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伝説に残らなかった大賢者【書籍2巻&コミックス1巻、11月末同時発売予定】  作者: しゅーまつ


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411/553

邪魔だ

森の中を抜けて到着した街はゴルドバーン南部から港街への中継地だった。


「ここ、前に来た街だわ」


「なら、地理は分かるか?」


「前に来たときは覗いたぐらいだからぜんぜん。だけど、活気がなくなってるね」


そう、前に来たときより人の往来が極端に少ない。


「戦地から離れていてもこんなに影響が出ているのだな」


「どこの街も同じなんだろうね。これじゃ、シュベタインに商業船を出すどころじゃないのも頷けるわ」


「そうだな。取り敢えず、ハンター組合に行ってみるか?」


「そうだね。港街のリンマーやピコスとかの情報があるかもしれない」


と、大隊長と行き先を決めて、街中へと進んでいくと、あちこちの軒先に先住民らしき人達が座っている。チューマンの脅威から避難してきたけど、行くあてがないのだろう。


「カタリーナ、ここでは余計なことをすんなよ。収拾が付かなくなる」


「うん……」


治癒より食料が必要だろうけど、全員を食べさせてやれるほど食料は持っていない。


「あの子、泣いてる……」


「見るな」


マーギンも気にはなる。あの子供だけなら、食べられる物をあげてもいいが、そういうわけにはいかないだろう。


と、マーギンも断腸の思いで見ないようにしていると、カザフ達が泣いてる子供のところへ走って行った。


「おい、カザフ」


「ちょっとだけ」


何をするつもりだ?


「お前、腹減ってんのか?」


「うん……お兄ちゃん達誰?」


「俺達は魔物討伐をしてるんだ。腹が減ってるなら、ネズミでも捕まえて食えばいいだろ?」


「ネズミ?」


「ちょっと、あなた達。私の子供に変な物を食べろとか言わないでちょうだい」


と、母親らしき人が、子供を抱き寄せてカザフ達に怒鳴った。


「変? 俺達は毎日ネズミを食ってたぞ。捕まえ方なら教えてやれるけど、食いたくないなら別にいいや」


と、それだけを言って、マーギンの元に戻ってきた。


「マーギン、あいつらまだそこまで追い詰められてないから大丈夫だ」


「そうか。ありがとうな」


さすが元孤児だ。食えるものを選り好みしている間は心配ないってことか。


「ネズミがあちこちにチョロチョロしてたから、ここらにいるやつらは誰も食ってないんだよ。俺達のいた貧民街のネズミは人を見たら、あっという間に逃げるからな」


なるほどな。まだ避難したてで、そこまで追い詰められてない状況か。


カザフ達の言葉を聞いて、少し心が軽くなるマーギン。カザフ達は夜にネズミ捕りしようぜとか楽しそうにしていた。そういやこいつらは貧民街で暮らしてても、悲壮感はなかったからな。


そして、気が付くとバネッサがいない。どこに行ったのかと探すと、さっきの子供のところに何匹かネズミを捕まえて、目の前に置いていた。


「焼けば食える。食うかどうかは自分で決めろ」


それだけを言って戻ってきた。


「さっさと組合に行こうぜ」


「機嫌悪そうだな?」


「誰かの施しを待ってるだけってのが気に食わねぇんだよ。生きたきゃ自分でなんとかしようと思えってんだ」


バネッサも孤児みたいな生活をしていたんだったな。こいつから見たら、あの母子はまだまだ甘いと感じるのだろう。これから今よりいい状況になっていくわけじゃなさそうだしな。


