発見
「ねぇ、ローズ」
「はい、姫様」
港街の住民達の様子を見て回るカタリーナは歩きながら、ローズに話しかける。
「マーギンとバネッサは恋人同士になっちゃったのかな……」
「どうでしょうね。前より近しい間になったのは確かだと思いますが」
「ローズは嫌じゃないの?」
そう聞かれたローズは少し黙る。
「もう私のことはいいのです。姫様こそマーギンがバネッサと恋人同士になるのは嫌なのではないですか?」
そして、何かを飲み込んだかのように笑顔を作り、カタリーナの方こそ嫌なのではと聞く。
「マーギンって、みんなに優しいでしょ。それがバネッサにだけ優しくなっちゃったら嫌かも。それにローズが淋しそうな顔でマーギンを見てるのも辛いし」
「そっ、そんな顔で見てませんっ!」
「だったら、どうしてマーギンとしゃべらないの? ノウブシルクに来てからほとんどマーギンとしゃべってないじゃない。それって、バネッサがずっとそばにいるからでしょ」
「マーギンは色々とやることがあって忙しいのですよ。バネッサのこととは関係ありません」
「もう諦めてるの?」
「諦めてるとか……私は使命を果たさねばなりませんので、そのようなことは関係ないのですよ」
そう笑顔で答えたローズを見たカタリーナは、ローズを自分の護衛から外したら、素直にマーギンのところに行けるのだろうかと考えるのであった。
「騎士様にそのようなことをしていただいては」
と、オロオロする女性達。
騎士団長が壊れた家の片付けや、資材を運ぶのを手伝っているのだ
「こういうことは力のあるものがせねばならん。女子供ではどうにもならんだろう」
「でも……」
「ノウブシルクの新しき王は、自ら率先して魔物を倒して街を守り、土地開発をしたり、水路を作る手伝いをされておる。身分がどうのこうのではなく、できる者がやるべきなのだと教えて下さったのだ。それに今の私にはこれぐらいしかできることがないからな」
「ノウブシルクは王自ら……?」
「そうだ。上が変われば国が変わる。そのような奇跡を私は見たのだ」
と、騎士団長は笑いながら作業をする。
「騎士団長ーっ! 誰か怪我している人いるー?」
そこへカタリーナとローズがやってきた。
「今のところ大丈夫のようです。しかし、食料が不足しているようですな」
「食べ物かぁ。魚とか捕れないの?」
と、作業をしている住民に尋ねる。
「捕れますけど、漁のできる船がたくさん壊れてしまったのです」
「そうなんだ。陸からはどんな魚が釣れるのかな?」
「港からだとそんなに大きな魚は釣れませんが、興味があるなら釣りに行かれますか?」
「うんっ!」
カタリーナは食料確保を兼ねて、気晴らしに釣りに行くことにした。
「あっ、聖女様だ!」
港の桟橋で釣りをしている子供達がカタリーナを見て手を振る。治癒魔法を掛けてもらった子供がいるようだ。
「何が釣れてるの?」
「アジとかだよ。聖女様もやってみる?」
「うん」
バケツの中には子供達が釣った20cmほどのアジが数匹入っている。晩御飯のおかずにするらしい。
竿を借りてポチョン。しばらく待つと、ウキがシュッと沈む。
「きゃーっ! 釣れたー!!」
「聖女様うまーい」
子供達に褒められて上機嫌のカタリーナ。しかし、当たりが続かない。
「釣れないね」
「また回ってくるのを待つしかないよ」
と、アジの回遊を待っていると、
「痛っ!」
「どうしたの?」
「やっちまったよ」
と、指の根元を押さえて痛そうにしている。
「その魚を針から外すときに刺されたんだ。毒があるんだよコイツ」
「わぁ、痛そう。ちょっと待ってね」
竿を置いて、エクレールを出してシャランランするカタリーナ。
「どう?」
「すっげぇぇ、もう治った」
「良かったね。気を付けないとダメよ」
「ありがとう聖女様」
と、みんなから凄い凄いと言われているときに、海がざわつき始めた。
