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伝説に残らなかった大賢者【書籍2巻&コミックス1巻、11月末同時発売予定】  作者: しゅーまつ


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隙ありは誘い

玉座の間で、魔物対策をどうしていくか、軍統括と騎士団長と話し合う。


「北側は捨てるしかないな。あれだけ気温が下がって、雪が深くなる場所だと分が悪過ぎる」


「しかし……」


「言いたいことは分かる。が、現実的にお前らを鍛えている時間はないし、鍛えても勝てるとは思わん。あの黒くてデカい魔狼が普通に出るようになったら詰みだな」


マーギンは現実を突き付けた。


「全部に塀を作るのは無理だろうから、いくつか砦を作って、王都側にくる魔物の数を減らすしかない。あとは王都の部隊がそれ以上、魔物を南下させないようにするんだ」


「マンモーなどは追い込める場所がないと倒せないのでは?」


「マンモーはマイナス10度以下のところに生息する。王都周辺もそれ以上気温が下がるか?」


「下がる日もあります。2〜3年前から気温も下がっておりますので」


「それなら落とし穴を掘るしかないか。宰相、工事費用見積もりと工期がどれぐらいになるか調べてくれ」


「かなりの費用になると思われますが」


「貴族給を大幅削減するから、それを予算にする」


「大幅とは?」


「一律で90%カットだ。そこから働きに応じて減額割合を変える。何もしないやつはそのまま奪爵だ」


「なっ……」


「なにか問題あるか?」


「い、いえ……」


「文句を言ったやつはその場で奪爵にしてかまわん。屋敷で働いていたやつもいるだろうから、そいつらは一旦城で預かる。仕事はなんなりとあるからな」


「は、はい」


真冬だというのに汗が止まらない宰相を見たマーギン。


「いきなり奪爵は可哀想か?」


「奪爵したら、これから生活ができなくなると思われ……」


「そうだな。奪爵したら生きていくのが厳しそうだから処刑しよう。軍統括、何人か宰相に同行してやってくれ。宰相に歯向かったやつはその場で斬れ」


「おっ、お待ちください。減額の条件を飲んでもらいます」


慌てる宰相。


「そうか? なら、騎士を護衛に連れていけ」


「は、はい」


と、返事をしたものの、踏ん切りが付かない様子の宰相。


「宰相」


マーギンは宰相の顔をじっと見る。


「な、なんでございましょうか」


「現場に出てないと実感が沸かないだろうけど、この国の状況はかなりまずい。このまま気温が下がるのが続けば王都すら放棄しないといけなくなるかもしれない」


「えっ?」

 

「俺はたいていの魔物のことを知っている。しかし、違う種族の魔物を使って人里を襲わせたり、本能的ではなく、自分の強さを誇示するために戦いを挑むような魔物は初めて見た。強さもそうだが、知能が飛躍的に高くなった魔物が出始めてるんだ。貴族の贅沢な暮らしを守っている場合じゃない」


宰相はマーギンが貴族嫌いでこのようなことを言い出したのではないと理解した。


「かしこまりました。陛下のおっしゃる通りにいたします」


宰相が逆上した貴族に殺されないように、護衛に騎士と軍人を付けておいた。



その夜、


子供達も寝静まり、マーギンも寝息を立てていた。


(まるで隙だらけだ……)


隠密組織の頭は玉座の間の天井付近で気配を消してマーギンを見張っていた。


(試すか……)


