参戦
村人達に移住の準備をしてもらう。移住まで3日間しかないので急ピッチで進めてもらうことに。マーギンは養蚕工場から持っていかないとダメなものを選んでもらう。
「向こうで作れるものは作るけど、何が必要なんだ?」
「この機械は持っていきたいです」
女性達が言うのは糸を紡ぐ機械だ。
それをアイテムボックスにしまっていくと目を丸くされたが、詮索するなと言っておく。繭を茹でる釜とかも持っていった方がいいか。
工程を説明してくれるけど、よく分からなかったので、言われるがままに機械や道具を収納していった。
「これ、結構臭うけど何が入ってんの?」
積み上げられた麻袋から、肥料というかなんというか、いい臭いでないものがたくさんある。
「それは、魔蛾のサナギを粉にしたものです」
「もしかして食べるのか?」
と、驚くと、違いますよと笑われる。
「魔桑木の肥料にするんです。それと魚を釣るためにも使いますよ」
なるほど、魚粉みたいなものか。魚はどうやって釣るんだろうか?
「魚はどうやって釣るんだ?」
「それを泥と混ぜて、池に投げ込むと小魚が寄ってくるんですよ。それを釣って食べたり、その小魚を釣って、それを餌にして大きな魚を釣るんです」
撒き餌みたいにして使うのか。
マーギンが興味を示すと、試してみますか? と聞かれたので、池に連れていってもらうことに。池と言うより湖に近いくらいの大きさだ。
「あ、マーギンさんも釣りをされますか?」
すでに数人の男が釣りに来ていた。どうやら、ここを離れる前日に宴会をしたいらしく、宴会で食べる大型魚を釣って準備をしているとのこと。カタリーナを連れてきてやったら喜びそうだな。
フナみたいな魚を釣り、それを泳がせていく。浮き代わりの木に糸を括り付けて待つようだ。
「マーギンさん、あの木を見ててください」
と、言われた木を見るとくるっと、回り始めた。
ぐるぐる。
そして勢いよく回りだす木。
「掛かりましたよ」
小舟に乗って、その木を掴んで引っ張ると、大きなナマズが掛かっていた。岸に引き上げられたナマズを濡れた藁で包み、他の男達が村に運んでいく。
「村の井戸水で活かして、泥を吐き出させてから食べるんですよ」
「へぇ、手間が掛かるね」
「そうすることで、泥臭いのが少しマシになるんです」
そして次々に釣れてくるナマズやライギョ達。他には鯉みたいな大型魚。
「うわ、何この魚?」
他の人が船で運んできたのは、3mほどあるデカい魚。
「ピーラルクアンシェです。これは最高級魚ですよ。宴会当日に釣れてくれれば良かったんですけどね。ギリギリもつかどうか……」
「なら、俺が保存しておいてやるよ。マジックバッグに入れときゃ傷まないから」
そう伝えると、それならと、狙う魚を増やして釣るようだった。
こうして、移住の準備を進め、最終日は朝から宴会の準備。
「家族を亡くした者達も、少し元気を取り戻したようだな」
大隊長がその光景を見て頷く。ワイワイと皆で宴会の準備をしていく村人達。愛する人を亡くして、悲しくないわけではないが、心が傷付いた人々にカタリーナが癒しを与え続けていたのだ。アイリスやローズもそれを手伝っていた。
「そうですね。前を向けるというのはいいことです」
マーギンは自分が言われたことを口にした。
その間、大隊長達はチューマンが出ないか近隣の調査を続けてくれていた。ついでに狩った小型のボアや熊とかを持ち帰っていた。これも宴会の食材になるだろう。
「この魚旨っめぇ」
カザフ達は珍しい魚料理に大はしゃぎ。
「本当だな。淡水魚とは思えんわ」
緑色をしたブラックバスみたいな魚や、マトウダイみたいな魚とか実に魚種が多い。その中でも、ピーラルクアンシェは魚と言うより肉みたいな感じだ。そして、意外なことにライギョを唐辛子と炒めたものが旨い。
「これは酒が進む味だな」
「そうですね。こっちのカエルの唐辛子炒めも旨いですよ」
