ヌケサクマーギン
「どう、オルターネン?」
「ありがとうございました姫様。もう何ともありません」
カタリーナにシャランランしてもらったオルターネンは、痺れていた腕をぐるぐると回してからお礼を言った。
「マーギン、これを放置しているとどうなるのだ?」
オルターネンがビッグモスキートの麻痺毒を食らっても慌てなかったマーギンに、大隊長が後遺症などはないのかと聞いてくる。
「通常は一日も痺れてないはずなんですよね。気化したやつを思いっきり吸い込んだりしない限り」
「ふむ、ではオルターネンは想定したより、痺れが長引いたのだな?」
「みたいですね。自分も知らないだけで、人によって違うのかもしれません」
「俺は身体が弱いのか?」
「弱い強いじゃないとは思うんだけど、痺れ慣れてないとかはあるかもね」
「痺れ慣れ?」
「うん、ちい兄様は感覚に敏感なのかもしれないね。バネッサは痺れ慣れてるから、もっと早くに治るかも」
「痺れ慣れてなんかねぇっ!」
仲間の中でパラライズを一番食らっているのはバネッサだ。
「お前、俺のパラライズを何回も食らってるだろうが。少しずつ効きにくくなってるんだぞ」
「マジでか?」
「本当。試しに同じ強さのパラライズを2人にかけてみようか?」
「マーギン、やってみてくれ。どれほどの差があるか試したい」
「う、うちは嫌だからな」
「そう言うな。比較対象がいないと分からんだろうが」
嫌がるバネッサを大隊長が逃げないように掴み、オルターネンと同時に軽くパラライズをかける。
「ぐぎぎ……って、なんだよ、こんなんなら平気だぜ」
と、バネッサはすぐに解除されるが、オルターネンは結構長めに痺れていた。
「マーギン、本当に俺とバネッサに同じ強さでかけたんだろうな?」
「本当だよ。やっぱり、ちい兄様は痺れ耐性が低いんだと思う」
「慣れたらマシになるのか?」
「分かんないけどね。俺の転移酔いと同じような感じだったら慣れないだろうし、慣れ、不慣れの問題だったら耐性は付くと思う」
「よし、ではもう少し強めにかけてくれ」
「了解《パラライズ!》」
「くぎぎぎぎ、なんでうちにまでかけけけけけ」
つい、バネッサにまでかけてしまったが、検証ということにしておこう。
やはり、バネッサの方がずっと早く解除され、オルターネンはしばらく痺れ続けた。
「ねぇ、マーギン。遺跡は見つからなかったんだよね?」
大隊長から何をしてきたのか聞いたカタリーナ。
「残念ながらな」
「どこを探したの?」
マーギンはざっくりした地図を地面に描き、ここからこう進んで、こう戻ってと説明する。
「じゃあ、まだこの辺とか探してないんだよね? もう一度行くの?」
「そのつもりだけど、秋の終わりになってからにする。夏場は木々が茂ってるのと、ビッグモスキートの数が多すぎる」
「そのときは連れていってね」
「危ないだろうが」
「でも、また見付からないかもよ?」
「お前が行ったら見付かるとでも言いたいのか?」
「そう! 私がいた方がいい気がするの」
と、なんの根拠もなく言うカタリーナ。しかし、ミスティの魔導金庫を解錠したカタリーナ。なんか、そういう巡り合わせ的なものがあるんじゃないかと思えてくる。
「そのときに聖女が必要なかったらな」
そして、絶対に行くからと両手の拳を握ってふんす、としていた。
「マーギン、隊長はまだ痺れてるぞ」
と、バネッサが呼びにきた。
「あの程度なら死ぬことはないから、耐えてもらうしかないね」
晩飯をカニドゥラックで食べながら街道の休憩所の進捗状況を打ち合わせ。
「工事は順調に進んでるわよ。マーギンが面倒なところをやっておいてくれたんですってね」
と、シスコはツンモード。
「俺にできるところまではな。順調に進んでるなら、ゴルドバーン側もやっておくか」
「そうね。そうしておいてちょうだい」
