チューマンを生み出す部屋
「ここが研究所みたいだけど、前にチューマンの巣を探した場所のはずなんだよな……」
港街に戻ってから、大隊長達と地図を確認している。
「何もなかったのか?」
「山の中だから、見落とした可能性も否定できないんですけどね」
「陛下、恐らく研究所があるのは地下なのではないでしょうか」
「地下?」
「はい、地図には載っておりませんが、ここに廃坑がございます。その廃坑を利用して研究所を作ったのではないでしょうか」
「なるほど。入り口はどの辺だ?」
隠密執事の説明によると、魔石の採掘をしていた場所らしく、かなり昔に廃坑になったようだ。
「かなり昔のなら、坑道が狭そうだな」
「私も現地を見たことがございませんのでそれは何とも……」
「分かった。夜が明けたら調べに行ってくる」
「マーギン、1人で行くつもりか?」
と、オルターネンが心配する。
「坑道が狭いと1人の方が動きやすいですからね。それにチューマンの巣はいくつもできているはず。違う群れがここに来るかもしれないですし、チューマンと戦える人が残ってくれた方がいいんですよ」
ゴルドバーンは各集落に対チューマン対策をしていると聞いていたが、この港街はその対象になっていないようだ。
「俺を連れていけ」
「え?」
「聖剣でチューマンを斬れることは証明済みだ。広い場所ならともかく、坑道ならもう1人いた方が対処しやすいだろう」
「マーギン、そうしろ。ここは俺が守っててやる。カザフやバネッサにも無茶はさせんから安心しろ」
大隊長が港街の守りの要をやってくれるらしい。
「了解です。隊長、お付き合いお願いします」
「あぁ、任せろ」
こうして、マーギンはオルターネンと2人でチューマンを生み出した研究所を探りに行くことに。移動はプロテクションスライダー。
「空を飛ぶようなものだな」
男2人なので、キャッキャウフフはない。マーギンもプロテクションスライダーに慣れてきたので、順調かつ一直線で現地付近に到着した。
「ここからは歩いて捜索ですね」
木々が生い茂っているので、上空からだと見付けられないと判断し、森の中を捜索する。
「研究所に人が出入りしているなら、少しぐらい道のようなものがあってもおかしくないのだがな」
「そうですね。入り口は違う場所なのかもしれません」
獣道のようなものすら見つからない。極秘の研究所だろうけど、これだけ人の痕跡がないなら、場所が違うのだろうか?
「もう一度上空から見てみましょうか」
と、プロテクション階段で上空に移動し、付近を捜索するも状況は同じだった。
「一度戻るか?」
「そうですね……ん?」
「何かあったのか?」
「あそこに降りてみましょうか」
と、違和感を感じた場所に降りてみる。
「何もないぞ」
「この岩、崩れたのは最近じゃないですかね?」
岩肌にある違和感。自然に崩れたように見えるがそうではない。
「ちょっと動かしてみますよ」
と、岩にスリップを掛けて、少しずつ取り除いていく。
ガラガラ。
いくつか取り除くと、他の岩も一緒に崩れて洞窟の入り口のようなものが現れた。
「当たりですね」
「崩れて、研究所のやつらが閉じ込められているのか?」
と、オルターネンは言ったが違う。これは研究員達を外に出さないために、閉じ込めたのではなかろうか。
「どうした? 怖い顔をしているぞ」
「いえ、何でもありませんよ。手を出してください」
「何をする?」
「暗視魔法を付与します。この中は灯りがなさそうでなので」
オルターネンの手に魔法陣を描いていく。
「はい、これで暗闇でも見えますから、気を抜かないでください。嫌な予感がします」
真っ暗闇の中に気配がないチューマンがいたら、いきなり殺られる可能性がある。
「この魔法は凄いな」
「盗賊や隠密向きの魔法ですね。バネッサにだけ使えるようにしてあります」
「なぜ他のものに使えるようにしてないのだ?」
「こんな暗闇の中に進むのは危険だからですよ。暗闇の中には思わぬ強敵がいることもありますし、狭い場所だと逃げ場もない。見えるようになると、その感覚が薄くなるんですよ」
「なるほどな」
2人とも抜剣し、いつでも戦えるようにしながら中に進んでいく。坑道の天井には灯りの魔道具が設置されているが、そんなに古いものではない。恐らく研究所用に設置されたのだろう。
ぴちょん、ぴちょんと雫が落ちてくる中、進んでいくと、壊れた扉があった。
「頑丈そうな扉がこんな壊れ方をするとは……」
「多分、逃げようとした研究員をチューマンが追ったのでしょう」
「入り口を塞いだのはもしかして……」
「でしょうね」
オルターネンはマーギンが入り口付近で怖い顔をしていた理由に気付いた。ゴルドバーンは研究員を逃げられないようにしたことをマーギンは理解していたのだと。
壊れた扉の奥へと進んで、研究施設のようなものを発見した。
「チューマンはいないようだな」
「そうですね……隊長、見張っててもらえますか」
マーギンは資料の束を手に取り、ここで何をしていたのか調べることに。
大量にある資料を見ると古代文字の研究と、魔道回路の研究をしていたようだ。
ノウブシルクの兵器も古代の魔道回路を元に作ったと言っていた。各地に勇者パーティー時代のものが残っていたのか……
「何か分かったか?」
「今のところはまだです。ここでは俺がいた時代の魔道回路を研究していたようですね」
資料以外に研究員のものと思われる日記らしき物を何冊か見付けた。
〜抜粋〜
〇月〇日
古代文字の判別がかなり進んだ。やはり、今の時代よりずっと文明が進んでいたようだ。物語だと思われていたものが史実かもしれないのは胸熱だ。
〇月〇日
昔はもっと魔物が強くて、数も多かったようだが、人々もまた、それに順応するかのごとく強かったようだ。しかし、魔王が実在したとは……
〇月〇日
人類はどうやって魔王に対抗できたのだろうか?
〇月〇日
ついに謎めいていた複雑な魔法陣の解読ができそうだ。……しかし、これは間違いではないのか? あまりにも馬鹿げている。いや……もし、本当なのであれば……
マーギンはこの先を読んで、バッと立ち上がった。
「何か分かったか?」
「ちい兄様、他の部屋を確認しに行こう」
オルターネンは自分のことを隊長ではなく、ちい兄様呼びをしたことで、マーギンが慌てていることを理解する。
どこだ、どこにある?
廃坑を利用した研究所は普通の建物ではない。入り組んだ坑道を広げて、部屋のようにしてある。
「何を探している?」
「実験室みたいな場所。チューマンを生み出したと思われる部屋だよ」
マーギンの言った実験室のような部屋を探して、奥へ奥へと進んでいく。
「あっ……」
最奥にあったのは壊れた頑丈そうな扉。中にチューマンがいるかもしれないと、そっと中を覗く。
「チューマンはいなさそうだな」
そう。オルターネンの言うとおり、チューマンはいない。しかし、明らかに坑道とは違う穴がいくつもある。
「まだ奥があるのか」
部屋の中に入り、オルターネンがその穴の1つに進もうとする。
「やめろ」
マーギンが低い声でオルターネンを止めた。
「何かいるのか?」
「それはチューマンが掘った穴だ。その先に巣穴があるかもしれない」
「チューマンが?」
「チューマンはここで生まれた……というか」
と、マーギンが説明しようとしたとき、地面に置かれている大きな石板に複雑な模様が現れた。
ブオン。
「離れろっ!」
マーギンがオルターネンを突き飛ばす。
「ギーギチギチギチギチ」
いきなり目の前に現れたのは、いつもとは少し違ったチューマンだった。




