崇拝
マーギンは騎士団長に貴族街を案内させたあと、庶民街も案内させた。
「王都の庶民街は活気がないな」
「はっ、これから冬になりますので」
「冬になるからこそ、その準備で活気が出るものじゃないのか?」
「い、今は戦争中でもありますので……」
「食料も不足してるってことか」
「はい」
「その割には貴族街は賑やかだったな」
「は、はい」
「だいたい分かった。城に戻るから軍の責任者を連れてこい。それと、貴族を取りまとめているのは宰相か?」
「はい」
「宰相はあの場にいたか?」
「おられました」
と、いうことで城に戻り、早速指示を出す。
「宰相」
「は、はい」
「貴族全員、私財の9割を徴収しろ」
「なっ……そのようなことをすれば反発が出て国が立ち行きませんぞ」
「分かった。貴族は全員処刑する。それで反発も出なくなるな」
「おっ、お待ちくださいっ。そのような無茶なことをなされば反乱が……」
と、宰相が言いかけて、マーギンから殺気が出ているのを感じた。
『次に歯向かったやつはこの世から消えると思っておけ』
この言葉を思い出したのだ。
「か、かしこまりました」
「期限は1週間」
「は、はい」
「騎士団長、軍の統括はまだか?」
「間もなく参ります」
それから10分程経ったころに5人の軍人達が殺気を纏ってやってきた。
「誰が責任者だ?」
「俺だ。留守の間にずいぶんと舐めた真似をしてくれたものだな」
ドンッ。
「ぐうっ」
マーギンはストーンバレットで肩を撃ち抜いた。
「口のきき方に気を付けろ。全員跪け」
「貴様……」
ドンッ。
「次はないぞ」
両肩を撃ち抜かれた軍統括。
「では命令する。ウエサンプトン、ゴルドバーンから兵を全て引き上げろ」
「何を勝手なことをっ!」
ゴウッ。
マーギンは軍統括を焼いた。
「お前は軍統括クビだ。うしろのお前、軍統括をやれ」
「はっ?」
「兵を全て引き上げろ」
「そ、それは……」
ゴウッ。
「その横のやつ、今度はお前が軍統括だ。全ての兵を引き上げろ」
「はっ、はい」
「いつまでに引き上げが可能だ?」
「2、2ヶ月は必要かと」
「2週間」
「はっ?」
「2週間と言ったのだ。できないのか?」
と、玉座に足を組んで座ったまま火の玉を浮かべるマーギン。
「やりますっ!」
「よろしい。引き上げさせた者を城に集めろ」
「かしこまりました」
軍人達は焼かれた統括ともう1人を抱えて玉座の間をあとにする。
こうしてマーギンはノウブシルクを掌握したのであった。
貴族の私財がどんどんと玉座の間に集められていく。基本は現金と宝石の類だ。
「宰相、ごまかしていたら、その貴族とお前は死ぬからな」
「だ、大丈夫でありますっ!」
宰相は騎士達にも手伝わせて私財を集めてきていた。もちろん反発が出たが、騎士達は死ぬか私財を出すか選べと迫り、それでも反抗したものは捕らえたようだ。
最終的に集まった現金は500億Gほど。引き上げてきた兵士達も続々と集まってきていた。
広場に集めた兵士に向けてマーギンが演説を行う。
「人殺しの諸君」
そう切り出したマーギンにザワッとする兵士達。
「戦争は終わりだ。お前らは本日をもって、魔物討伐軍とする。年明けにマンモー討伐戦を行うので、それに備えよ。以上」
「お、おいあれ……ゴルドバーンから俺達を逃がした男じゃ……」
「本当だ……黒髪だが確かにあの男だ」
一部の軍人達がマーギンに気付いた。
「小隊長、あの男が王になったって、どういうことですか」
「俺にも分からん……」
◆◆◆
「ノウブシルク兵が全員引き上げただと?」
ウエサンプトン王はいきなりノウブシルク兵がいなくなった報告を受けていた。
「何がどうなっているのだ?」
「分かりません。国から引き上げ命令が出たらしいのですが……」
「何か大きな動きがあるのか? まさか、この地にいてはまずいようなことをするつもりか?」
「ノウブシルクに調査を出します」
「早急に調べろっ!」
「はっ」
◆◆◆
「なに? ウエサンプトンからノウブシルク兵が消えただと?」
「はい。それにより、ウエサンプトン兵も国境から撤退しました」
「何か勘付いたのか?」
「まだ、バレるような段階ではありません」
「そうか。で、数は増えたのか?」
「春になればゾロゾロと出てくるかと」
「主要都市の防衛は本当に大丈夫なのだな?」
「はい。万が一、我らの都市を襲うようなら、始末せねばなりませんが、また1年も経てば増えるでしょう」
「主要都市は必ず守れ」
「はっ」
◆◆◆
「マーギン戻って来なかったねー」
年が明けて、カザフ達は訓練所でマーギンのいない餅つきをしていた。
「おい、この餅硬ぇのが混じってるぞ」
餅を食べて文句を言うバネッサ。
「しょうがないだろ。やり方がよく分かんないんだから」
毎年、自分達は餅をついて丸めるだけだった。これまでは餅をつく準備は、マーギンが全部やってくれていたので、タジキはもち米の準備を知らず、前日に浸水させずに蒸したので硬い米が残っていた。