この料理は村人達のご馳走のようで、これだけ大量にあるのは初めてのこと。いつもは獲りすぎないようにしていたようだが、最後だからと大量に獲ったようだ。
翌日、村人達は自分の荷物を荷車に載せ、マーギンが出した転移魔法陣に恐る恐る入っていく。先行してカタリーナ達に行ってもらい、最後にマーギンとバネッサが入った。
すぐにシャランランを掛けてもらい、元鉱夫達の村へ。
「すっげ、こんなことになってんのかよ?」
バネッサが驚くのも当然だ。前に来たときにはさびれて、離村したほうがいいだろうと思った村に、2階建ての長屋のような集合住宅がたくさん建てられている。人はまだそこまで多くはないが、ハンター達もここを拠点にする者達が増えてきているようだ。
「ハイ、マーギン。食料関係はばっちりよ。しばらく毎日食料が届くから」
シシリーがすでに待っていてくれ、準備をしてくれていた。
「ありがとうな。養蚕の機械類を持ってきてるんだけど、どこに置こうか?」
と、村人達とシシリーで相談してもらい、養蚕工場を作る予定の土地を決めていく。
「まだ、魔桑木が小さいですね。肥料を撒いておきましょう」
と、魔桑木の手入れもすぐに始めてくれる。この調子だと、ここの人達ともすぐに打ち解けていきそうだな。
「シシリー、あとは頼んでいいか?」
「いいわよ。マーギンは忙しいんでしょ?」
「そうだな。本来やらないといけないことがまだ残ってる」
「じゃ、いってらっしゃい。身体に気を付けて頑張ってね」
「ありがとう」
その日の夜はまたもや宴会となり、それが終わった翌朝に、シシリーにあとのことを頼んだのであった。
また転移魔法で、港街に近い街近くに移動してから、港街を目指す。
「たまたまかもしれんが、物流が止まっているようだな」
街道を移動するも人の往来がない。通常、港街と街を繋ぐ街道は往来が多いものだ。季節は冬の終わりといっても、雪は積もってないのにおかしい。
「急ぎましょうか?」
「そうだな」
と、徒歩からダッシュに切り替えて港街を目指した。
「港街が戦場になってんぜ」
先行して偵察に行ってくれていたバネッサから報告が入る。
「どうします? 巻き込まれますよ」
「バネッサ、どんな戦況だ?」
「どっちがどっちか分かんねぇ。ただ、でっけぇ船がたくさんいたぜ」
「ノウブシルクは船で戦力を送りこんだか。おそらく、ビッグワームを討伐した地域も戦場になっているだろう。ゴルドバーンがそっちに戦力を割いたところに港街が狙われたのだな」
ゴルドバーンが疲弊したとみて、ノウブシルクが一気に制圧に乗り出したと推測した。
「た、助けに行かなきゃ」
「カタリーナ。やめとけ。戦地で治癒するとお前が狙われる。そうなると俺達はお前を守るために人を殺さざるをえなくなる」
マーギンがそういうと、悲痛な顔をするカタリーナ。
「そんなに辛そうな顔をするなら、俺が全員を制圧してきてやろうか?」
「えっ?」
「敵味方、兵士、民間人の区別なく、恐怖のどん底に落としてやることはできる。お前が俺に戦争に加担しろと言うなら、協力してやる」
「マ、マーギンを戦争に……」
「お前がそう望むならな。お前は俺が望む聖女になってくれると言った。だから、俺はお前の言うことを聞いてやる。答えろ。戦争に加担して欲しいのかどうかを」
「せ、戦争には加担して欲しくない……でも、助けてあげて欲しいの……」
「なんてわがままな聖女だ。俺はわがままな聖女なんて望んでないぞ」
「ご、ごめんなさい」
「しょうがな……」
バーーン! バンバンバンっ!
そのときに、大きな爆発音が聞こえてきた。
「なんだ今の音はっ?」
「大隊長、多分魔導砲ですよ。ちっ、これで本当に参戦せざるをえなくなったわ。大隊長、あとを頼みます」
「マーギン、何をするつもりだ?」
「魔王ごっこですよ」
と、マーギンは微笑んで、マチョウマントで身を包み、顔を布で隠してプロテクション階段を出して、空へと消えて行ったのだった。




