怒りに飲み込まれる
前王に近しい貴族達は、次は自分の番だと震えていた。
マーギン暗殺を狙った隠密少女、前王、前第一王子の全てがいつの間にかいなくなったのだ。
「こ、殺されたのか……」
「だ、だから言ったではないか。私は反対したからな」
「いつ、貴殿が反対したと言うのだっ。全員賛成したではないかっ!」
「貴族給が90%カットもこれに関係しているのか……」
自分達に被害が降りかかってきて慌てふためく。
「こ、これは貴族全体で組まなければ大変なことになりますぞ」
「そうですな。それぞれ派閥の者を集めて数で戦おうではありませんか」
「そうしましょう」
こうして、貴族達は全員で横暴な王に対抗をすることになったのであった。
「どうした?」
宰相が血の気の引いた顔でマーギンに報告に来ている。
「そ、それが……その」
寒いのに汗が止まらない宰相。
「陛下、多くの貴族が不満を持ち、陛下に抗議すると申しております。全員を斬るわけにもいかず……」
と、騎士団長が代わりに報告をしてきた。
「そうか。なら、1週間後にここに文句のあるやつを全員集めろ。俺が直接話す」
「申し訳ございません」
「ついでに戴冠式ってのをやろうか。前王も参加させろ」
「前王は行方不明でございます」
「は? 逃げたのか?」
「へ、陛下が消されたでは……?」
「消すなら皆の前で殺るわ。なら、王子でもいいぞ」
「そ、それも……」
王と王子が同時に消えただと? 結託して逃げたのか。どこかで反旗を翻す算段でもしてんのか。
「じゃあ、戴冠式って、誰から王冠をもらえばいい? 別に王冠なんかいらないから、正式に王の座が俺に移ったと皆に知らしめられればいいけど」
「宣言なさるだけでよろしいかと」
「ならそれでいいか」
1週間後の宣言式に向けて、子供達の寝床を他の部屋に移していった。取り仕切ってくれたのはキツネ目の男だ。
宣言式まで、宰相、軍統括、騎士団長と地図を見ながら、どの町や村を放棄させて、防衛ラインを設置するか決めていく。
「放棄させた町や村の住民はどこに住まわせるおつもりですか?」
「しばらくは王都だろうな。そのあとは南側を開拓し、新たに町や村を作っていくしかない」
「相当時間と費用が掛かりますね」
「しょうがない。それが国の役割だ」
結果的に王都より北側はほぼ全て非住居地とし、町や村は対魔物の砦に改造していくことになった。
宣言式にはたくさんの貴族が集まった。恐らく地方貴族以外全員来たのだろう。
ざわざわざわざわ。
不満と不安でざわめく貴族達。
そこにツカツカとマーギンがやってきて玉座に着いて威圧を放った。
シーン。
一気に静まる貴族。
「ここに集まった貴族は貴族給減額に反対の者と思っていいか?」
「いきなり国を乗っ取り、横暴にもほどがあるではないかっ!」
マーギンの問いかけに一人の貴族が声を上げた。
「お前、この国がどういう状況になってるか知ってるか? きちんと把握していたら、減給比率を下げてやる」
「わ、我がノウブシルクは不足している食糧を確保するために、他国と戦争状態にあり……」
ズドン。
「うぐっ」
ストーンバレットで肩を撃ち抜かれる。
「はい失格。戦争はすでにやめさせた。そんなことも知らんのか」
シーン。
「他に文句があるものはいるか?」
今のやりとりを見て、意気込んで来た貴族達は何も言えなくなる。
「ないようだな。では今から宣言式を行う。俺がノウブシルクの王だ。すべてのことを俺が決める。お前らはただ従え」
ざわざわざわざわ。
「まず初めにやることは貴族制度の廃止だ。貴族給の減額だけで済ませてやろうかと思っていたが、それもやめだ。今、貴族制度を廃止したから、貴族給の支給もなしにする」
「おっ、横暴だっ。いきなりやってきて、貴族制度を廃止するとはなんたる言い草だっ!」
「そうだ、そうだっ!」
「我々なしに国が立ち行くと思っているのかっ!」
《フェニックス!》
ゴゥゥゥウッ。
