ストレス発散
ノウブシルク兵を見送ったあと、転移魔法でタイベの魔カイコ養蚕をする村へ。
村人達の様子と魔桑木を植林したところを確認する。ゴルドバーンから移住してきた人達とも上手くやれているようで一安心。この調子だと、当初より早く商品ができるようになるだろう。
その日は村で一泊して睡眠不足を補い、領都へと移動したのであった。
「マーギン、お帰りなさい。あの村は順調にいきそうよ」
と、シシリーが報告してくる。
「みたいだね。ここに来る前に立ち寄ってきたんだよ。ありがとうな」
「お礼なんていいわよ。そのうちあの村は莫大な利益を生む村になるから」
と、笑ってくれた。
「マーギン、新作の天ぷら食べてみてくれよ」
と、子供達も寄ってくる。
「おっ、旨い。チーズを入れたのか。売れてるだろこれ」
「うん。でも酒飲む人にはこっちの方が売れるんだ」
と、次のを食べると刻んだタコが入っていた。
「よく工夫してるな。持って帰りたいから、たくさん作ってくれないか?」
「はーい。お買い上げありがとうございます」
よくできた子供達だ。王都に戻ったらオデンを作ろう。
「マーギン。他にはなんか必要なものはあるか?」
マーロックが2〜3日滞在するなら、海の幸を捕ってきてくれるらしい。
「なら、タコがいいな。アワビとかもとれる?」
「とれるぞ。他にも適当に集めといてやる」
その夜は子供達が作ってくれるすり身の天ぷらと焼酎で宴会。醤油に砂糖を足した少し甘い醤油か、生姜醤油でいただく。これは酒が進む。キビナゴの刺し身も欲しいところだ。
「マーギン、これは王都で売ってるか?」
大隊長は生姜醤油で食べる天ぷらと焼酎の組み合わせがお気に入り。
「売ってないよ。ライオネルなら作れるかな。王都で作るとなると、高くなりすぎて売れないと思うよ」
「これはいくらだ?」
と子供に聞く大隊長。
「1つ100Gだよ」
「なら、高くなっても500Gぐらいだろ」
「あのですね、1つ500Gのものをポンポンと買える庶民なんていないんですよ」
「貴族なら買うのではないか?」
「貴族街で売るならもっと取りますよ。というか、こういうものは港街で気軽に食べるものなんです。他の街に行く楽しみってやつですよ」
そう答えると、そういう楽しみは残しておかんとダメかと納得した。
「ん? どうしたカタリーナ」
いつもなら騒がしいカタリーナが大人しい。
「ううん。山を越えただけで、ぜんぜん違う世界になるんだなって思っただけ」
ゴルドバーンのことを引きずってるのか。
「そうだ。ところ変わればってやつだ」
「なんかあったのかしら?」
と、シシリーが心配する。
「大陸の北にノウブシルクって大国があって、その南にウエサンプトン、またその南にゴルドバーンがある。ウエサンプトンはノウブシルクに攻められて、属国になった。で、次はゴルドバーンと戦争中だ。その影響で街に活気はないし、食糧も不足している。俺達はそれを見てきたんだ」
「そうなの……なら、孤児も増えるわね」
「だろうな」
知らなければ心も痛まない。が、カタリーナは知ってしまったのだ。
「お前が気に病んでも、世界は幸せにならない。でも気にするなと言っても気になるのは仕方がない。だから、お前は見えるところだけ頑張ればいい」
マーギンは自分にも言い聞かせるようにカタリーナにそう言った。
「うん」
「今はこの天ぷらを楽しめ。せっかく作ってくれた子供達も心配するだろ?」
「分かった。そうする」
カザフ達とバネッサはあまり気にしていない。自分達も厳しい世界を生き抜いてきたからだ。生きようと、もがかねば死ぬ。それを身を以て知っている者と知らなかった者の違い。ミスティも俺を見て、知らなかった者だと思っていたのだろう。
「姫様、このチーズが入ったものは本当に美味しいですね」
ローズがカタリーナの気分を盛り上げようとする。
「マーギン、私にもその酒をくれないか」
「護衛だから飲まないんじゃなかったの?」
「ここは危険か?」
「いや、心配なら孤児院にプロテクション掛けとくけど」
「では頼む」
「じゃ、水割りでいいかな?」
「それでいいぞ。というか、酒だけくれれば自分で氷も水もだせるから大丈夫だ」
と言うので、焼酎のボトルを置いておく。好きに飲みたまへ。
「じゃあ、私も久しぶりに飲もうかな。マーロック、私にもちょうだい」
シシリーはいつも飲むふりをしてほとんど飲まない。勧められてもそれとなく相手に勧め返して、相手に気付かれないように自分は飲まないのだ。
「マーギン、うちは甘い酒がいい」
バネッサはいつものように甘めを要求。
「天ぷらに合わんだろ?」
「なら、他になんか作ってくれよ」
「えーっ……」
嫌そうな顔をすると、オスクリタを持つバネッサ。お前はベローチェか。
簡単にできるものでいいか。燻したジャーキーを刻んで、チーズも加えてオムレツを作る。
「ほらよ」
「おっ、フワフワで旨ぇ」
「私もそれ食べたい」
カタリーナ参戦。アイリスも食うと言うだろうから、多めに作る。
じーーっ。
フワフワオムレツを見つめる孤児達。
そして、マーギンはオムレツマシーンと化す。
「タジキ、交代しろ」
「こんなにフワフワにできないから嫌だ。絶対みんなマーギンのしか食べないんだから」
くそっ。こんなことになるなら、カチカチオムレツにしてやるんだった。
「マーギン、俺のは焼き肉ソースを掛けてくれ」
「そんなことをしたら、全部焼き肉のタレ味になるでしょうが」
そんなに好きなら焼き肉のタレを飲め。
と思いつつ、口の中が焼き肉のタレの準備を始めたマーギン。
「くそっ」
今から焼き肉は重い。しかし、口の中は焼き肉のタレ味を求めている。
マーギンはオムレツを作り終えたあと、フライパンに焼き肉のタレを投入。
じゅわわわわっ。
タレがグツグツと泡を立てているところにおにぎりをのせ、まんべんなくタレを絡めて香ばしく焼く。
「はい。シメの焼き肉のタレおにぎり」
先に大隊長に渡して、自分も食べようとすると。
じーー。
「お前ら、さんざんオムレツ食っただろうが」
「一口くれよ。そんな匂いさせたら、食いたくなるだろが」
と、バネッサに齧られる。
子供達も食いたそうだが、すでにお腹いっぱいのようで悔しそうな顔をしていた。お前ら、肉巻きも売ってるんじゃなかったのか?
