チューマン討伐戦
「マーギン、お前の読み通りだ。チューマンはこっちに向かってる」
バネッサとカザフが偵察から戻ってきた。
「数は?」
「ざっと30ってところだ」
「了解。こっちに近付く前に迎え撃つ」
「陛下、私も参戦致します」
と、隠密執事も参戦を申し出た。
「武器は何が使える?」
「暗器と短剣を得意としております」
「分かった。バネッサ、こいつのサポートを頼む」
「連れてって大丈夫かよ?」
「この国のやつにも対抗策を覚えておいてもらう必要があるからな」
「足止めだけでいいのか?」
「いや、チューマンの動向を探るのをメインにしてくれ。チューマンがバラけるようなら対策が変わる。あと、違うルートから来るやつがいるかもしれん」
「了解。カザフ、行くぞ」
「カザフはいい。俺に付ける」
「前線に出すのか?」
「カザフ、いけるか?」
「おうっ、あったりまえだぜ」
カザフは嬉しかった。初めてマーギンに認められたような気がしたからだ。
「トルク、タジキ。頼んだぞ」
「分かった」
と、返事をするタジキ。
「大丈夫。マーギンの代わりに僕が姫様を守るから」
トルクはいつものふわふわとした感じではなく、しっかりとした口調で答える。
3人とも子供から男の顔付きになってきたなと、嬉しくもあり、少し淋しくもあるマーギン。
「マーギン、私が付いているのだ。安心して倒してきてくれ」
と、棍棒をブンッと一回した。
「ロッカも男らしい顔付き……」
ギヌロっ。
あれで殴られたらヤバいと思ったマーギン。
「ロッカも頼んだぞ」
と、いらぬことを言いかけたことをごまかした。
「お前こそ、撃ち漏らしてこっちにこさせるなよ。のちほど、暇だったと言わせてくれ」
「何匹かは回してやるよ」
「ふふん、それは楽しみだ」
と、マーギンは冗談めかして言ったが、本当に何匹かは港街に行くだろうと思っていたのだった。
「騎士団長、何かあったら住民を丈夫な家屋の中に逃げるように誘導してくれ。倒そうとするとやられるからな。必ず逃げろ」
「はっ!」
バネッサと隠密執事が先行して現場へ向かう。
マーギンはカザフと組み、オルターネンは対峙経験のある大隊長と組み、そのあとは単独行動になる予定だ。
ダッシュで現場に向かうと、ゾロゾロとチューマンの群れがやってきた。
「カザフ、俺が動きを止める。止まってる時間は1秒程度だ。その間に足の関節を斬れ。斬れても斬れなくても、即、その場を離脱。分かったか?」
「分かった」
「行くぞっ!」
マーギンはカザフをうしろに付かせ、チューマンの群れに突っ込んで行く。
《スタンっ!》
バチィッ。
電撃を食らって一瞬、動きを止めるチューマン。
そこにカザフが足元目掛けて突っ込んで行く。
「うっ……」
動きを止めているとはいえ、これまで戦ってきた魔物とは違う無機質な威圧感に身体が動きを止めてしまう。
「ちっ」
それを見たマーギンはカザフの首根っこを掴んで離脱。
ブンッ。
間一髪でチューマンの爪が襲い掛かる。
「カザフ、もっと速く動け」
「う、うん」
そう返事をしたカザフの足がカクカクと震えたのにマーギンは気付いた。これでは無理かもしれん。
「カザフ、お前も偵……」
「カザフっ、なんだそのざまはっ! ビビってんじゃねーっ!!」
マーギンがカザフを戦闘ではなく、偵察をやれと言いかけた瞬間、バネッサからの怒鳴り声が聞こえた。
「うるせえっ、おっぱい。ちょっと距離が合わなかっただけだろうが」
バネッサに怒鳴り返したカザフ。
おっ、足の震えが止まった。
「カザフ、バネッサに見られてんぞ。しっかりやれ」