小型化したフェニックスを玉座の間に出し、貴族達の上に旋回させる。
「ひっひぃぃぃ」
「俺はお前らというより、ノウブシルクがどうなろうか知ったこっちゃないんだよ。本当は滅ぼしてやろうと思ってたんだ。しかし、罪のない子供達を巻き添えにしてやるのもなんだかなと、思って甘い対応したらこれか。もう王になるとかどうでもいいわ。全員死ね」
「陛下っ、お待ちください陛下」
騎士団長と軍統括が止めに入る。宰相は震え上がって動けない。
「な、だから宰相に逆らった時点で斬れと言ったんだ。こいつらは貴族としての心構えも役目も果たそうとせず、自分の保身しか考えてないような連中だ。この国にはいらん」
「この者達にも家族がおります。何卒、何卒ご容赦を」
「他国の家族を宣戦布告もなしに殺したのはどこの誰だ? いきなりノウブシルク兵がやってきて、殺された子供もいるんだぞ」
マーギンは自分の言葉で怒りが抑え切れなくなってくる。ゴルドバーンでの出来事、タイベで子供と旦那を亡くした母親のことが鮮明に蘇ってきた。そして、仲間を殺されてもその怒りを飲み込んだマーロックの顔も。
「お前らか……お前らのせいか……」
騎士団長と軍統括が止めに入っているが、今までなんとか抑え込んでいた怒りのボルテージがどんどん上がっていくマーギン。そして怒りにより魔力がフェニックスに注がれ温度が上がっていく。
「ヒィィ、熱いっ」
逃げ惑う貴族達。しかし、玉座の間で旋回するフェニックスから逃げる場所は扉の外に出ることだけ。当然一斉に扉に集まり、自分が先だと揉めて外に出られない。
「陛下、子供達が怯えております」
と、いつの間にかキツネ目の男がマーギンの横に跪いていた。
それで我に返ったマーギンはフェニックスを消した。
『いつかお前は気に入らないという理由で魔法で人を殺すようになる』
それにミスティの言葉がマーギンの脳裏によぎる。
ちっ、と舌打ちをしたマーギンは貴族達に大声で叫んだ。
「ここに集まった貴族どもよ。貴族制度廃止は決定だ。そこで、お前らに3つ選択肢を与える」
ざわざわざわざわ。
「1、ノウブシルクは王都より北側の土地を放棄する。そっちの街や村に移り住み、独立国家となるなら認めてやろう。自分たちの好き勝手にやればいい。2、これから南側に土地を開拓していく。その開拓民として働くなら今回の無礼は不問とする。3、死ぬ。どれか選べ」
当然3を選ぶ者はおらず、大半が北側に移り住むことを選んだようだった。
「宰相、騎士団長、軍統括」
「はっ」
「俺にケツを取らせたら、より大事になると理解しておけ」
「はい……」
こうして、ノウブシルク王都から大半の貴族が消えることとなる。独立国家と言われて浮足だった貴族達は、その街や村の住民がいなくなるとは思っていなかったのだ。
春を待たずに独立国家を選んだ貴族達を王都から追い出すようにマーギンは命令をした。
「どれぐらい残った?」
「2割ほど残りました。爵位のないものがほとんどであります」
「分かった。そいつらを集めろ。それと何ができるやつらなのか教えてくれ」
マーギンは残った貴族を集め、役割を決めていくことにした。恐らく残ったやつは対マーギンのために集められて玉座の間にやってきただけの者たちなのだ。
「ここに残ったら貴族でもなくなるんだぞ。それでもいいのか?」
マーギンは爺さんと呼んでいいぐらいの男に質問してみた。
「はい。私は戦争に反対でありました。しかし、下位貴族の意見は何も通りません。陛下は戦争をなくし、貴族制度をなくし、何をなさるのか興味がございます。老いぼれなれど、開拓でもなんでもさせていただきます」
「そうか」
あのときに怒りに任せて全員殺したら、こんな爺さんも死んでたんだな……
「ま、爺さんに開拓は無理だろうから、他のことをやってもらうわ」
「はい、なんなりとお申し付けくださいませ」
こうして、マーギンはノウブシルクの体制を一新し、出せる膿を一気に出していくのであった。