齧られたおにぎりはバネッサに譲り、再び焼く。
「マーギン、いつもいつも、バネッサだけズルいではないか。私も一口もらう」
「ローズ、酔ってる?」
「酔ってない」
嘘つけ。
ローズがマーギンの持つおにぎりをパクンと食べる。
「ふふふ」
笑い出すローズ。
「どうした?」
「旨いな」
「そりゃ良かったね。全部食べる?」
「食べる」
と、答えたローズはマーギンが持ったままのおにぎりを平らげた。
2回焼き肉のタレおにぎりを焼いたことで、口の中が満足してしまった。というか、もう焼くのが面倒臭い。
「ふんふふんふん♪」
鼻歌を歌いながら焼酎のお代わりを作るローズ。濃いぞそれ。
「姫様、飲みましょう」
そんな濃いのをカタリーナに飲ませるな。
「カタリーナ、それ飲むな。うぇぇするぞ、違うのを作ってやるから」
飲みやすいサングリアを作ってやることに。バネッサも飲むというだろうから多めに作るか。
できたサングリアを炭酸で割って、アルコール濃度を下げて渡す。
「美味しい」
と、カタリーナはアイリスと飲み始めた。
「ほどほどにしとけよ。酔っぱらいを子供に見せるのはよくないからな」
「マーギン、酔っぱらいなんか毎日見てるぜ」
やはりたくましい子供達だ。
「ノクス、飲め」
自分の作った酒をカタリーナが飲んでくれなかったローズは弟に絡む。
「ロー姉、悪い酒になってるぞ」
「うるさい。弟のクセに逆らうな」
「ローズ、酒は無理やり飲ませるもんじゃない。パワハラ上司みたいになってるぞ」
「なら、マーギンが飲んでくれればいいじゃないか」
しょうがないなまったく。
マーギンはローズの作った酒を飲む。
「私も一緒に飲もう。かんぱーい」
なんか、うふふと笑いながら飲むローズ。まぁ、こういうのも悪くない。
おつまみに、オムレツに使ったジャーキーを齧る。こういうのは濃い目の酒に合うのだ。
「俺にもくれ」
と、大隊長参戦。
「大隊長、2人で楽しく飲んでるのを邪魔するのは不粋ですよ。ねー、マーギン」
と、腕を組んでくるローズ。
「気にするな」
と、笑う大隊長。そして、濃い目の酒グループができてしまう。
「私も加わろうかな」
と、シシリー参戦。もちろんマーロック付き。
「シシリーが飲むの珍しいな」
「そう? レストランとかでも飲んでたでしょ?」
「ほとんど俺に飲ませてただろ?」
「あら、バレてたの?」
「一流の遊女は人前で酒飲まないからな」
「タバサ姉さんもそうだったからねぇ。お酒は飲ませるものって教えられたの。でももう遊女じゃないから、いいかなって」
「そうだな。なら、飲め」
「うん♪」
そう返事をして笑うシシリー。
「うちにもくれよ」
そして、バネッサも参戦。
「向こうで飲んでたんじゃないのか?」
「しょっぱいものが食いたくなったんだよ」
「こっちはきつい酒しかないぞ」
「それでいい」
マーギンの隣に座って飲むバネッサ。
じーー。
シシリーとバネッサを見比べたローズ。
「マーギン」
「なに?」
「やっぱり胸か?」
「何が?」
「マーギンは胸で女を選んでいるのか?」
「は?」
「私もそれなりにあるのだが……」
と、服をたくしあげようとする。止めなさい。
「マーギンはうちを乳として認識してんのかよ?」
と、バネッサも絡んでくる。こいつも酔ってやがるな。
「乳として認識ってなんだよ?」
「だから、うちを乳として見てんのかってんだよ」
もうわけが分からん。
「お前ら、悪い酒になってんぞ。子供達の教育に悪いだろうが」
「子供達はもう寝かせたわよぉ。もう大人の時間だから好きにすればいいわ」
ローズとバネッサを見てクスクスと笑うシシリー。
「マーロック、なんとかしてくれよ」
「飲ませるからだ」
なんて冷たいやつだ。
「大隊長……」
「ん? 緊張しっぱなしの日々が続いてたのだ。付き合ってやれ。それにお前もたまには酔うほど飲んでもいいのではないか?」
「そうだぞテメー。うちはお前が酔ったところを見たことがねぇ。たまには酔えってんだ」
「そうだ。私の酒を飲め」
「うちのも飲め」
最悪だ。こんなことなら、先に酔うべきだった。
マーギンは飲まされても、あまり酔わず。2人が潰れるまで絡み続けられるのであった。




