自ら固めにいく
「マーギンもベッドで一緒に寝る?」
「寝ません」
カタリーナとローズはベッドで一緒に寝る。マーギンはソファで寝ることに。
2人が寝静まったのを見計らい、マーベリックの書いた本を読む。
それは日記よりも具体的な記録で、マーベリックが何を成そうとしたのかが記されていた。
「貴族制度を段階的に廃止か」
これに反発した特権階級が第二王子を正当な後継者だと担ぎ上げ、最終的に他国を巻き込んだ世界大戦へと発展。
マーベリックの母は第二王妃、弟の母は第一王妃。次男が第一王妃の息子か。
「お前、俺の戯言を実現しようとしてくれてたのか……そんなの揉めるに決まってんじゃん……」
マーベリックはマーギンが魔王討伐後に、貴族制度のない誰もが自由に暮らせる国を作りたいと言ってたの知っていた。しかし、自分が何もかもマーギンから奪ってしまった。せめて自分にできることは、マーギンの夢を叶えることだと書かれている。
戦争が長引くにつれ、魔導兵器開発がどんどんと進み、剣や魔法での戦いとは比較にならないほど被害が大きくなっていったようだ。
「最終的に使われたのは核爆弾みたいなものなのかもしれん」
開発はしたものの、使ってはいけない兵器と記されている。
マーギンは確認のために兵器関係の本を見てみる。
魔導砲の弾がどんどん進化していっている。最後の使ってはいけない兵器の弾はとても複雑な魔法陣を組み込まれていて、全部理解できたわけではないけど、魔結晶の魔力を凝縮して、高熱として一気に放出するような感じか。俺のフェニックスを高温にして、爆発させるみたいな感じなのだろう。
「こんなのをバンバン撃ち合ったら、何もなくなるのも当然だな」
魔導砲も最終的にはミサイルみたいに飛ばせるようになっている。まるで元の世界の兵器のようだ。
「魔王相手にはこんなの開発しなかったくせに、人間相手なら開発するのか……」
というか、これは俺のせいなのかもしれない。魔導兵器の開発をしようとしたことにミスティが怒ったのも、こういうことを予見してたんだろう。そして、この時代にも影響が出てしまっている。
暗い部屋のソファで暗視魔法を使いながら読んでいたマーギン。
「寝れないのか?」
と、ローズに声を掛けられた。
「あ、起こしちゃった?」
「いや、私はなかなか寝付けなかっただけだ」
「そうなんだ。俺も寝るから気にしないで」
「そうか。あまり元気のない雰囲気が伝わってきたが、金庫の中にあまり良くないものでも入っていたのか?」
と、ベッドから出てマーギンの横に座るローズ。金庫の中身は医学書のこと以外は詳しく話していない。
「歴史というか、過去のことを書いてくれてあるんだけど……元いた国が滅びたのは俺のせいかもしれないんだ」
「国が滅びたのがマーギンのせい? また何かやらかしていたのか?」
またとか言われるマーギン。
「まぁ、そうだね」
「何があったか詳しくは聞かないが、過去のことを悔やんでも仕方がないのではないか? 遥か昔に終わったことだ。それにマーギンのせいかどうかも確かめようがない」
「そうだね」
暗い部屋でうっすらと見えているマーギンの顔は晴れていかないようだ。
「それともマーギンのことを責めるようなことが書いてあったのか?」
「いや、そんなことは一言も書かれてないよ」
「ならばもう気にするな。私も、捨てて行かれたことを気にしないことにする」
転移魔法で置いてけぼりを食らったことを根に持つローズ。
「ご、ごめんてば」
「それとも私もいつまでも気にしてやろうか?」
「だから、ごめんてば。それに捨てて行ったんじゃないから」
「な、人がいつまでも気にしていると、他の人はそう思うものなのだ。きっと、その記録を残したのも、マーギンを悲しませようとしたわけではないと思う。だから、そんな顔をしていると、そんなつもりではなかったと謝られてしまうな」
「それも良くないね」
「だろ?」
「ローズ、ありがとう……ぶっ」
今までこっちを向かなかったマーギンがローズの方を向いてお礼を言ったと思ったら、バッと前を向いた。
「どうした?」
「いや、あの……」
「ん? 言いたいことがあるならハッキリ言え」
「その……パジャマというか、ネグリジェというか……見てはいけないような姿だったもので」
急遽泊まることになったローズは、カタリーナの使用人が用意してくれたネグリジェを着ているのだ。
「これか? このような就寝用の服姿を見られると恥ずかしいものだな。宿舎では着ることのない服だ」
なぜかマーギンの横でも恥ずかしがらないローズ。
「見られても平気なの?」
ネグリジェとはそういうものなのか? と疑問に思うマーギン。
