舐めたマネしやがって
マジャコを回収して村に戻る。体力切れで立てないロッカはオルターネンがおんぶだ。
「おぉ、マジャコがこんなに」
「今から食う?」
腹は減ってないが、味見を兼ねて食うことに。シンプルな塩茹でがお勧めとのこと。
「大味かと思ってたけど、こいつ旨いな」
「海老より食いごたえあるんじゃ。ほれ、爪を食え。ここが一番旨い」
大きな爪だからたくさん身が取れる。歯ごたえはあるけど味が濃厚だから、ここの酒とよく合う。カニと海老を混ぜたような味だからシスコが好きかもしれん。何匹かもらっておこう。
ほとんどを村人に渡し、2匹お土産にもらっておいた。
翌朝
「次に来るときは醤油を持って来る」
と、マーロックが挨拶をして島を出発。
「また来てくれ。お前さん達は楽しくて良かったぞ」
「俺達は? 他に誰か来たのか?」
マーギンが今の言葉に違和感を覚えた。
「数日前に来たぞ。野菜類を出せと高飛車なやつらでな。少し分けてやったら、トマトやキュウリを貪るように食いよっての。しばらく野菜とか食ってなかったんじゃろな。しょうがないからあるだけくれてやったわい」
しばらく野菜類を食ってなさそうだと?
「どんなやつらだった? 異国人か?」
嫌な予感がする。
「どうじゃろの? この島に来るやつはあまりおらんからよく分からん」
「マーロック、全速力で領都に戻るぞ」
「なんかあるのか?」
「パンジャで大きな船を見たと言ったろ? ここに来たのがそいつらならまずい。急げ」
マーギンの慌てぶりに、ただごとではないと感じたマーロックは全速力で船を出した。
マーギンは船員達に強化魔法を掛け、風魔法で追い風を吹かせる。
ドバッシャン、ドバッシャン!
水面を跳ねるように進むアニカディア号。船酔いするローズ達はすぐに死んだ。シャランランしてもすぐに酔うだろうからそのままだ。
ちっ、これだけ急いでも間に合わんかもしれん。船ごと転移魔法で移動するのは危険だ。転移先に他の船がある可能性がある。それに海上を転移先に設定するにはイメージが曖昧過ぎるのだ。
◆◆◆
エドモンド達が乗った馬車は順調に進み、昼過ぎに領都に到着した。
「ではダニエラ夫人、王都に戻られましたら宜しくお願い致します」
「えぇ、かしこまりましたわ」
大隊長の自宅を改装して作るお店は高級ランジェリーを扱う店にしてはどうかとなった。それと真珠パウダーを使った化粧品を取り扱う予定にする。ダニエラ夫人もそのお手伝いをすることに。
「シスコ、大変だと思うけど宜しくね」
シシリーにビタンをするわけにもいかず、あれよあれよと決まっていく話を飲み込むしかなかったシスコ。
「シスコくん、今日はうちに泊まるかね?」
「い、いえ。ハンナリー商会に泊まりますから、お気遣いなく」
「シスコお姉ちゃんは泊まりに来ないの?」
エアリスに上目遣いで聞かれる。シスコはこういうのに弱い。
「う、うーん。ど、どうしようかな……」
「うちに来なかったらどこに泊まるの?」
「ハンナリー商会の事務所というか、孤児院ね」
「孤児院ってなに?」
「孤児院っていうのは……」
「エアリス坊っちゃん、孤児院が何か知りたいなら泊まってみる?」
「ちょっとシシリー」
「領主様、エアリス様の社会勉強としてお泊りされてみてはいかがでしょうか?」
シシリーはエアリスが将来タイベ領を継ぐなら、こういう子供達がいることを知っておいて欲しいと思ったのだ。
「エアリスを孤児院にかね?」
「はい。生きたお勉強というのでしょうか。机の上では学べないことを知る機会だと思います。王都ではなく、タイベの孤児院だと我々もおりますし」
「エアリス、どうしたい?」
「シスコお姉ちゃんも行くんだよね?」
「え、えぇ」
「じゃ、行く!」
ということで、エアリスも孤児院で1泊することになった。エドモンドとダニエラは港街の宿に泊まる。親から離れる経験も必要だとシシリーが説得したのだ。
孤児院に行く前に、孤児達が天ぷらを売っている屋台の見学。
「よっ、そこのお姉さんと坊っちゃん。今ならこのチーズ入りがお勧めだぜ」
と、接客をする孤児達。
「はいはい、この人達はお客様じゃないわよ」
「あ、エルラママ。この人達は知り合いか?」
「領主様の奥様とお坊ちゃんよ」
「えっ? し、失礼しました」
「いいのよ。それ、おいくらかしら?」
「1つ、100Gだ……です」
「では3つ下さいな」
「へい、まいど」
孤児達は少し揚げ直してからダニエラ夫人に渡す。
「ふーっ、ふーっ」
ちゃんとふーふーしてから食べるエアリス。
「おいひぃっ!」
「本当。美味しいですわね」
「うむ、旨いな」
領主家族に褒められて嬉しそうな孤児達。
そんな明るい雰囲気とは裏腹に、何やら港の方から騒がしい声が聞こえてきた。
「ん、何かあったのか?」
「なんでしょうね? ちょっと、誰か見てきてくれないかしら」
「オッケー!」
シシリーが孤児達にそう言うと、身軽な男の子が走って港を見に行った。
そして、しばらくすると……
ドガーーーンっ!
