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伝説に残らなかった大賢者【書籍2巻&コミックス1巻、11月末同時発売予定】  作者: しゅーまつ


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本能が告げる

プロテクションスライダーで行くつもりだったのだが、ノウブシルクの王家の馬車に乗っていかないと、ゴルドバーンで信用されないと騎士団長に言われてしまった。これで長旅決定だ。


馬車3台に分かれて出発。先頭の馬車にはオルターネン、ロッカ、カザフ達。次にマーギンが乗る馬車には騎士団長、カタリーナ、ローズ。最後尾は大隊長、アイリス、バネッサだ。


ゴトンゴトン。


ノウブシルクの馬車には板バネのサスペンションが付いている。ガタガタ道とはいえ、突き上げてくる衝撃は少しマシだ。



「バネッサ、オルターネンにずいぶんと辛辣なことを言ったな。なぜだ?」


カタリーナがノウブシルクに到着したときのことを聞く大隊長。


「別にあんなことを言うつもりはなかったんだけどよ」


「何か理由があるのか?」


「あのメンツでなんかあったら、死ぬのはロッカだろ?」


「どういう状況を想定した?」


「ノウブシルクに近づくにつれ、シュベタインの北側より魔物が多かった。うちや大隊長は移動、隊長とロッカは護衛だ。移動だけなら魔物を避けて通れる」


「そうだな」


「ローズも弱いとは思ってねぇけど、日頃から魔物討伐してる者と比べると、あの道中の護衛としては物足りねぇ。もし強い魔物と出くわしたら、隊長とロッカが接近戦で戦うことになる。魔物の数が多けりゃローズとカタリーナを逃がしながらの戦いになるだろ?」


「あの2人なら対応可能だろ?」


「そうだけどよ、戦いには何があるか分かんねぇ。もし本当にヤバいときに隊長は誰を優先するんだろうな? 護衛対象のカタリーナ、妹のローズ、愛するロッカ」


「うむ……姫様だろうな」


「うちもそう思う。だけど、一瞬迷いが生じるもんなんじゃねーか? その一瞬が命取りだ。結局、隊長がカタリーナとローズをセットで守りながら逃がして、ロッカが追撃を防ぐのに殿(しんがり)をすることになるんじゃねーかと思ったんだよ」


「なるほどな」


「ま、これは最悪の想定だけどよ」


大隊長はバネッサのいい読みに感心した。


「で、お前はマーギンとなぜ一緒にいたいのだ?」


「うちはマーギンに死んで欲しくねぇ」


「あいつはそうやすやすと死なんだろ」


「うちの前で2回死にかけてんだ。1回目は白蛇からうちをかばったとき。2回目はチューマンの巣のときだ。あれを見てマーギンが死なねぇとは言えねぇよ」


バネッサは当時のことを思い出して、顔が青ざめていた。


「マーギンに惚れてるのか?」


「マーギンが女として好きなのはローズだろ? うちは別にそんなんじゃねぇよ。ただ、うちの前からいなくならないで欲しいだけだ」


と、オスクリタを出して眺めるのであった。


野営した翌日、大隊長が乗る馬車をロッカと交代する。


「バネッサ……」


到着早々、バネッサとオルターネンが揉めて、あまり話ができていないロッカ。


「なんか話があんのか?」


「今回のことはお前が正しい。私は浮かれていたのかもしれない」


「浮かれ過ぎだ。ま、しゃーねぇけどよ」


ロッカはそう言われて頭を掻いた。


「バネッサはマーギンと上手くいってるのか?」


「前と変わんねぇよ。なんで大隊長といい、ロッカといい、そんなことを聞いてくるんだよ? 前までそんなことなかっただろうが」


「いや、その……お前があまりにも情熱的に一緒にいたいと言ったものだからな。前のお前なら、本当はそう思ってても、口には出さなかっただろ?」


バネッサはロッカに言われて、自分でも不思議に思った。


「そうだな。何でだろうな?」

 

