執念が実るとき
カタリーナがマーロックに釣りに連れてってもらい、もういいだろ? というぐらいの数のカサゴと大きなハタを釣り、他のやつらがタコとアワビ、サザエ、ロブスター、ウナギ、アナゴをとってくれた。
「親分、まだ必要ですか?」
「いや、十分だ。ありがとうな。お礼に今日はカニ尽くしにしようか」
カニを大量に持っているマーギン。元海賊達とカニをメインにバーベキュー。こっちでは手にはいらないものだからな。
「マーギン、タコはどうして食べるんだ?」
マーロック達は焼いたり茹でたりがメインらしい。
「タコ焼きかアヒージョ、唐揚げかな」
「ねぇ、マーギン。ちょっと作ってみてくれないかしら」
シシリーにねだられて作ることに。
「この鉄板は特注?」
「そうだぞ。こっちの鍛冶屋でも作れるんじゃないか?」
と、タコ焼きの生地の作り方とかを教えながら焼いていく。今回作るのは2種類。普通のタコ焼きと明石焼き。女性陣にはこっちの方が好きかもしれない。
「はいどうぞ。これはソースかポン酢で食べてくれ。マヨはお好みで」
「こっちは?」
「こっちは出汁で食べるんだよ」
そして食べ比べてみて、シシリーとローズは明石焼きに軍配を。他の人はソースマヨだ。マーロックはポン酢マヨ。
「もっと食べたい」
と、カタリーナが言うので、ノーマルタコ焼きに、ほぐした蟹身を追加して焼いてやる。カニカマじゃなく、本当のカニを入れるとは贅沢なタコ焼きだ。
「あっ、こっちのほうがずっと美味しい」
「カニの身を追加したからな」
アヒージョもできてるので、それも食べつつみんなで飲む。
「おっ、これ旨ぇ。マーギンも試してみろよ」
バネッサはカザフ達とタコ焼きを色々な食べ方をして、どれが一番旨いか競争しているようだ。
「何をつけて食べたんだ?」
「タコ焼きをアヒージョに入れたんだ。ほらよ」
と、口に入れてくれる。
「熱っちぃぃぃっ!」
てっきり冷ましてくれてるのかと思ったら、外も中も死ぬほど熱かった。
「こんなクソ熱いもん、食わすな」
「なんだよ、うちにフーフーして欲しかったのかよ?」
そういう意味ではない。
「自分で食う」
そして改めてタコ焼きのアヒージョを食うとめっちゃ旨い。
「旨いなこれ……」
タコ焼きの生地がアヒージョのオイルを吸って、格段に旨くなってる。ソースとポン酢マヨに勝る食べ方があるとは驚きだ。
「どうだ。旨ぇだろ。うちが発見したんだぜ」
「おぉ、これ旨いわ」
そう言うと、へへへっと嬉しそうな顔をした。
「マーギンさん、これも食べてみてください」
と、アイリスがフーフーしてから食べさせてくれる。
「不味い」
「えーっ。美味しいじゃないですか」
なぜタコ焼きにハチミツを掛けるのだ?
「飯関係に甘いのが掛かってるの苦手なんだよ」
「マーギン、バネッサよりこっちの方が旨ぇぜ」
と、タジキがフーフーして食べさせてくれる。俺は子供か?
ジュルん。
「熱っちぃぃ」
中からあちあちチーズが口の中に絡みつく。
ゴッゴッゴッ。
慌てて焼酎のレモンソーダ割りを飲む。
「どうだ?」
「熱いとしか分からんわ。自分で食うから皿にのせてくれ」
3つほどのせてもらい、あちあちほふほふしながら食べる。
「うん、オーソドックスに旨いな」
「どういう意味?」
「まぁ、想像した通りの味だ」
「バネッサのとどっちが旨い?」
「俺はバネッサの方が旨かった」
そう答えると、クソっと悔しがるタジキ。
「好みはそれぞれだからな。アイリスとカタリーナはタジキのやつの方が好きなんじゃないか?」
「でもさぁ……」
タジキはマーギンが旨いというものを作りたいのだ。
「しょうがないな。俺が好きなソースの作り方を教えてやる」
マーギンは唐辛子と酢、ニンニク少々と砂糖でスイートチリソースを作っていく。くつくつ煮て、とろみが付いたら完成だ。
「でな、タコ焼きの上にチーズを削ってのせて炙る。そこにこのソースを掛けて完成だ。うん、我ながら旨い」
「どれどれ……あっ、中に入れるより旨い」
「それは好みだな。これはタコ焼きだけじゃなくて、焼鳥とかでも旨いんだぞ」
「マジで? やってみる」
と、鶏肉を串に刺して焼き出した。俺の分も焼いてくれと頼む。
「おー、本当だ。旨い」
焼けたものをタジキ達と食べる。
じーー。
「ほら、他の人も欲しそうだからドンドン焼いてけ」
マーギンはスイートチリソースを追加で作る。余ったらエビチリ作るときに使おう。
「マーギン、この甘辛いソースは他にも使えるの?」
「使えるぞ。生春巻きとかに使うことが多いんじゃないか?」
と、生春巻きの説明をする。
「ただ、この皮の作り方を知らないんだよ。米粉からできてるはずなんだけどね」
「米粉だけ?」
「どうだろうなぁ。芋のデンプンとか入ってるかもしれん。蒸して、乾燥させて、使うときに水で濡らして戻すんだよ。米は長い方の米だと思う」
「あー、あのナムの焼きそばと同じ感じかしら?」
