ロッカ覚醒?
ローズを抱きかえるようにして島に降りたマーギン。
「すまないマーギン。もう大丈夫だ」
「無理しなくていいぞ」
と、砂浜にマットレスを敷いて、そこに寝かせる。
「まだフワフワしてるだろ? そのまま落ち着くまで寝てたらいいよ」
介抱チャンスをゲットしたローズはカタリーナからいつまでもシャランランしてもらえなかったのだ。
その間に、いきなり全員で行くと驚かれるかもしれないとのことで、マーロック達が先に島民達のところに知らせに行った。今日はここで泊まることになるだろう。
「まだ船に乗ってるみたいだぜ」
「そうだな。 腹の中がひねられているような感じだ」
バネッサとロッカもまだ船酔いから完全復活しておらず、砂浜に座っていた。
「マーギン、この島で何かする予定はあるのか?」
「別にないですよ。旨い酒を飲んだら領都に戻りましょう」
「分かった」
「隊長は何かしたいことでもあるんですか?」
「見知らぬ場所にきたから、何か変わった魔物がいないか見ておこうかと思ってたんだが」
「無人島なら何がいるか分からないけど、昔から島民が住んでるなら、そんなに強い魔物はいないと思いますよ」
「それもそうか」
ここは陸の魔物より、海の魔物の方が厄介なのかもしれんな。海で生活している人達は海の近くに集落を作る。しかし、集落は島の奥の方にあるみたいだからな。
「カタリーナ、アイリス。海に入るなよ」
「えーっ、どうして?」
「なんかいるかもしれんからだ」
「えっ?」
そう脅すと、波打ち際から慌ててこっちに来た。
「お前、いい加減、ローズにシャランランをしろ。いつまでもこんな感じだったら危ないだろうが」
そう言われたカタリーナはローズにシャランランを掛けたのだった。
「マーギン、歓迎すると言ってくれたから、集落に行くぞ」
と、マーロック達が呼びに来てくれたので、集落に移動した。
「結構人がいるんだな」
「ここだけで生活してるからな。人数がいないと集落がダメになるだろ」
昔から不思議だったのが、どんな場所でも住み着く人がいる。わざわざ離島に住まなくても、タイベにはたくさん土地があるのにな。
集落の人達はよそ者でも歓迎してくれ、宴会を開いてくれるらしい。どうやら、娯楽が少ないので、こういうイベントは大歓迎のようだ。
「酒を飲みたくてわざわざ来なすったのかね」
「マーロックが旨いと言ってたんで、気になりましてね」
「ここの住民は酒が好きでの、作っては貯めていくんじゃ。ほれ、遠慮せずに飲め」
もらった酒は米焼酎だろうか。ややクセのある香りと風味。しかし、まったりとした口当たりは滑らかで旨い。
「なるほど、味わい深い酒ですね」
「そうか、そうか。気に入ったなら好きなだけ飲んでいけ」
料理は木で作った大皿で運んでくれる。
「わっ、豆腐じゃん」
この皿はゴーヤチャンプルみたいな料理。そこに豆腐が入っていたのだ。
「おっ、この酒とこれよく合うね」
おこちゃま達はゴーヤが食べられなかったので手を付けない。豚バラ肉の煮たやつと串焼きだけを食べている。
「コリコリしてるこいつはなんだ?」
と、バネッサが聞く。
「豚の耳じゃよ」
ここでは肉といえば豚肉のようで、豚足やツラの焼いたやつとかもある。メインは大きな魚を蒸し焼きにしたもの。塩味ばかりだけど、どれも酒に合う。
「ここでは牛肉は食わないのか?」
「牛は働かせるからの」
食料というより、労働力か。
「牛肉持ってるから、焼肉でもしようか?」
男連中とロッカは美味そうに食ってるけど、ローズがダメそうなものばかりなので、マギュウを出すことに。
「気を遣わんでもいいぞ」
「酒を飲ませてくれた礼だよ」
と、マギュウの焼肉を振る舞う。マーロック達とオルターネンも手伝ってくれ、島民で食べたい人達にも食べてもらう。
「うぉぉぉぉっ、なんじゃこりゃぁぁ。旨ぇぇぇ」
島の人達大騒ぎ。
「向こうではこんな旨いものを食ってるのか?」
「これは魔物の肉でね。向こうでも出回らないよ。自分達で狩ってこないとダメなんだよ。俺達はそいつが群生している場所を見付けたから、こうして大量に持ってるけどね」
「肉が特別なのは分かった。この味付けはなんじゃ?」
「これは最近、タイベで出回り始めた調味料を使ったタレだね。魚にもよく合うよ」
そんな話をしていると、分けて欲しいと言われて、醤油の樽とここの酒の甕を交換することになった。今後はマーロック達がここに来て、物々交換するとのこと。
島民達も飲んで騒いで楽しい時間を過ごした。
「砂浜でテントを張るか」
「夜の砂浜には近寄ってはいかん」
と、忠告される。
「なんか出るのか?」
「この時期はマジャコが上がってくることがある。あいつに襲われたらひとたまりもないぞ」