「きゃあぁぁっ! なにっ? 今のはなんの音なの」
「なんだっ、何かが爆発したのかっ!」
「シシリー、領主様達をお願い」
「シスコ、何をするつもり」
「様子を見に行ってく……」
ドガーーーン、ドガーーーンっ!
「きゃあぁぁっ」
「なっ、なんだあれはっ?」
騒然となる港。見たことがない大きな船が現れたと騒いでいたら、船体から何かが飛んで来て、建物が吹き飛んだのだ。
「若頭、なんですかあれは?」
「分からん。が、攻撃してきたってことは敵だな。反撃に出るぞ。クイーンエルラ号発進!」
アニカディア号の次に造船した討伐船、クイーンエルラ号を任されている若頭は船員に戦闘準備をさせて発進した。
ドガーーーン、ドガーーーン。
次々と弾を撃ち込んで来る大型船。そして周りに中型船と小型船が上陸しようと待機をしていた。
「大型船3隻に中型船6、小型船およそ20。どれから狙いますか?」
「今攻撃をしている大型船を狙う。バリスタ用意」
「バリスタ用意」
クイーンエルラ号に気付いた小型船がこちらに向かってくる。
「敵接近。中型1、小型3」
「手持ちのバリスタで対応しろ。このまま全速力で前進。ぶち当てるつもりで行け」
「イエッサー!」
全速力で敵に突っ込んで行く。
「うわっ、突っ込んで来やがるぞ」
凄いスピードで突っ込んで来るクイーンエルラ号を向かって右側に避ける敵の小型船。中型船はそのままこちらに向かって来た。
「面舵いっぱい、小型船のうしろへ付けろ」
クイーンエルラ号は小型船を追尾したことにより、中型船に船尾を見せるような体勢になった。
「スピードはあるが海戦は素人か。魔導銃で狙い撃て」
中型船の船長はクイーンエルラ号が背を向けたことにより、そのまま攻撃体勢に入った。
「180度回転!」
「180度回転」
その刹那、クイーンエルラ号は船としてはありえない方向転換をした。そして、中型船の真横に進み船首を向けた。
「バリスタ撃てーーーっ!」
「バリスタ発射!」
ドガーーーン!
真横からバリスタを撃たれた中型船は半分に折れるように壊れた。
「撃沈! 次は大型船だ」
ドガーーーン、ドガーーーン、ドガーーーン。
港を攻撃している大型船に向かってスピードをあげると、他の大型船から魔導砲の攻撃を受ける。
「若頭、やべぇですぜ」
「当たらなければどうということはない。全速前進! ジグザグに進め」
攻撃を躱すためにジグザグに進む。動きを読まれないように不規則な動きだ。
「バリスタ用意、大型船の吃水線を狙え」
「大型船吃水線狙え」
バリスタの角度を合わせる。
「発射!」
「バリスタ発射!」
ドガーーーン。
「命中! この場を全速離脱」
他の中型船や小型船がクイーンエルラ号を狙いに来た。
「囲まれますっ!」
敵船を避けるように進むと、待機している大型船の魔導砲の攻撃範囲になるように取り囲み始めた中型船と小型船。
「ちっ、逃げ場はなしか。全員覚悟を決めろ。敵の群れに突っ込む。手持ちバリスタで応戦する」
パンパンと敵船から魔導銃の攻撃が飛んで来る。船体はマーギンが強化魔法を掛けてくれている。多少の攻撃で沈むはずがない。
そう判断した若頭。
「いけーーっ!」
パンパンパンパンパンパンっ。
ドーーン。
「なっ、なんだっ?」
中型船と小型船が固まっているところに突如突っ込んできた大きな船。
「クックのやつ、無茶しやがって」
現れたのは元貨物船。操船はクック船長。
「そんなにデカい船だと狙い撃ちされるだろうが」
クイーンエルラ号と違って小回りも効かない元貨物船。
「攻撃艦に突っ込め。舐めたマネしやがって。ぶち壊してやる」
クックもまた、マーギンが強化した船を信用していた。船首から敵の大型船の横っ腹に突っ込んだら絶対にこっちの方が勝つと信じて突進する。
敵艦の魔導砲は左舷にしか付いていない。貨物船が突っ込むのは右舷だ。
「あの船はクックに任せる。こっちは待機している大型船を狙う」
バリスタを打ち込んだ大型船は傾き始めている。クックはもう1隻の大型船を狙うだろう。残る大型船は後方で待機しているやつのみ。貨物船が狙い撃たれないように、クイーンエルラ号は突進していくのであった。




