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伝説に残らなかった大賢者【書籍2巻&コミックス1巻、11月末同時発売予定】  作者: しゅーまつ


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なんとなく

「勇者? お前は何を言ってるのだ?」


「まぁ、聖剣が隊長を選ぶとは決まってないんだけどね」


全く意味が分からないオルターネン。詳しく説明をするのに、宿舎の部屋に行こうかと話をしていたら、大隊長が家に来いと言った。



「大隊長の家って、デカいですね」


「こんなに大きくなくてもいいのだがな」


「使ってない部屋とかあるなら、ハンナリー商会の店とかに使います?」


「構わんぞ。なんなら、うちのにも手伝わせようか?」


冗談のつもりで言ったら、奥さんも働かせようかだって。大変だなシスコ。



応接室でミスティの金庫のことを話す。


「王妃様がパスワードのヒントを見つけてくれて、カタリーナが開けてくれたんです」


「さすがだな。姫様はお前がいない間、ずっと金庫を開けようとされていたからな」


「え?」


「なんだ、知らなかったのか?」


オルターネンはカタリーナが訓練所に姿を見せない理由をローズから聞いていた。


「あいつ、ずっとやってたのか……」


「ローズも付き合わされていたからな。飲まず食わずに近い感じだったらしいぞ」


そこまでしてくれてたのに、俺は約束を忘れて家に帰ったのか。泣いて怒るのも当然だな。


「で、俺に勇者になるかと聞いた理由を言え」


マーギンは聖剣ジェニクスを出して、オルターネンに見せる。


「俺の仲間が金庫の中にこれを残してくれていた。こいつは聖剣ジェニクス。勇者マーベリックが使ってた剣だよ」


「それを俺に? マーギンが使う方がいいんじゃないのか。勇者はお前に託すために残したのだろ?」


「俺がこれを持っても何も感じない。大隊長に渡したヴィコーレ、カタリーナに渡したエクレール、どれも俺が持っても何も感じなかったけど、大隊長もカタリーナもフォースを感じるとか言ったでしょ?」


「バネッサのはどうだったのだ?」


「オスクリタは俺に残してくれたわけじゃないけど、見た瞬間に分かった。あぁ、これはバネッサに渡すために俺の手元に来たんだなって」


「そうなのか。で、俺が勇者になれると思ってるのか?」


「ジェニクスが選ぶかどうかは不明だけど……」


マーギンは少し黙る。


「カタリーナのときもそうだったんだけどね、才能はもちろんなんだけど、多分、覚悟のある人にしか応えないんだと思う。特にジェニクスとエクレールはね」


「覚悟?」


「そう。国を背負う覚悟。勇者マーベリックは王に、聖女ソフィアは王妃になった。2人は初めからそのつもりで戦っていたんだろうね」


「俺に姫殿下と結婚して、王を目指せと言うのか?」


違う。


斜め上の受け取り方をするオルターネン。


「政治的な話じゃないよ。何を引き換えにしても国を守るという覚悟だよ。正直俺にはその覚悟はない。敵は倒す。それだけだ。だから、俺に使えるのは妖剣バンパイアだけなんだと思うよ」


「俺は国を守る覚悟はとっくにできている。そうでなければ特務隊は務まらんからな」


「了解。じゃ、これを抜いてみて」


と、ジェニクスをオルターネンに渡したあと、マーギンは目をコシコシする。


オルターネンがジェニクスを手にしたとき、マーベリックのように見えたのだ。


チャキッ、シュン。


オルターネンはジェニクスを抜いて見つめたあと、上に向かって突き上げた。


「次こそは……」


オルターネンが小さく呟く。


「なにか感じる?」


「いや、なにか溢れ出すような力を感じるものかと思ったが、そんな感じはない。しかし、強い意志が宿ったような気がする」


「それが大隊長やカタリーナが言ったフォースってやつなのかもしれないね。じゃ、勇者誕生ということで、乾杯しようか。大隊長、お祝いに合う酒を出して」


オルターネンの呟きが聞こえなかったマーギンは大隊長に高い酒を要求した。


大隊長はふんっ、と笑って手を叩く。すかさず現れる使用人に、酒とグラスを持ってくるように伝えた。そして、しばらくすると、


「もう、ご挨拶させて頂いてもいいかしら?」


お酒を持ってきてくれたのは使用人でなく、大隊長の奥さん。とても上品な人だ。


「初めまして。マーギンと申します。大隊長にはいつもお世話になっています」


オルターネンは面識があるようで、頭を下げて挨拶するだけだ。


「あらぁ、もっとゴツい人を想像していたわ。それにこんなにお若いなんて。こちらこそいつも主人がお世話になっております」


と、ニコニコと笑ってテーブルにお酒とグラスを置いてくれる。


「せっかくだ、お前も乾杯に参加しろ」


「あら、いいのかしら?」


「そのつもりだったんだろ?」


「うふふふ、バレましたかしら?」


奥さんに、当たり前だろ、こいつぅ。みたいな大隊長。仲の良い夫婦だ。


乾杯のお酒は白のスパークリングワイン。


「では、オルターネンの覚悟に乾杯」


大隊長が挨拶をして、スパークリングワインを飲む。


「これ、美味しいですね」


「うむ、特別なときに飲む酒だ」


大隊長がそう言うぐらいだから、相当高いやつなんだろう。まだボトルに残ってるから、お代わりしちゃお。


奥さんがいるので、詳しい話をせずに歓談になる。そして、大隊長がハンナリー商会のことを話すと、奥さんも乗り気になり、じゃあ改装しないとダメね、とシスコに言う前に決定してしまった。


「どうした、歯でも痛いのか?」


空想ビンタが来る前にほっぺを防御していたマーギン。


「なんでもないです」


と、ガードをやめた途端にビタンとされたような気がしたのだった。



「おじゃましました」


「泊まっていかんのか?」


「俺には広すぎて、よく寝れなさそうなので」


と、言うと笑われた。


オルターネンも宿舎に戻るので、2人でプラプラと歩く。


「マーギン」


「はい」


「なぜ、大切な聖剣を俺に渡そうと思った?」


「なんとなくかな」


「なんとなくだと?」


「うん。なんとなく」


「そうか、なんとなくか」


と、オルターネンが笑う。


「これを使うとなると、マーギンからもらった剣はお前に返した方がいいか?」


「いや、そのまま持ってて。日頃使いの剣があった方がいいでしょ。それか誰かにあげようと思うなら、あげればいいし」


「お前はそれでいいのか?」


「多分、想いの詰まったものは、そのときに必要とする人に渡っていくんだ思う。だから、ちい兄様が誰かに渡すべきだと思ったときに渡せばいいし、その機会がなくても、そのうち勝手にそうなる。そのジェニクスのようにね」


「そういうものか」


「多分ね」


と、マーギンは笑った。


そして、もう少し飲むか? となり、宿舎の部屋に行く途中でバネッサがオスクリタで襲ってきた。


「危ないだろうが」


「ちぇっ、飯のときは簡単にうしろを取れたのによ」


と、悔しそうにする。


「お前も飲むか?」


と、珍しくオルターネンがバネッサを誘う。


「い、いいけどよ」


と、バネッサも加わり、オルターネンの部屋でたわいもない話をしながら酒を飲むのであった。




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― 新着の感想 ―
ホント2人とも仲良いよね(*・ω・) いつかまたじゃれ合えれたら良い。
さっさとビンタを喰らうといいねw
この聖剣がどうやってマーギンを襲いに来るのかを楽しみにしてます
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