「マジャコってなんだ?」
マーギンは海の魔物にはあまり詳しくない。
「シャコは知っとるか?」
「エビみたいなやつ?」
「そうじゃ。あれのデカいやつでの。人程の大きさがある。陸でも歩けるから見つかると襲われるんじゃ」
やっぱり海辺に集落を作ってないのは、そんなやつがいるからなのか。
それに数メートル離れていても、パンチの風圧で殴られたようになるらしい。まともにパンチを食らえば頭が吹き飛ぶとのこと。
「食うと旨いんじゃがな」
マジャコを狩りに行って死ぬものもいるので、最近では狩るものもいないとのこと。倒し方は石や石斧をひたすら投げて倒すらしい。
それを聞いていたオルターネンとロッカ。
「じゃ、狩りに行くか」
「別に狩らなくてもいいんじゃない?」
「ここでご馳走になった礼をせねばならん。俺達は特務隊だからな」
そういや、ケンパ爺さんの村で訓練しているときも、ボアを狩って渡してたな。
2人が砂浜でマジャコ討伐するのを見学することに。決して、夜の砂浜でチューするんじゃないかとのぞき見するわけではない。
ザザーン、ザザーン。
月明かりに照らされた波の音がするだけで、一向にマジャコは現れない。退屈になったアイリスとカタリーナは寝てしまった。
「暇だな」
バネッサも退屈そうだ。
「お前も寝とけ。明日また船酔するぞ」
「なんかあったら、うちも助っ人にはいらないとダメだろ」
「あの2人に任せておけばいいんじゃないか。それに砂浜だとお前は分が悪い。あの2人がヤバそうなら、俺がプロテクションを掛けるから心配すんな」
「そうかよ。なら、寝るわ」
と、マーギンにもたれ掛かる。寝るならちゃんと寝ればいいものを。
「ローズも寝なくていいのか? 寝不足は船酔いにつながるぞ」
「いや、姫様の護衛もあるし、あの2人の戦いを見ておきたいのだ」
というので、2人でオルターネン達を見守ることになった。
ザザーン、ザザーン、ザザーン……
「来るぞ」
僅かに盛り上がった水面を見逃さなかったマーギン。
ザパッ。
海面から姿を見せたマジャコはいきなりパンチを放った。
それをジェニクスで斬って防ぐオルターネン。両手を十字にクロスして耐えるロッカ。
ザパッ、ザパッ、ザパッ。
次々と現れるマジャコ。相手はまだ半分海の中だ。
「下がれっ!」
足だけでも海に入って戦うのは圧倒的に不利。オルターネンはバッグステップを踏んでうしろに下がる。
ロッカは下がらずに、剣を構えた。
「馬鹿、下がれっ!」
下がらなかったロッカに怒鳴るオルターネン。
「マーギンっ、補助を頼む」
そう叫んだロッカ。
「しょうがない。参戦してくるわ」
と、ローズに言い残して、ロッカのところへ行く。
「心置きなくやれ。戦う場所は波打ち際の砂場が硬いところだ。そこで横に走って、追わせろ」
「心得た」
マジャコに追わせるように、スピードを下げて横移動するロッカ。
「ちっ、マーギンのやつ」
自分の声より、マーギンの言うことを優先したことが面白くないオルターネン。しかし、マジャコは想定していたより数が多い。
「こっちも来いっ!」
オルターネンも波打ち際まで走り、そこで足を止めて迎え打つ。
「ロッカ、やれ」
追ってきたマジャコを振り向きざまに斬ったロッカ。
「うぉぉぉぉっ!」
マジャコはパンチを空撃ちして、空気圧を飛ばしてくる。それを時折食らっても倒れないロッカは耐久性能が高い。
「これしきっ!」
速く、もっと速く。
ロッカはマジャコがパンチを繰り出すのが見えた。そして、剣を振り上げて下ろすのではなく、円を描くように回転させながらマジャコを斬っていく。
なんだ……この感覚は……?
相手がスローモーションのように見えるロッカはバーサクモードに入ったような感じで、マジャコを斬り倒していったのだった。
「はい、お疲れ」
「はあっ、はあっ、はあっ。マーギンっ、今のはなんだっ?」
「ん? ただの強化魔法だぞ。単純に掛けっぱなしにしだけだ。お前、自分でも掛けてただろ? もう立てないんじゃないか?」
「えっ?」
マーギンにそう言われて、自分の足がガクガクと震えているのに気付く。
「俺が補助してんのに、自分でもガッツリ強化魔法を掛けるやつがあるか。補助の意味がねーだろうが」
「て、敵がスローモーションのように見えて……」
「あれだけ強化したら当たり前だ。敵の数を把握してて、討伐完了できることが分かってたらいいけど、まだ敵の数が把握できてないうちに体力を使い果たすな。なんかあったら、撤退もできんだろうが」
と、マーギンにダメ出しされたロッカだったが、今の自分の動きに感動して、それどころではなかったのだった。




