わちゃわちゃ
「なにやってんのよっ、いきなりあんなの触ったら、他のじゃ満足できなくなるでしょ!」
何を言ってるのだお前は?
「さ、触ろうとしたわけじゃない」
「いーや、抗おうとしてなかった。マーギンの力なら、バネッサの手をはらうことぐらいわけないでしょ」
力の問題ではない。バネッサの真剣な眼差しに抵抗できなかったのだ。
「そんなに触りたいのなら、私のを触らせてあげる」
やめなさい。
「いい? 順番から言ったら、まずアイリス。で、シスコ、私、ローズ、シシリーの順番なの。バネッサはラスボス」
聞き捨てならないことを言われたシスコ。
「カタリーナ、私の方があるわよ」
「もう抜きました。私はまだ成長中、シスコは打ち止めでしょ」
お前らは何を競争しているのだ。
そして、順番に加えてもらえなかったロッカ。
「わ、私はローズぐらいあるのだが……」
「筋肉は除外」
「胸は筋肉ではないぞ」
「動くでしょ?」
「えっ? あ……いや……」
「除外」
言い負かされたロッカ。
「カタリーナ、いい加減にしろ。くだらんことで大騒ぎするな」
「だって、ちょっと目を離すと、バネッサとイチャイチャするじゃない」
「してません」
こんな騒ぎに参戦してこないバネッサ。あれ? と思ったら寝てやがる。やっぱり酔ってたんじゃないか。それと、離岸流のこともあって、体力も気力もごっそり持っていかれたのだろう。
「マーギンさん、私の触ってみます? なさそうに見えて、そうでもないんですよ」
と、アイリス参戦。
「触りません。お前らいい加減にしろ」
「ぶーっ!」
ほっぺを膨らませるカタリーナ。
「ぶーじゃありません。楽しく飲み食いできないなら解散だ、解散」
「えーっ」
もう面倒臭くなったマーギンは部屋に戻ろうとする。
「マーギン、忘れ物よ」
と、シスコが寝ているバネッサを指さす。
こいつ……
マーギンはひょいとバネッサを持ち上げて、部屋に連れて行った。
「ちょっと、シスコ。またバネッサと2人きりになるじゃない」
「別にいいじゃない。バネッサをもらってくれそうな男なんてマーギンぐらいしかいないんだし」
「ダメよっ!」
そう言って、カタリーナはローズとアイリスを連れて、マーギンのあとを追った。
やれやれとその場に残ったシスコは柑橘類を絞ったお酒を飲む。
「マーギンはローズのことが好きなんじゃなかったかしら?」
と、シシリーがシスコに聞く。
「でしょうね」
「なら、どうしてバネッサを押し付けたの?」
「さっきカタリーナに言った通りよ。バネッサのことを嫌がらずに構い続ける男なんてマーギンしかいないでしょ」
「あら、バネッサはちゃんとしたらモテると思うわよ」
「あの娘がちゃんとできると思う? 口は悪い、すぐに手が出る。素直じゃない。見てくれは良くても、普通の男なら逃げ出すわよ」
「マーギンには素直なのにね」
「マーギンはバネッサのことを身体を張って助けたりしてるしね。バネッサが心を許せる唯一の存在になってるのよ」
「そうなの。マーギンは懐が深いからね」
「ほんと、バネッサみたいな面倒臭い娘を嫌がらずに面倒見るなんてたいしたものよ」
「マーギンは面倒臭い娘が好きなのかもしれないわね」
と、クスクス笑うシシリーなのであった。
落ち込んだロッカと砂浜に来ているオルターネン。
「姫様の言ったことは気にするな」
「オルターネン様、やはり私は男みたいなのでしょうか。親にもそのように言われてきましたし……」
「鍛えられた肉体だけを見ればそうかもしれんが、俺はロッカのことを乙女だと思ってるぞ」
「気を遣ってくれなくていいですよ。カタリーナの言った通り、胸も動かせますし」
「俺はロッカのことを素敵だと思ってる。これじゃ不服か?」
と、面と向かって言われたロッカは赤くなる。
「い、いえ。ありがとうございます……」
「他のやつが言うことは気にするな。強さを求めて鍛えたのだ。何も恥ずかしがることはない」
「そうですね……それもあまり報われませんでしたが」
と、自分の強さが頭打ちになっていることをこぼす。
「マーギンが個として強くなりたいのか? と、聞いたことを覚えてるか?」
「覚えてます」