「分かってるってば」
カザフは自分のほっぺたを両手でパンッと叩いた。
「マーギン、もう一回行くぜっ!」
「その意気だ。しっかり付いてこい」
2人は再びチューマンに向けてダッシュした。
「オルターネン、チューマンの殻は硬い。俺は頭を潰すが、お前は関節を斬れ。殻と爪は斬れんからな」
「了解です」
まず、大隊長が突っ込み、うしろにオルターネンが付く。
「フンッ」
グシャ。
大隊長が頭を潰して離脱した瞬間、頭を潰されてもすぐに動きを止めることなく、チューマンは爪を振り回してきた。
キンキンキンっ。
オルターネンはその爪の攻撃を見極めるかのように剣で弾く。
スパスパスパっ。
足の関節を狙うのではなく、爪を弾いて腕の関節ががら空きになったところを狙い、腕を斬り落とした。
ズバッ。
そして、足の付け根の関節を斬る。
「うむ、大丈夫そうだな」
「そうですね」
それを見た大隊長はオルターネンに振り返ることなく、次のチューマンに突っ込んで行き、オルターネンも他のチューマンに突っ込んで行った。
「いやはや、皆様お強いですな」
隠密執事はマーギンだけでなく、大隊長とオルターネンの強さに感心する。
「まぁな。もうここは任せておいて大丈夫だろ。他のルートを確認しに行くぜ」
「はい」
今のところチューマンの群れはバラけていない。ここはもう見なくてもいいと判断したバネッサは、違うルートにチューマンがいないか確認しにいった。
キンッ。
「クソッ」
カザフが関節に斬りつけるも斬れない。
「タイミングはいいぞ。斬ろうと意識しすぎて手だけで剣を振ってる。剣を身体の一部と思え。振ることを意識し過ぎるな」
カザフの足の震えはバネッサの一言で止まった。それに何度もアタックを繰り返すことで、チューマンが放つ無機質な威圧にも慣れてきた。しかし関節とはいえ、硬いチューマンを斬ろうと意識しすぎているのだ。
「飛び込んだ勢いを剣に乗せろ」
カザフに経験を積ませるために、マーギンは何度もやらせていた。しかし、攻撃即離脱のスピードが速いため、なかなか上手くいかない。
「カザフ、斬りながら離脱してみろ。動きを止めずに攻撃するんだ。斬れなくてもいい。もっとスピードを上げろ」
カザフはマーギンに言われたことを実践する。
キンッ、ザクッ。
先程までのカザフは突っ込んで足を止めて攻撃していたが、動きを止めずに、攻撃をした。
「それでいい。次に行くぞ」
「とどめを刺さなくてもいいのかよ」
「動けなくするだけでいい。次だ」
こうしてカザフはだんだんとコツを掴んでいったのだった。
グシャ、グシャ、グシャ。
大隊長はヴィコーレを振り回して、チューマンの頭を砕いていく。オルターネンはそれと対照的にスパパと足を斬り落としていた。
「な、なんだあの化け物達は……」
それを見ていたゴルドバーンの特殊部隊。チューマンを生物兵器として使うための部隊である。その特殊部隊もチューマンの動向を見張っていた。
「これ以上、数を減らされてはならん。あいつらをこれを使って始末しろ」
「はっ!」
特殊部隊の隊長は弓使いに指示をした。
ヒュンっ、ヒュンっ、ヒュン。
矢がマーギン達の所へ飛んでいく。
矢が飛んできたことに気付いたマーギン達はそれを避けた。
ボフッ、ボフッ、ボフッ。
避けた矢が地面に当たると、煙のようなものが辺りを包込む。
「くっ、なんだこれはっ」
チューマンと戦うマーギン達はその煙で視界を覆われた。
「キャーーっ」
その頃、港街のあちこちから悲鳴が上がっていることをマーギン達は知る由もなかったのであった。