「なんだ、自分でもよく分からんのか?」


「うちにもよく分かんねぇ。マーギンがいなくなるんじゃないかと思ったら、すっげぇ怖くなったと言うか……今度こそ何かしてやれるんじゃねーかと思ったんだよ」


「今度こそ?」


「ん?」


ロッカに聞き返されてキョトンとするバネッサ。


「お前が今言ったではないか」


「うちが何を言った?」


「今度こそ何かしてやれるかもしれないと言ったではないか」


「そうか?」


「今言ったことを忘れたのか? 変なやつだ、まったく」


「それより、ロッカは隊長と結婚すんのか?」


直球で聞かれて赤くなるロッカ。


「わ、私が気の済むまでやりきってからでいいと言われたのだけれどな……」


「けっ、ロッカに気の済むときなんかくるのかよ? レーキのときもめっちゃはしゃいでたじゃねーか」

 

「あ、あれはその……なんだ」


葬らんを楽しんでいたロッカは口籠ったのであった。



「オルターネン、お前がロッカを連れてきた理由はなんだ? バネッサの言う通り色ボケか?」


オルターネンはロッカと馬車を交代した大隊長に本意を聞かれていた。


「色ボケと言われればそうかもしれません」


この馬車にはカザフ達も乗っている。


「正直に言え。このままだと隊長としての資質を疑われる」


カザフ達はオルターネンと大隊長の顔を交互に見てキョロキョロしている。


「半分私情が入っていたのは認めます」


「残りの半分は?」


「何か大事になるのではないかと直感したからです。マーギンが1人で動くときには必ず何かある。そう思ったからロッカを連れてきました」


「なぜロッカだ?」


「これがロッカの集大成の場になるのでないかと。恐らく、今が体力と気力のピークです。トルクとの連係も上手くいっています」


「つまり、ロッカの現役引退遠征ということか?」


「に、なるかもしれないと思ったのです。サリドンとホープを残してきたのは、どちらかが次期隊長になるための訓練です」


「お前が隊長を退くのはまだまだ先だろう?」


「いや、自分も大隊長と同じように最前線に立つべきだと思っています」


「なんだと?」


「特務隊は魔物討伐の部隊。自分は魔王討伐メンバーになるつもりです。大隊長もそうなのでしょ?」


「オルターネン……」


「以前マーギンは、魔王の復活は早ければ5年後と言いました。その話を聞いてから3年が経つのです。もう準備を始めないといけないのではないでしょうか」


「うむ……」


「バネッサの真意は分かりませんが、恐らくマーギンから離れないと言ったのは、そのことも関係しているのではないかと思います。そして姫様も」


オルターネン、大隊長、バネッサ、カタリーナ。勇者パーティーが使っていた武器と杖を託された者達は、自分でも気付かないうちに、マーギンのそばにいるべきだと本能が告げていたのであった。



マーギンが乗る馬車ではあまり会話がなく、少し重い空気が漂っている。出発したころはカタリーナが嬉しそうに色々と話をしていたが、マーギンが会話にのってこなかったのだ。


「ねぇ、マーギン。なんか怒ってる?」


「いや、怒ってないぞ」


「じゃあ、どうして難しい顔をして黙ってるの?」


カタリーナはこの空気に耐えられずに、マーギンに聞いた。


「色々と考えごとをしてたんだよ」


「どんな?」


「多分、ゴルドバーンとの交渉は上手くいかない」


「どうして?」


「あの国は先住民を見殺しにした。というより、先住民を餌にしたんじゃないかと俺は思っている」


「餌?」


「あぁ。チューマンを増やすための餌だ」


と、マーギンが説明するとカタリーナは黙った。


「で、先住達はほとんどいなくなり、魔カイコの村民をタイベに移住させただろ?」


「でもマーギンが巣を潰したんだよね? それでも増えるの?」


「タイベに出たチューマンと、この前のチューマンは別の巣のやつだ。他にも巣があるだろう。それと多分の話になるが、チューマンの増える時期は春なんじゃないかと思う」


「今ってこと?」


「そう。冬の間に数を増やして、春になれば増えたやつらが外に出てくる。で、南側に餌が少ないとなれば北上してくるだろうな」


「街中にチューマンがいるかもしれないのね」


「こればっかりは行ってみないと分からんけどな。もしチューマンが出てたら、お前はシュベタインに転移させるからな」


怖い顔をしながらそう言ったマーギンに、カタリーナは返事ができないのであった。




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― 新着の感想 ―
やっぱり過去メンバーの道具意識宿ってるよね 聖仗は医療知識の乏しいカタリーナの補助してそう
〉ただ、うちの前からいなくならないで欲しいだけだ それこそ愛だ ベローチェもマーギンを憎からず思ってた??
『今度こそ』ってベローチェの意思な気がする(*・ω・)
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