「魚の大群が来てるぞ。誰か大人を呼んでこいよ」
と、子供達が大人を呼びにいった。
バチャバチャバチャバチャ。
桟橋の近くで魚が乱舞する。その場にいる子供達がそれを釣る。
「デカいイワシだっ!」
魚群を呼ぶイワシの聖女カタリーナ。
ドバッシャン、ドバッシャン。
そして、イワシを追ってきた大型魚もすぐ近くで乱舞する。確変に入ったようだ。
「おー、こいつは凄ぇ。投網投げろ、投網っ!」
こうして、イワシとブリが投網でたくさん捕れ、こんなことは初めてだなと、港は大漁で湧くのであった。
あちこちで魚を焼く匂いが充満し始めた夕飯時、マーギンと隠密執事は領主邸近くに潜んでいた。
「これでも食え。侵入時間はまだだからな」
マーギンが出したサンドイッチを食べながら、そのときを待つ。
「行くか」
「はい」
日付けが変わるぐらいの時間に領主邸に侵入し、宝物庫前まで来た。
《スリープ》
宝物庫を守る騎士にスリープを掛けて眠らせる。交代は2時間後。それまでに全てを終わらせなければならない。
「仕掛けがあると言ってたが、これは普通の鍵じゃないのか?」
「そのようですね」
ダミーの鍵なのだろうか? 見た目は普通の鍵穴でしかない。
隠密執事が解錠を試みる。
ガチャ。
「開きました」
「じゃ、行くぞ」
と、扉の取っ手を持って開けようとしたときに、魔力が流れるような感じがした。
「待て、開けるな」
「何かございましたか?」
「取っ手に仕掛けがあるかもしれん」
マーギンは取手の裏側を確認する。
「あー、登録したもの以外が開けると罠が発動するタイプだな」
「お分かりになるのですか?」
「取手の模様に見せかけてあるけど、これが防犯の回路だ。登録された者がここを持って開けると防犯装置が作動しない。しかし、さほど難しい回路じゃないな」
と、隠密執事に説明してから、錬金魔法で回路に使われている銅を取り、防犯の回路を無効化した。
「もう大丈夫だ」
宝物庫に無事に入り、資料を探していく。
しかし、金塊とか宝石類とかたくさん持ってやがるな。領主ってこんなに財産を蓄えられるものなのか?
「ずいぶんと金銀財宝が多いな」
「南の地に金銀の鉱脈と宝石鉱山があるのです。ゴルドバーンの財政はそれで支えられていると言っても過言ではありません」
「それと魔カイコの糸か」
「はい。南の地は元々先住民達の土地でしたが、ゴルドバーンに編入し、それで財を成したのです」
「編入というか、侵略だろそれ」
「先住民達からすればそうでしょうね。もう100年以上前のことでございます」
そんな話を聞きながらチューマン研究の書類を探していると本棚があった。しかし、それらしき本はない。
「古い本がたくさんあるな」
勇者パーティー時代のよりは新しいようで、何が書かれているかは読めない。が、
「この本、古いわりに埃が少ないな」
と、一冊の本の埃が少ないことに気が付いた。隠密執事も暗がりでもある程度見えているようだが、昼間のように見えているマーギンほどではない。
その本を取り出して確認しても字は読めなかった。
関係ないのか。
と、本を元に戻すときに違和感がある。
「なんだろうか、この感じ」
やけにするんと本を元に戻せた。他のは、くっと押さないと元に戻せないのだ。
マーギンは何気なく、もう少し押し込んだ。
カチ。
スイッチを押したような感覚がしたあと、
ゴゴゴ。
本棚が動いて、そのうしろにも本棚が現れた。
「ここか」
その本棚には金鉱や宝石鉱山の場所、そして研究室の場所が記されている地図が隠されてあった。
「見付けた。これはもらっていく」
「バレたら騒ぎになりますぞ」
「別に騒ぎになっても構わんよ。その前に他の騒ぎが起こるだろうからな」
と、答えたマーギンは、宝物庫の防犯の回路を描き直して領主邸を脱出したのであった。