「これだけ暗いと平気だ。私もこの距離でマーギンの顔がうっすらと分かるぐらいだからな」
「ごめん……」
「何を謝る?」
「俺、暗闇でも昼間みたいに見えてるんだよ……」
「えっ、見えてる……だと? わ、私の今の姿がか?」
「うん」
と、返事をすると、バッと胸元を手で隠し、カーっと赤くなっていくローズ。
「みっ、見てない」
「嘘つけっ。慌てて横を向いたではないか」
「だからちょとだけしか……」
「この馬鹿者っ、馬鹿者っ!」
片手で胸を隠し、片手でポカポカするローズ。
「だからちょっとだけだって!」
夜中に大きな声で言い合いをするマーギンとローズ。扉の前で護衛をしているものにもその声は聞こえた。
「何騒いでんの?」
と、カタリーナも起きてしまった。
「姫様、お隠し下さい」
「何を?」
「ガウンを、ガウンを着てください」
「えー、部屋は暖かいじゃない」
「そういう意味ではありません。マーギンに見られます。やつは魔法を使って見ているのですっ!」
「マーギン、ローズのことを見たの?」
「見てません。ちょっとしか……」
ローズにガウンを着せられたカタリーナがマーギンの前に立って、問い詰める。
「マーギンっ!」
「は、はひっ」
「じゃーん、どう?」
ガウンの前をバッと開いてマーギンに見せるカタリーナ。さすが王妃の血を引く娘。
「何が?」
マーギンは暗視魔法を解除している。
「もうっ! そこは、「ばっ、バカ。やめろっ!」とか慌てたりするもんじゃないの?」
「もううっすらとしか見えてないぞ」
「魔法解除しちゃったの?」
「当たり前だろ」
「見て。魔法使ってちゃんと見て」
もう一度、じゃーんをするから見ろと言うカタリーナ。
「なんでだよっ」
「それで、「ばっ、バカやめろ」をやって」
「しません」
「ローズにはやったんでしょ?」
「しようと思ってしたんじゃない」
「姫様っ、私はして欲しかったわけじゃありませんっ!」
「でもローズとやったんでしょ。やって、私にもやって!」
微妙に言い間違えるカタリーナ。
扉の前にいる護衛騎士達に微かに聞こえてくる部屋の中の会話。
「聞こえない」
「は?」
「何も聞こえてはいない」
「え?」
「もしお前に何か聞こえていたなら、職どころか命までなくなるぞ。この意味は分かるな」
「は、はい」
こうして、いつもより騒がしいカタリーナの私室は夜明けを迎えるのであった。
結局、じゃーん、どう? をできなかったカタリーナはむくれたまま、マーギンが作った朝ごはんを食べている。マーギンはカタリーナ用に作られた王宮飯を食べている。
「お前、こっちの飯の方が旨いじゃないか」
「私はマーギンに作ってもらいたいの」
「なんでだよ。せっかく作ってくれてるのに」
朝食を食べ終わり、王妃の元へ向かう。金庫のお礼と中身の報告をしないとダメなのだ。
「マーギンさん、昨日はカタリーナの部屋にお泊りになられましたのね」
「はい。金庫の中身の確認などもありましたので」
「そうですか。一応、口止めはしましたけれど」
と、王妃に言われてハッとするマーギン。テントで一緒に寝たり、自分の家に泊まったりするのが当たり前になってきていたが、相手は姫。王宮の私室に泊まるというのはマズかったのではと今更気付く。
「あ、あの……」
「私は別に構いませんわよ」
と、クスクスと笑われる。
「迂闊なことをして、申し訳ございません」
「今更ですわよ」
「そ、そうですね……」
マーギンは気まずさから、パスワードのお礼を言う前に、中身の話をする。
「医学書ですか」
「はい。知り合いの医者のところで翻訳します。その本は提供しますので、国のためにお使いください。ただ、内容が本当に正しいかどうかは分かりませんので、参考ということになりますが」
「それでも大変ありがたいことですわ。医学の研究には莫大な費用と時間が必要ですもの」
翻訳された医学書は国で買い取ると言われたが、そのお金は、国民が医療を受けられる費用に使ってくれと断った。ソフィアも俺が売るために残してくれたわけじゃないだろうからな。
それからマーギンは真面目な顔をして王妃に質問をした。
「王妃様、魔物を倒せる効果的な武器を作ったらどうなると思いますか?」
「剣や弓矢とかではなく、魔道具でということですわね?」
「はい」
「戦争に使われますわね。ノウブシルクの魔導砲がそうなのでしょ?」
「はい」
「でも必要だとも思われているから、そのような質問をなさるのね?」
「いずれチューマンと生存を掛けた戦いになります。それは魔王との戦いより先になるかもしれませんし、あとになるかもしれませんが、今の人類には分が悪すぎるんです」
「人は強欲ですからね。この国だけのことなら戦争に使わないとお約束できます。しかし、未来までそのお約束が続くとは断言できません」
