オルちい
ギンッ。
いきなり現れたチューマンをオルターネンが斬った。
ギーギチギチ……ギチ……
首を斬られて絶命したチューマン
「なんだこいつは? どうしてここにいきなり現れた」
訳が分からないオルターネンは聖剣をシュンと一振りしてから鞘に戻し、マーギンに尋ねた。
「こいつもチューマンだろうね」
「しかし、なぜ突然……」
「この台座に魔法陣が刻まれてるんだよ」
マーギンは目の前にある台座を指さした。
「なんの魔法陣だ?」
「多分、異世界召喚……チューマンは異世界人だったみたいだ」
「異世界人?」
「この世界ではなく、どこか他の世界からやってきた存在。俺と同じだね。この世界にとっちゃ異物的存在ってやつだ。チューマンの世界がどんなところか知らないけど」
と、目を伏せた。
オルターネンは、マーギンが自分のことを異物と呼んだことに心がチクリとする。
「お前は異物ではなく救世主だ。過去も今も、お前がいなければ人類がどうなっていたことか」
と、オルターネンが言っても、マーギンは目を伏せたままだ。
「過去の世界も滅びかけたじゃん。それは俺が発端なんだよ。今の時代も俺が発端でよくない方向に進むかもしれないね」
それを聞いたオルターネンははぁーっ、とため息をつく。
「お前はまたそんなことを考えているのか?」
「また?」
「魔力暴走の子供を助けたときの話を思い出せ。お前は医者のヘラルドになんて言われた?」
「え?」
『結果はどう転ぶか分からんが、お前がやったことで誰かが助かるならそれでいいんじゃ。そのあとのことはそいつの責任じゃからな』
ヘラルドに言われた言葉を思い出す。
「異世界召喚とはよく分からんが、お前がチューマンを召喚したのか? 違うだろ。やったのはゴルドバーンだ」
「まぁ、そうなんだけどさ……」
マーギンは日記に書かれていたことをオルターネンに話した。ゴルドバーンは日々強くなる魔物と、ノウブシルクへの対抗手段として異世界召喚をしたのだ。
『アリストリアは生き残る為にお前を召喚したのじゃ。だから助かったのじゃ』
過去にピンクロウカストに食い尽くされた村を見たときに、ミスティから言われた言葉だ。シャーラムは戦う力を持たなかったから滅びかけた。
この時代でも国が生き残るために、ノウブシルクは兵器を開発し、ゴルドバーンは異世界召喚で対抗する力を持とうとしたのだ。
マーギンは異世界召喚の魔法陣が刻まれているであろう台座を見つめながら、なぜゴルドバーンがこれをしたのか話した。
「その異世界召喚とやらは、必ず味方になるものを召喚できるのか?」
「分からない。俺はこの魔法陣の仕組みをよく知らないからね」
自分を召喚した魔法陣はミスティが独自で編み出したもので、どういう仕組みかは知らない。この魔法陣はそれを元にしたのか、違う人が考え出したのかも分からない。ただ、日記によると、アリストリア王国が魔王に対抗するために、強大な力を持った者を召喚したのではないかという極秘情報が他国に流れていたということだ。
「マーギンは異国人ではなく、異世界人とやらなのか?」
オルターネンが異世界人なのか? と聞く
「え?」
「過去から来たことは話してくれたが、違う世界だとは聞いてなかったぞ」
あっ……
マーギンは異世界から来たことはローズにしか話していなかったが、オルターネンにも話したと勘違いしていた。
焦るマーギン。
「そんな顔をするな。俺にとってはどうでもいいことだ。お前が何者であろうと、俺とお前は友だ……仲間ではないのか?」
「どうでもいいことですか?」
「そう、どうでもいい。俺にとってお前は魔王を倒す者。俺はそれを一緒にやる者だ」
「一緒に……?」
マーギンはオルターネンからの思わぬ言葉にキョトンとする。