「かもしれない。興味があるなら誰かに試してもらったら? できたら俺も食べたい」
と、丸投げしておいた。あとはエビチリを教えておく。次来たときにタイベ飯が増えてるかもしれん。
こうして、タイベでの気分転換を終え、翌日アニカディア号でライオネルに送ってもらったのだった。
王都に戻る前にライオネルで魚を仕入れることに。手持ちの食材をノウブシルク兵に食べさせていたので、ストックがほとんど残ってないのだ。
「よおっ、なんか買える魚ある?」
「あ、マーギンさん」
倉庫兼競り市の横は食堂街が完成しており、賑やかになっていた。
「ハンナリー商会とは別の仕入れですか?」
「いや、仕入れというか個人用だ」
「じゃあ、好きなのを持っていってください」
倉庫に案内され、どれでもどうぞと言われる。
「おっ、いいサワラ入ってんじゃん。これと……」
と、色々な種類の魚と魚卵をもらう。お金はちゃんと払った。
「ちょっと相談していいですか?」
「なんか問題あるのか?」
「新しい商会がマグロとカニを売れとしつこいんですよ。それと売値が高くなるものとか」
「ふーん。ハンナリー商会がいいと言えばいいんじゃないか?」
「一応許可はもらったんですけど、値段を下げろとしつこいんです。あるだけ買ってやるから負けろと上から目線で言ってくるし。値段を下げてまで売ることはないと言ったら、そりゃあもうえらい剣幕で」
「まぁ、ハンナリー商会は投資をしたのと、全部仕入れるというリスクを被ってるからこそ安く仕入れられるんだけどな」
「そうなんですよ」
「ま、商売は売る側と買う側の条件が合わないと成立しないからな。売りたくなければ売らなくていいと思うぞ。ここに登録してない漁師もいるんだから、仕入れ先は他にもあるだろ」
「そうですね。次からはきっぱり断ります」
これからもこういうのが増えていくんだろうな。
飯は新しくできた店で食べるか聞いたところ、地引網漁師の奥様達の店を希望する大隊長。今回は王妃がいないので心置きなく食べたいらしい。
そして、皆で天ぷらをモリモリ食べ、翌日、トナーレに移動してソーセージをモリモリ食べてから、王都に戻ったのだった。
「マーギン、明日、陛下に報告するから城に来てくれ」
「了解です」
こうして、大隊長達は貴族街へと戻っていった。
はぁ、疲れた。今夜はようやく1人でゆっくり寝られるわ、と思っていたらアイリスとバネッサが宿舎に戻らない。
「もしかして泊まるつもりか?」
「はい。お風呂に入りたいです」
「うちも」
まぁ、3人ならソファで寝れるからいいか。
先にバネッサに入らせ、ビシャビシャの髪の毛を乾かしてやってる間にアイリスが風呂にはいる。
「なぁ、マーギン」
「なんだ?」
「ゴルドバーンはあのままほっとくのか?」
「バネッサも気になってんのか?」
「当たりめぇだろ」
「魔物かチューマンだけなら、なんとかできるかもしれんけどな。戦争が絡んでるだろ? いくら魔物を倒せる力があっても、国が動かないとどうしようもないな」
「それでもよぉ」
「なら、バネッサが俺に人を殺せと頼め。初めに攻め込んだノウブシルクを滅ぼしてきてやる。それで解決するだろ」
「だ、誰もマーギンに人を殺してくれとか言ってねぇだろうが」
「俺が解決できるとしたらその方法しかないぞ」
そう言うとバネッサは黙ってしまったのだった。
アイリスが風呂から出てきたので、代わりに入る。
「はぁ、生き返るわ」
湯船の中でゴキゴキと首を鳴らして、背中を伸ばしてストレッチ。
「うわぁぁぁっ。お前ら、来るなら入り口から入ってこい」
んー、とそっくり返るように伸びをしたら、カザフ達が立っていたのだ。
「気配絶ち完璧だったー?」
「家でそんなに気を張ってるわけじゃないからな。お前ら、バネッサとアイリスが風呂に入ってるときに覗いてたんじゃないだろうな?」
「そっ、そっ、そんなことするかよっ」
「本当かぁ?」
「してねぇって」
カザフ達は入り口から入って、アイリスに俺が風呂に入ってると聞いて、こそっと風呂場に潜入してきたようだ。
もうこいつらもデカくなってきたから、4人で湯船に入るのは厳しい。3人が順番に身体を洗ってから、湯船に入って出ていく。
「お前らも泊まるのか?」
「明日休みでいいって言われたから、引き返してきたんだよ」
と、いうことで、アイリスが俺のベッド、カザフ達は自分のベッド。バネッサがソファで、マーギンは床にマットレスを敷いて寝ることになった。
「マーギンさん、一緒に寝ます?」
「寝ません」
アイリスは気を遣ってベッドで寝ますか? と聞いてきたが、自分もベッドで寝るのを譲らないので、一緒にとなったようだ。
最後のタイベで息抜きができたとはいえ、みんな疲れが溜まっているだろうから、酒もなしで寝ることにした。
カチャ。
「開いたーーーっ!」
シュベタイン城にカタリーナの叫び声が響き渡ったことを知らずにマーギンは爆睡したのであった。