「だからマーギンはロッカに伝えなかったことがある」
「伝えなかったこと?」
と、ロッカが聞き返したときに、マジックバッグから聖剣ジェニクスを出して見せた。マジックバッグは聖剣を収納するためにマーギンが作ってくれたのだ。
「なんですかその剣は?」
「これは聖剣ジェニクス。マーギンの仲間だった者が使っていた剣だ」
「え?」
「元の持ち主は勇者マーベリック。マーギンがベタ褒めするほどの剣士だったようだ」
「ゆ、勇者って……」
「マーギンは勇者パーティの一員だったらしい。しかし、その勇者はもういないみたいでな、俺にこの聖剣を託してくれたんだ」
「オルターネン様に託した……ではオルターネン様が勇者に……」
「俺がそんなだいそれた者になったわけじゃない。しかし、勇者がやるべきことを俺は託されたのだろう。俺はそれに応えたいと思う」
「オルターネン様……」
ロッカは今の話を聞いて、オルターネンが自分の手の届かないところへ行ってしまうのだと思った。
「ご武運をお祈りしております」
と、キュッと締め付けられた心を押し殺し、身を引くつもりで言った。
「祈るだけじゃダメだ。共に歩んで欲しい」
「えっ、共に歩む……? 私はもう能力的に頭打ちで……」
「この剣の持ち主だった勇者は1人で戦っていたのではない。マーギンが補助役として一緒に戦っていたのだ」
「私はオルターネン様の補助をできるほどの力は……」
「違う。俺が言いたいのはそういうことではない。勇者と呼ばれたものでも、マーギンの補助を必要としたのだ。個としての強さも、もちろんズバ抜けていただろうが、それでも強大な敵に立ち向かうには補助役が必要だったのだ。どういうことか分かるか?」
「い、いえ……」
「強大な敵に立ち向かうためには、個としての強さだけに拘っていてはダメなんだと気付いた。俺達の目的は魔物から国を守ること。強さはそのために必要なものだ。だから使える手は全て使う。そもそも勇者と呼ばれたものですら、補助役を必要としたのだ。俺達が個として立ち向かおうとするのはおこがましいとは思わんか?」
「そ、それは……」
「ロッカが今よりも強くなるには補助役が必要だとマーギンは言った。お前に足りないのは強さではなく、魔力だ。だから、魔力を補助してくれる者がいれば、今よりもずっと強くなる」
「マーギンが補助役をしてくれるということですか?」
「いや、マーギンはマーギンの使命がある。これはマーギン抜きでの話だ」
「では補助役は誰が?」
「トルクだ。ロッカが補助役付きでも強くなりたいと思ったときのために、トルクにはすでに補助役としての訓練をしてくれたらしい」
「えっ?」
「共に歩めというのは……」
「俺達で強大な敵に立ち向かおう。一緒にやってくれるか?」
「は、はい」
「それと、もう一つ」
「なんでしょう?」
「人生も共に歩んでくれないか?」
「そ、それはどういう意味で……」
「そういう意味だ。ロッカがやりきったと思ったあとでいい。そのときに改めてプロポーズをさせてくれ」
「オルターネン様……」
オルターネンは聖剣ジェニクスを掲げる。
「聖剣、それは国が見た光。俺が見た希望。聖剣、それは2人の心。幸せの聖なる剣だ。共に行こうロッカ」
「はい」
ロッカは今まで泥のようになっていた気持ちが聖剣で浄化されたような気になったのであった。
「おい、お前ら。自分の部屋で寝ろよ」
ごちゃっと部屋に固まっている面々。
「じゃあ、どうしてバネッサを自分の部屋に連れてきたのよ」
「こいつの部屋の鍵がどこにあるか分からんからだろ。カタリーナの部屋に連れて行くからそこで寝かせろ。俺は1人でゆっくり寝たいんだ」
「イヤ。バネッサが寝たら狭くなるじゃない」
「じゃ、アイリスの部屋で」
「なら、私がここで寝ます」
「俺は1人で寝たいと言ってるだろうが。バネッサと寝ろ、バネッサと」
カタリーナとローズの部屋はシングルベッドのツインで、他の皆はシングル。マーギンの部屋はシシリーが一番広いタブルのツインの部屋を用意したのだ。
そして、誰も譲らず、カタリーナとローズ。アイリスとバネッサがベッドを使い、マーギンはソファで寝ることになったのであった。