「なんだその顔は? 俺では力不足か? お前はそのために勇者が使っていた聖剣を俺に渡したのだろ? 力が足りないのなら、どう足りないのか言え。俺はそれを乗り越えてみせる」
「隊長……」
「それと、もう隊長呼びはやめろ。俺はシュベタインに戻ったら、特務隊の隊長を降りる。そして、マーギンと一緒に魔王討伐をする。これは決定だ。だから、俺のことは名前で呼んでくれていい。敬語も不要だ」
強引に物事を決めていくオルターネン。それに名前で呼べと言われても、なんか違和感がある。
「オ、オルちいさま?」
ごすっ。
「誰がオルちいだ。そんな呼び方は許さん!」
そして、オルターネンは長いので、オルタやオルネンとか略してもしっくりこず、結局、ちい兄様呼びに落ち着いたのであった。
「ちい兄様、この坑道に入る前に魔物を見た?」
敬語なしはあっさり受け入れたマーギン。
「そう言えば見てないな。というか、気配すらなかったな」
「だよね。てっきりチューマンに狩り尽くされたか、逃げたかと思ってたんだけど、違うかもしれない」
「何か原因があるのか?」
「多分、この近辺の魔素濃度が極端に薄いんだと思う」
「魔素は魔力の素になるものだったな。なぜ薄いんだ?」
「召喚の魔法陣って、ものすごく魔力を使うんだよ。だから、どうやってこの魔法陣を起動させたのかと思ってたんだよね」
「魔法陣を起動させるための魔力か。魔結晶がこの下にあるのではないか?」
「この時代の魔結晶なら、ものすごい数が必要になる。この部屋を埋め尽くしても足りないんじゃないかな?」
「ならば魔素が薄い理由はなんだ?」
「魔素を魔力に変える魔道具があるってことだよ。その魔道具がこの辺りの魔素を吸収してるんじゃないかと思う。で、魔法陣を起動できるくらい貯まれば、チューマンが召喚されてくるシステムだろうね」
「そんなことができるのか?」
「俺はそんな魔道具を見たことがない。だけど、そうとしか考えられない。多分、この台座の中にその装置がある」
「では、次のチューマンが出てくる前に壊しておくか」
と、オルターネンが聖剣で台座を叩き斬ろうとする。
「待って」
それをマーギンが止める。
「もしかしたら、防犯の仕掛けがあるかもしれない」
「防犯の仕掛け?」
「うん。それに魔素を魔力に変えてる装置が壊れたら溜まっていた魔素が一気に解放されて魔素濃度が上がる。すなわち、瘴気になるかもしれない」
「ちっ。ならばこの魔法陣を消してはどうだ?」
「それも防犯のスイッチになるかもしれない。ここまでの物を開発できたんだから、何もしてないとは思えないんだ」
「何か手はないのか?」
「チューマンが出てこれないように蓋……も無理か」
扉であれば塞ぐことは可能。しかし、召喚は魔法だ。塞いだところですり抜けて出てくるだろう。
「魔力をもっと必要にして、魔法陣の起動を遅らせるしかないね」
「できるのか?」
「やってみるよ」
マーギンは召喚の魔法陣に新たな魔法陣を描いて繋げていく。描いたのは大量の水が出てくる魔法陣。しかも効率の悪いものにしておいた。
「すべての穴をふさいでおけば、チューマンが召喚されても水の中。10分くらいで死ぬと思う」
「分かった。では俺が土魔法で塞ごう」
オルターネンは穴を土魔法で塞いでいく。そのあとにマーギンが強化魔法を掛けておいた。
「マーギン、あの出てきたチューマンはいつものと違っただろ? あれはなんだ?」
「多分女王になるもの。女王とは巣を作ってチューマンを産んで増やしていく。前にチューマンの巣にいたやつが似た感じだった」
「チューマンを生むやつか。斬って正解だな」
こうして、部屋を出てから壊れた扉も土魔法で塞いだあと、他の部屋も調べて、研究資料をすべて回収したのであった。