「なぁ、バネッサ。娼館にこれ持って行ってくれよ。マーギンは毎年、料理と餅持って行ってたんだ」
と、カザフがタジキの作った料理と餅をバネッサに持ってけという。
「自分で行けよ」
「俺達は入れないだろ。マーギンのいない間、代わりにやっとかないと」
「ちっ、しょーがねぇな」
と、バネッサはアイリスと料理を持ってシャングリラに向かった。
「100万……いや、300出してやろう」
いきなりバネッサに値付けしたババア。
「な、なんだよ? 300って?」
「バネッサさんの値段です。私は3万Gでした……」
「カッカッカ。お前はあのときから変わんないね。で、何しにきたんだい?」
「マーギンさんが戻ってこないので、代わりに料理を持ってきました」
「けっ、あんた達、あいつの真似なんざしなくていいさね」
「でも、マーギンさんも気になってると思うんです。ですから代わりに」
と、アイリスがニコッと笑った。
「そうかい。あいつも随分と気の許せるやつが増えたってことか。それじゃありがたくいただいておくよ」
「けっ、初めからそう言えってんだ」
「そっちの乳のデカいの。名前はなんていうんだい?」
「バネッサ」
「そうかい。マーギンを宜しく頼んだよ」
「どういう意味だよ?」
「そういう意味だよ。あいつには誰かそばにいてやらないとダメさね。あいつはいつか自分が壊れる道を歩こうとする。その道を歩く前に立ち止まらせてやる人間が必要なんだよ」
「……マーギンはうちがいても立ち止まりゃしねーよ」
「そうかい? その乳で挟んでやれば立ち止まるだろよ。ヒッヒッヒ」
「うるせえっ」
そう怒鳴ったバネッサの横で、アイリスは自分の胸を眺めていたのだった。
◆◆◆
「ここで狙い撃ちする」
マーギンは軍人達を連れて、北側の山間部付近まできていた。
「マンモーに我らの武器は効きませんぞ」
「死ぬ気でやれ」
作戦は囮がマンモーを呼び寄せ、徐々に幅が狭くなる渓谷に誘導する。そこで、魔導大砲で一斉攻撃をするのだ。
「頭を狙え。何発か当てりゃ倒れる。倒れたら腹への攻撃だ。起き上がったら逃げろ。餌は捕れたか?」
「は、はい。教えていただいた通りにしたら、簡単に捕獲できました」
餌とはレーキのことだ。小型のレーキはマンモーが好んで食う餌なのだ。
「剣や槍でまともに戦っても倒せないが、穴に落としてやれば捕まえるのは難しくない」
「はい」
そして、網でグルグル巻にしたレーキを持って、マンモーを呼び寄せに行った。走って逃げるのは無理があるので、リレー方式にする。レーキを持った囮が追いつかれそうになったら、他の囮にレーキを投げてバトンタッチ。それを繰り返して渓谷に誘導して攻撃だ。
ドドドドドド。
「頼むっ!」
「よっしゃあ、任せろ」
渓谷まで何人も等間隔で並び、前へ前へとレーキを投げて、投げ終わったら横に逃げる。
そして渓谷まで来たマンモーはこれ以上進めなくなった。
「撃てーーっ!」
ドーン。ドーン。ドーン。
魔導大砲は戦艦に搭載されていたものをここに運んでいた。その数5台。
「バァォォォォ」
魔導大砲を食らったマンモーは激しく暴れた。
ドゴドゴドゴ。
横の岩に当たって、大きな振動が上にまで伝わってくる。
「慌てるな。頭をよく狙え」
ドーン、ドーン。
5発目がマンモーの頭に当たった。
ドサっ。
「よし、倒れた。一斉攻撃!」
「うぉぉぉぉっ!」
兵士達が一斉にマンモーの腹目掛けて剣や槍で攻撃する。
「斬るんじゃない、刺せっ! 体当たりするような感じで刺せ」
剣で斬り付けてもマンモーの硬い毛に阻まれて斬ることはできない。腹の柔らかい部分を目掛けて刺すしかないのだ。
「ぐわぁぁぁっ」
暴れたマンモーの足に吹き飛ばされる兵士。
「怪我したものを回収っ! 次の攻撃隊と代われ」
何度か攻撃隊を交代させ、ついに血を流したマンモーの動きが鈍くなってきた。
「死ねぇぇぇっ!」
ブッシャァァ。
「よし、全員離脱っ!」
血が噴き出したのを見たマーギンは全員を退避させた。
「このまま死ぬのを待つ。他の魔物が来ないか警戒しとけ」
「はいっ!」
10分ほど待つと、生命反応が消えた。
「お前らの勝利だ」
「うぉぉぉぉっ!」
マーギンが勝利宣言をしたことで、湧き上がる兵士達。
「つっ、次が来ます」
勝利宣言をした直後、警戒に当たっていた兵士から報告が入った。
「ちっ、今から態勢を整えるのは無理だな。退却……と言いたいところだが、俺がやるわ」
「えっ?」
「お前ら全員、上に避難してろ」
マーギンは全員退避させ、向かってくるマンモーの前に立ち塞がった。
《スリップ!》
ドドドド、ドーン、ズザザザザっ。
派手に転ばされたマンモーは滑ってマーギンの前まで来た。
「フンッ」
マーギンはパッと飛んでマンモーの上に飛び乗り、妖刀バンパイアで首を斬った。
ブッシャァァ。
血を避けて、うしろに下がる。
「討伐完了だ」
大勢の兵士、魔導兵器を使ってなんとか倒したマンモーをマーギンは一瞬で倒した。
「すげぇ……」
この討伐に参加していた兵士達は一瞬でマーギンを崇拝するようになったのだった。




