公人
坑道図を頼りにさまよい続けるマーギン達。
「あの水溜まりに……」
「ひっ……」
サラマンダーが出るのではないかと怖がってマーギンにくっつくローズ。それを楽しむように水溜まりを見つけてはローズに教えるマーギン。
「マーギンは何を楽しんでいるんだ?」
「オルターネン、そう言ってやるな。あいつの精神が落ち着くのなら放っておいてやれ」
先頭は大隊長とオルターネン、カザフに任せている。その後にマーギンとローズ。続いてカタリーナの護衛にトルクとタジキ。最後尾はロッカとバネッサとアイリスの並びだ。
「アイリス、あの上にいるやつを焼け」
「はい」
コウモリ系や虫系の魔物は上にいることが多く、面と向かって襲って来ないパターンが多かったことから、背後から攻撃されないようにバネッサとアイリスが最後尾を任された。暗視魔法で岩陰に隠れているようなやつをバネッサが見つけ、アイリスが焼き殺す。撃ち漏らしはオスクリタで迎撃する必勝パターン。正面から襲ってくる魔物は大隊長達が討伐していた。
「おかしいな。大隊長、ちい兄様。ちょっと待って」
「どうした?」
「ここ、さっき通った道だと思う」
坑道はどこもよく似ている。すでに整備されていない洞窟のようになっているが、足元の岩の形は前に見たものと同じだ。
「似ているだけではないのか? 分岐点はなかっただろ?」
先頭を歩いていたオルターネンは勘違いじゃないのかと言う。
「そうなんだけどね」
「隊長、マーギンの言う通りだ。ここはさっき通ったぞ。天井のあそこに焦げたところがある。あれはアイリスが焼いた跡じゃねーかな」
と、バネッサもさっき通った場所だと言ったことで、みんなで坑道図を確認することにした。
「ここをこう来たはずだな」
と、大隊長も首をかしげる。
「そのつもりですけどね。どっかで間違ったのかな?」
坑道図ではそろそろ最深部のはずだ。
「第一王子のいる場所はどこなんだろうな?」
オルターネンも坑道図を見ながら、肝心の場所も見つからないことに疑問を持った。マーギンは、最深部に第一王子の部屋があるものと思っていたが、そうではないのかもしれない。
「ねー、マーギン。あの子供達がこんな奥から来たのかなー?」
トルクに言われてマーギン達も、うーんと頭を悩ませる。
「そう言われりゃそうだな。俺達だからスムーズに進んでいるが、あの男が付いているとはいえ、こんな魔物だらけの坑道を通るのは不自然かもしれん」
「隠密頭はこの廃鉱山に見張りを立てていたから、場所自体は合ってるはずだ。この坑道図に描かれていない道があるのではないか? どこかで見落としたかもしれん」
と、休憩をしてから元の場所に戻ることにした。
「ここ、さっき通ったぜ」
まただ。一本道を歩いているはずなのに、また同じ場所に出てきた。
「これは何か仕掛けられてるな」
と、マーギンは呟いた。
「どうするマーギン。仕掛けを探すか?」
「いや、謎解きをしにきたわけじゃないから、しきり直そう、ちい兄様。転移魔法で入り口まで戻る」
こうして、坑道を彷徨ったマーギン達は入り口まで転移魔法で戻ったのだった。
「もう、夜になったのか」
入り口まで戻ると日が暮れていた。第一王子に逃げられるかもしれないが、みんなも疲れているので、ここで野営をしてから探索を再開することにした。
「ねー、マーギン。一緒に寝ていい?」
と、カタリーナが言ってきた。
「自分のテントで寝ろ」
「でもローズがね、怖いんだって」
「ひっ、姫様。私は怖いなどと言ってません」
「でも、なんか物音がしたら、びくってするじゃない」
どうやら、ローズは目を瞑るとサラマンダーが襲ってくるような気がしてダメなようだ。プロテクションを張ってるので、襲われる心配がないと分かっていても、精神的ダメージを受けたのはすぐに抜けないものなのだろう。
「分かったよ」
バネッサとアイリスが来る前に、先手を打ったカタリーナは「よしっ!」と小さくガッツポーズ。
「ねぇ、マーギン。第一王子を見つけたら、殺すつもり?」
カタリーナが寝る前に嫌なことを聞いてくる。
「多分な」
「どうして?」
「危険だからだ。今の俺はノウブシルクの王として民を守る義務がある。第一王子は子供を兵器にした危険人物。頭も相当キレるはずだ。そのうち人類を滅ぼすような物を作り出す可能性がある」
「可能性だけで殺すの?」
「可能性だけの問題じゃない。子供を兵器化した。それだけで十分な理由だ。それにあの子たちを兵器化する前に、失敗した子供もいるはずだからな」
と、マーギンから、殺気にも似た威圧が漏れる。
キュッ。
後からローズが手をつないできた。
「マーギン、お前がやろうとしていることは理解している。しかし、怒りで人を殺すな。冷静に判断して、それでも必要だと思うなら殺れ」
ローズにそう言われて、威圧が収まったマーギン。
「……ローズは殺すことには反対しないんだね」
「私もマーギンに人を殺してほしいとは思っていない。しかし、ノウブシルク王は公人だ。王の判断ならば仕方がない。それは裁きというものだからな」
公人か……。
「今の俺は人を裁く権利があるってことか」
「王とはそういうものだ。王が常に正しいわけではないが、決めるのは王だ。何が正しくて、何が正しくないのかは見方によって違う。マーギンが納得していればそれでいい」
そうローズに言われて、マーギンはローズの手をキュッと握り返したのであった。




