カタリーナ弟子入り
結構遅くまで飲み、そのままオルターネンの部屋に泊まったマーギン。
「今日は何をするつもりだ?」
「カタリーナと医者のところに行ってきますよ。しばらくその状態が続きます。アイリスもときどき連れて行きますけど、いいですよね」
「構わんぞ」
と、オルターネンの許可を取って、カタリーナ、ローズ、アイリスを連れてヘラルドのところへ。
「おう、マーギン。久しぶりじゃな。調子でも悪いのか?」
「違うよ。ちょっと頼みがあって来たんだ。忙しい?」
「この時期は比較的マシじゃ。それにお前の頼みなら聞くしかないじゃろ。で、その2人は誰じゃ?」
「カタリーナと護衛のローズ」
「護衛じゃと? 貴族か?」
「王族」
そう答えると、は? という顔をした。
「まぁ、身分はどうでもいいんだけど」
「いいことあるかっ。こんなところに王族を連れてくるなっ!」
「私、迷惑?」
と、カタリーナがヘラルドに聞く。
「め、迷惑とは……」
「迷惑じゃないなら良かった。こいつを弟子にして欲しいんだよ」
すかさずねじ込むマーギン。
「で、弟子は取っておらん」
断るヘラルド。
「ダメ?」
圧をかけるカタリーナ。
「のは昨日までで……」
落ちたヘラルド。
「それと、こいつを翻訳するから、医療用語で分からないところ教えて」
「なんじゃその本は?」
「昔の仲間が使ってた医学書が出てきてね。この国の医学より発展してたから、翻訳したら役に立つんじゃないかと思って」
「みっ、見せてくれ」
と言うので渡してみる。読めないのに見てどうすんだ?
「これはなんて書いてある?」
ほらみろ。
「だから、全部翻訳するから。でも言葉自体を知らないと訳せないからさ、それを教えて欲しいんだよ」
「よし、手伝うぞ。翻訳したやつは読ませてくれるんじゃろうな?」
「もちろん。転記して国にも寄付するつもり」
「それで王族を連れてきたのか」
「カタリーナは弟子にしてくれと頼んだだろ? 医療知識を教えてやって欲しいんだよ。あとはこいつが治すべき人を選別してやって欲しい」
「治すべき人を選別? そんなもん全部治すに決まってるじゃろうが」
「それは医者の仕事だろ? こいつは病気を治せる治癒魔法を使える」
「病気を?」
「そう。カタリーナは王族でもあるけど、聖女でもあるんだよ。魔法で治せるとしても医療知識があった方がいいと思って」
ヘラルドはマーギンの言っていることを上手く飲み込めず、一から詳しく話してくれと頼むのであった。
「し、信じられんが……マーギンが連れて来たなら事実ということか」
「そうよ、私はイワ……癒やしの聖女カタリーナ!」
お前、また鰯と言いかけただろ?
「本当。治癒魔法の能力は俺より高い」
「そのことが知れ渡ると、皆が聖女のところに押し掛けてくるから選別しろということか」
「そう。医者が治せるものは医者がやる。難しいのはカタリーナが治す。こんなイメージかな」
「分かった。王族ではなく、弟子ということでいいんじゃな?」
「それでお願い。カタリーナも師匠の言いつけは守れよ」
「もちろん」
「お前の弟子はどうするんじゃ?」
「こいつは治癒魔法が使えないから、翻訳の手伝いをさせる。毎日来れないかもしれないけど」
こうして、ヘラルド医院での翻訳作業が始まり、ヘラルドは興奮しっぱなしだった。
「これ、薬の本だね。こっちは薬草辞典だ」
「そんなものまであるのかっ」
薬草辞典は採取できる環境や季節などの情報が載っている。
「採取だけに頼ってると安定して集められないね」
「育てるのも難しいものがあるじゃろうからな」
これは植物研究者のゼーミンに協力してもらおう。採取系ハンターを弟子に取れば手広くやれるだろう。
今日はざっと、どんな本があるかの確認だけで終わり。
「なんか食いに行くか。ワシの行きつけの店で良かったらな」
と、ヘラルドが誘ってくれたので、食べに行くことに。
「ヘラルドが誰かを連れてくるなんて珍しいな」
「うるさい。適当に持ってきてくれ」
店はリッカの食堂みたいな感じだ。気取った店より居心地がいい。
出てきたのは串焼きの盛り合わせ。
「マーギン、このお肉硬い」
「なら、鶏肉を食え」
牛串を食べて硬いという。マギュウと比べたら硬いのは当然だ。
カタリーナが囓った続きを食べる。確かに硬いが味は旨い。
「マーギンさん、ハンバ……」
「店で他の料理を希望するな」
ハンバーグの方がいいですと言いかけたアイリスに釘を刺しておく。ローズはピーマンにくっついていた串を避けて食べている。
炒め物や汁ものも食べた。汁もの系は大将の方が上だな。
「気に入らんかったか?」
「いや、旨かったよ」
「そっちの2人はそうでもなさそうじゃの」
「魚はイマイチだったかな」
と、カタリーナが言う。それは俺も思った。淡水魚だろうから仕方がない。
「魚は不味かったか?」
と、店主に聞こえたのか、こっちに来た。
「ライオネルやタイベの魚と比べるとどうしても鮮度がね」
「あー、海の近くの魚と比べられちゃぁな」
「東側に仕入れにきたら、ライオネルと同じ鮮度の魚が手に入るよ」
「マジか?」
「ハンナリー商会ってところが魚を扱ってるんだよ。特別な運び方してるから鮮度抜群。良かったら使ってやって」
と、営業もしておいた。
それから毎日ヘラルドのところで翻訳作業を進めていく日々が続く。
「マーギン、タイベにはいつ行くの?」
遊びのことは忘れないカタリーナ。季節はもう夏になりかけている。
「そうだな。薬草辞典に載ってたやつの採取も兼ねて行くか」
「どれぐらいの期間行くつもりじゃ?」
「2週間ぐらいかなぁ? 薬草採取もしないとダメだろ?」
「分かった。今まで翻訳できたところは、ワシがまとめながら転記しておく」
こうして、翻訳作業を中断してタイベに行くことになったので、アイリスを家に呼び、エドモンドのことを話しておくことに。
「義母と弟がタイベに行ってるんですね」
と、目を伏せる。
「会いたくなければ会わなくていい。俺は会える機会を作っただけで、お前が希望しないならこの話は忘れてくれ」
「領主夫人が嫌なんじゃないでしょうか……」
「どうだろうな。お前も言いたいことがあれば言えばいいし、口をききたくなければ会わなければいい」
「そうですね……」
「夫人は他人だが、弟はお前と半分血が繋がっている。お姉ちゃんがいると嬉しいかもな」
「私がお姉さんですか」
「お姉さんじゃない。お姉ちゃんだ」
「何が違うんですか?」
「イメージだ」
アイリスにお姉さんのイメージはない。
「ちょっと考えておきます」
と、即答を避けたアイリス。わだかまりが残っているのは当然だろう。
「ま、会わなくてもタイベには付き合え」
「はい」
そして、このタイベ行きは、オルターネン、ロッカ、バネッサ、シスコまで参戦することになる。大隊長はオルターネンの代行として残るので、カザフ達もお留守番になったのは言うまでもない。




