」
と、命令されるとまた目から光が消える。
ドゴッ。
マーギンはトルクの腹を殴って気絶させた。
「おや、子供には甘いと伺ってましたが、随分と酷いことをなさる。あー、そう言えばトルクはもう成人する年齢でしたか」
「きさま……」
マーギンから怒りの魔力が溢れ出す。
「では、こちらはどうですか?」
ズガガガガ。
《プロテクション!》
ストーンバレットが無数に撃ち込まれたが、咄嗟にプロテクションを出して防いだ。ストーンバレットを撃ったのは、他の部屋から出てきた子供達。
ズガガガガ、ズガガガガと、プロテクションで防がれようがお構いなしに撃ってくる。
「さ、どうしますか、ノウブシルク王。このまま撃ち続けると、子供達は魔力切れで死んでしまいますよ」
自分の意思ではなく、命令によって撃たされているストーンバレット。恐らく、本当に魔力が尽きるまで撃ち続けるのだろう。
そう理解したマーギンは覚悟を決めるのであった。