小さな針を吹き矢に仕込み、マーギンに狙いを付ける。


《パラライズ!》


「うっ……」


ドサっ。


頭は身体が痺れて動けなくなり、床に落ちた。


「くっ……身体が痺れ……」


ゾクッ。


下に落ちた頭の頬に冷たい汗が流れる。


「お前は敵か?」


いつの間にか背後を取られ、首筋に黒い剣を当てられていた。


「気付いておられたのですか……?」


「敵意を感じなかったから放置してたがな。お前、俺を攻撃しようとしたろ? だから落とした。このまま死ぬか?」


「し、失礼ながら試させていただきました。自分はアーシャを育てたものです」


「そうか。あいつはもらったぞ。取り返しに来たのか?」


「いえ……あれは処分したことになっておりますゆえ」


と、聞いたマーギンは妖剣バンパイアを収納し、パラライズを解いた。


「で、何を試しに来た?」


「あなた様が君主たる人物かどうか」


「なら、不合格だな。俺はそもそも人の上に立つような人間じゃない」


「いえ、そのようなことはございませぬ。あの男が言っていたとおりでございました。どうぞこのまま自分の首を刎ねてください」


「別に敵対しないなら殺す必要はない。それに今後もあの娘にも何もしないというならな」


「なぜ、一介の隠密見習いを庇いなさるのですか。あなた様を暗殺しようとしたのですよ」


「あいつもやりたくてやってたわけじゃないだろ。それしか生きる道がなかったんじゃないのか? 俺はそういう子供をたくさん見てきたんだよ」


「子供とはいえ、下手な情けは命取りになりますぞ」


「人間が俺を殺せると思ってんのか? あいつを見逃したぐらいでどうにかなってるなら、とっくに死んでる」


その答えを聞いた頭は笑いがこみ上げてきたのを我慢する。


「お前も敵対しないなら、もういい。さっさと消えろ。俺は眠たいんだよ」


「もう一つお聞かせ願いたい」


「なんだ?」


「この国をどうなさるおつもりですか?」


「戦争をしないならそれでいい。どうしてもやりたいなら、王同士で殺し合えばいい。そのときには王に戻してやる。貴族達もな」


「そうですか。それは決着が早くついてよろしいですな」


「だろ? 戦争すると決めたやつが自分で戦えばいいんだ」


「さようでございますね。では、日を改めてお伺いさせていただきます」


と、隠密の頭はその場から消えたのであった。


◆◆◆


「ローズ、その高熱を出している子供にこれを飲ませておいてくれ」


王都のヘラルド医院は流行り病の患者で溢れていた。


「姫様に治癒魔法を掛けてもらってはダメなのですか?」


「ダメじゃ。命に係らんかぎり、自分の力で治さねば何度も同じ病気に掛かる。その子はまだ大丈夫じゃ」


ヘラルドは熱痙攣を起こした子供や、ぐったりとして動けなくなっている高齢者を中心にカタリーナに治癒をさせていた。


「カタリーナ、全部治すのではないぞ。意識を取り戻して、話せるようになるぐらいまでで治癒してくれ」


「う、うん」


加減が難しいなと思うカタリーナ。あいまいな返事をする。


「これを飲むのだ」


ローズは雪の花で作った熱冷ましをトロミに挟んで飲ませる。


「頭が痛い」


「これは頭の痛いのも治まるから、もう少しの辛抱だ。がんばれ」


そして、桶に氷水を出して母親に渡す。


「タオルをこれで濡らして頭を冷やしてあげてください。あとは水分をこまめに飲ませてくださいね」


そして、次から次へと、ヘラルドが選んだ患者に同じようにしていくのであった。


◆◆◆


「やはり失敗か」


「はい。我らでも手出しできぬと思われます」


元第一王子のスターンは個人の隠密からマーギン暗殺失敗の報告を受けていた。


「なら、あとは父上に任せるとしよう」


と、笑みを浮かべながら、城から姿を消したのであった。



2日後、前王の寝室に忍びこんだ隠密の頭。


フッ。


吹き矢で眠り薬を塗った針を前王に刺した。


(隙だらけと見せかけているわけでもなさそうだ。この状況で爆睡できるのは肝が据わってるのか、何も考えていないのか……)


そして、前王を担ぎ、隙を見て城から出て行ったのであった。



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― 新着の感想 ―
正直王同士が戦う案は指示するんだけどさ 地球だとロシアが世界征服しちゃうから悩むなw プーチンに勝てそうな人いるか?
前王「油断したな!」
あらあら?王族2名雲隠れですか?(*・ω・)
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