シスコはこの件でマーギンに怒った手前、素直にありがとうと言えない。国営事業をハンナリー商会単独で請け負い、それが順調に進んでいるのだ。他の商会からしたら、喉から手が出るほど欲しい案件だったからだ。
「了解。俺はそのままゴルドバーン経由でノウブシルクに戻るけど、同じようにしておくから。あと、小麦とか食料関係を可能な限り、手配しておいて欲しい」
「何に使うのかしら?」
「焼け石に水かもしれんが、ゴルドバーンに持っていく」
「分かったわ。倉庫にあるもの全部持っていってちょうだい」
「そんなことをしたら、こっちが困るんじゃないのか?」
「シュベタインには他にも商会があるわ。それに、もう収穫も始まってるからいいのよ」
「そうか。それなら遠慮なく持っていくわ。金は誰に払ったらいい?」
「マーギン、その費用は国に請求してもらえ。ゴルドバーンへの支援品のひとつにする。シスコ、ハンナリー商会からではなく、シュベタインからの支援物資だとしてもかまわんな?」
「かまいませんわ」
飯が終わって、明後日に出発することになったマーギン。
「マーギン」
と、シスコに呼び止められる。
「なんだ?」
「ハンナリー商会をこの国で一番大きな商会にするわ」
王都で一番ではなく、国で一番と言ったシスコ。
「おう、頑張れよ」
「あ、ありがとう」
「おっ、デレた」
「うっ、うるさいわね」
シスコは赤くなって怒る。
「大変だと思うけど、あとは頼むな。俺もやれることはやっとく」
「うん」
翌日、倉庫にある小麦粉や米、根菜など、日持ちのする食料をごっそりと受け取り、マーギンは次の日の早朝に出発した。
ぞろぞろ。
結局、全員で行くことになり、まるでピクニックのようだ。
そして、1つ目の野営ポイントに到着。
「おー、けっこうできてるな」
一泊するには十分な野営地ができている。煮炊きできるようなカマドがいくつもできていた。
マーギンは時間をかけて水を出す回路を描いて、水場を完成させていく。
「魔石か魔結晶をセットしたら水が出るんだな。これ、壊されたり、盗まれたりしないのか?」
「強化魔法もかけたし、防犯の魔法陣も仕込んでおいた」
「あの、スライムみたいにまとわりつくやつか?」
と、バネッサが聞いてくる。
「いや、あれは追い払うためのものだったけど、これは蛇口を盗もうとするやつに攻撃する本物の防犯魔法が発動する」
「どうなるんだよ?」
「スタンと同じ攻撃が出る。死にはしないけど、一瞬死んだかと思うだろうな」
「チューマンの動きを止めるやつか」
「そう。試してみるか?」
「やるわけねぇだろ」
「マーギン、それはパラライズと同じような効果があるのか?」
「うん。痛みを伴うのが違うところだね。試さない方がいいよ。気を失うと思うから」
と言っても、痺れ耐性を身に付けるため、オルターネンはわざと防犯魔法を発動させた。
バチッ。
ドサ。
スタンを食らって、一瞬で倒れたオルターネン。
「おっ、おい。マーギン、これ大丈夫なのかよ?」
「大丈夫……だと思う」
想定より強めのスタンが出た防犯魔法。ひょっとしたら、死ぬやつが出てくるかもしれない。しかし、これ以上弱くすると、痛いだけになる可能性がある。
「バネッサ、お前ならどうなるかちょっと試してみてくれ」
「嫌に決まってるだろっ。自分でやれよ、自分で!」
それは嫌だ。
「カタリーナがいるから大丈夫だって」
「嫌だって言ってんだろうが」
「ちい兄様の対極にいるのがお前なんだよ。いいから試してみてくれって」
「ばっ、バカ。やめろってば」
バネッサの手を掴んで無理矢理、蛇口を掴ませようとするマーギン。
「嫌だっ、離せよこの野郎っ!」
「いいから持って引っ張れって」
「嫌だっ!」
バネッサの手の上からマーギンが掴み、ぐっと引っ張って盗もうとする。
バチィッ!
「「ギャーーーッ」」
当然マーギンも一緒に食らったのであった。