「やっぱりそうですよね……」
「ですから、マーギンさんの思うようにおやりになってください。人類が生き残るのか、チューマンが生き残るのか、それは神のみぞ知るということですわ。滅びるときは滅びるなりの理由があると思いますわよ」
「その原因が自分なのかもと思うと……」
「あら、人類はすでに滅んでしまったのかしら?」
「えっ?」
「人類はこうしてまだ生き残ってますわ。これもマーギンさんのおかげですわね」
と、王妃は微笑む。
「ありがとうございます。他に何かいい方法がないか考えてみます」
マーギンは兵器以外の方法がないか、ミスティの残した魔物研究資料にヒントを探してみようと思うのであった。
「マーギン、今日は何日じゃ?」
「ん、なんだよ唐突に? 6月30日だろ」
「そうじゃ。なにか忘れてはおらぬか?」
はて? 俺が召喚された日でもないし……
「お前の誕生日だっけ? ていうか、お前の誕生日なんか歴史に埋もれるぐらい昔だろ?」
「誰が歴史に埋もれてるのじゃっ。それに私の誕生日ではない。もっと大切なことじゃ」
「あっ、ローズの誕生日か?」
ゲシゲシゲシ。
小さな足で蹴られるマーギン。
「なぜ、ローズの誕生日が私の誕生日より大切なのじゃ」
「当たり前じゃん。だってお前はこれだろ」
マーギンは胸の前でストンと手を下ろす。
ゲシゲシゲシ。
「そんな下らんことはどうでもいいっ。もっと大切なことじゃ」
「なんだよ、もったいぶらずにさっさと言えよ」
「6月30日は、私の物語が書籍となって、発売される日なのじゃ!」
ふふんと、ない胸を反らすミスティ。
「お前の場合、「大賢者になれなかった残念賢者」じゃん。タイトルが違うぞ」
ムカッ。
「貴様というやつはっ、貴様というやつはっ!」
グーパンチをお見舞いしてくるミスティの頭を手で押さえると、ぐるぐる腕を振り回すだけで空振りし続ける。おもちゃみたいだ。
「発売になるのは「伝説に残らなかった大賢者」だ。つまり、俺の物語だな」
「なんじゃと? この私を差し置いてマーギンのくせに生意気な……」
「ちなみに、表紙は俺とローズとアイリスだ」
「私は、私は載っておらんのか?」
「載ってるかもしれんけど、ちっこくて見えねんじゃね?」
いらぬことを連発したマーギンは死ぬほど殴られた。まぁ、こいつに殴られてもなんともないんだが。
「貴様の物語なぞ、書籍化するとは素頓狂な会社があったもんじや」
「お前は絵本の方が向いてるもんな。「ミスティを探せ」とかいいんじゃね? 虫眼鏡付きで売ればいいと思うぞ」
「そこまで小さくないわーーっ!」
「いつまでふざけてんだ? 告知するのに出てきてきたんだろ?」
「貴様というやつは……」
弄ばれるミスティ。
「拗ねてないで、こっちに来い」
マーギンはミスティの手を引っ張って、隣に並ばせた。
「えー、いつも「伝説にならなかった大賢者」をお読み頂きまして、誠にありがとうございます。この度、書籍として6月30日に発売されます」
「ちゃんと、コミカライズすることも言わんか」
「うるさいな。今から言おうとしてたんだよ」
「早く言え」
「えー、コミカライズも進行中です。発売日はまだ決まっておりませんが、年内には出たらいいなと思ってます」
「コミックに私の出番はあるのじゃろうな?」
「さあ?」
「きっさまぁぁっ!」
「しょうがないだろ。お前が生きてるか死んでるか、石化されたままなのか分からんからだろうが。いい加減、本当はどうなのか分からないと、初めからなかったことにされるぞ」
「マジか?」
「マジで。こいついらなくね? ってなり始めてんだからな」
「なんとかせぬかーーっ!」
「だったら早くでてこいよ、もしくは遺書かなんか書いて、俺に見つけさせろ」
「それは秘密じゃ。いい女に秘密は付き物なのじゃからな」
「お前、女じゃなくて、女児じゃん」
「誰が女児じゃーーっ!」
「ふざけてないで、お前からもちゃんとお願いしとけ」
面白いように弄ばれるミスティ。
「ぐぬぬぬぬぬ。皆様、買うのじゃ。そうせねば私がどうなったか、分からぬままに終わるやもしれぬぞ」
ビシッ。
「あうっ」
デコピンを食らうミスティ。
「読者を脅すな」
「だって、本当のことじゃろうが」
「それでもだ。えー、お見苦しいところをお見せ致しました。6月30日から書籍が店頭に並びます。ネット通販でも買えますので、ぜひお買い求め下さいませ」
「買わぬと、パラライズをお見舞いするぞ」
ゴン。
「やめろ。 お前は消されんように祈っとけ」
「ぐぬぬぬぬ」
「ほら、お前もちゃんと挨拶しろ」
「「6月30日発売です。どうぞ宜しくお願いします」」