カタリーナは何度も振り返って見ていたが、カザフ達はネズミをどの罠で捕るか、楽しそうに話していた。当たり前の水準が違いすぎるな、このメンバー。


組合に到着すると、先住民らしき男が大きな声でお願いします、お願いしますと叫んでいた。


「なんかあったのか?」


と、バネッサがその男に声を掛ける。


「ハンターさん達ですかっ?」


「そうだけどよ、うちらは他にやることあるから、依頼は受けねぇぞ」


「助けてくださいっ、うちの村が、うちの村が化け物に囲まれているんです」


「化け物って、チューマンか?」


「名前は分かりません。人型の魔物です。腕が4本で、爪が剣のようになってる化け物です」


「マーギン、村がチューマンに襲われてるんだとよ。どうする?」


「ここのハンターは討伐に出てくれないのか? 俺達はここのハンターじゃないんだよ」


「い、依頼金がないのと……化け物相手に無理だと言われました。こうしている間にも村が……妻や子が……」


マーギン達は組合に入らず、男の話を聞くことに。


男の話によると、魔カイコの養蚕をしている村らしく、魔蛾対策で村は塀で囲われているので、なんとか耐えている状況とのこと。領軍かハンターが助けに来てくれると信じて立て籠もっていたが、いつまで経っても誰も来てくれないので、何人かで街に救助を求めて来たらしい。


「他のやつは?」


「殺られました……」


「村には何人ぐらい残ってる?」


「200人ぐらいです」


魔桑木の管理をしていた者、戦おうとした者、そういった者たちが次々に襲われ、避難することもできなくなり、立て籠もっているようだ。


「大隊長、港街より先にチューマンを討伐しに行きたいんだけど」


「構わんぞ」


「了解。ここからどれぐらいの距離だ?」


「徒歩で1日です」


「なら、走れば半日で着くな。今から出るぞ」


「た、助けてくださるんですか……?」


「お前が助けてくれと頼んだんだろ?」


「は、はい。相手は化け物で、剣でも斬れなくて……」


「知ってる」


「え?」


マーギンはそれ以上説明をせずに、男に村までの道案内をさせることに。


門へ向かう途中に、路地で呻く声が聞こえた。


「大丈夫?」


ビクッ。


声を掛けられて警戒する男。


「カタリーナ、先を急ぐと言っただろうが。そいつはほっとけ」


呻いていた男は布でグルグル巻にした足から血が滲んでいる。すでに血が黒くなっている部分もある。止血してから無理矢理動いてまた出血したのだろう。マーギンは何かがおかしいと感じた。


《シャランラン!》


「ったく、ほっとけと言っただろうが」


「だからすぐに戻ってきたじゃない」


「うるさい。勝手なことをすんな」


マーギンに怒られたカタリーナ。怒られるのは分かっていたけど、あのまま放置すれば足を失うかもしれないと思ったのだ。


「ローズも護衛対象を危ないところに近付けさせんな」


「も、申し訳ない」


マーギンはカタリーナだけでなく、ローズにも怒鳴った。



そして、街を出てしばらく進んだあと、


「バネッサ、お前が斥候だ。俺と離れ過ぎないように先行してくれ。俺のうしろにカタリーナとローズにノイエクス。大隊長とアイリスは最後尾を頼みます。カザフ達はそれぞれに付け。今から全力ダッシュする」


「こ、ここから走るんですか。まだまだ距離があります」

 

先住民の男は無理ですよと言う。


「うるさい。お前は俺に乗れ。どうせ付いて来れないだろうからな。俺のうしろから進行方向を教えるだけでいい」


と、マーギンは男をおぶって、ホバー移動をしながら、先行するバネッサとカザフ以外の全員を追い風で包んでスピードを上げたのだった。


村に近いところまで来たときにバネッサが振り返る。マーギンがピッと指を差して合図をすると、そのままシュンッと消えるように村の様子を見に行った。



「マーギン、やべぇ。ウジャウジャいて、村を囲んでやがるぜ」


「そんなに多いのか?」


「村は、村は大丈夫でしたかっ?」


「チューマンが中にまで入ってるかどうかまで確認してねぇけど、時間の問題じゃねーかな」


「そっ、そんな……」


「ローズ、カタリーナ、アイリス、ノイエクスはここで待機。カザフ達は参戦せずにうしろから見学のみ。絶対に参戦するな」


「わ、我々も……」


「だからローズは護衛対象を危険に近付けるなって言っただろうが。こいつもここで待機させるから、チューマンが来たら一緒に逃げろ」


「私は聖女なのよ。一緒に行く」


「邪魔だから来んな」


「邪魔……」


マーギンにきっぱりと邪魔だと言われたカタリーナは泣きそうな顔でそれ以上何も言えなかったのであった。


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― 新着の感想 ―
村レベルでの防衛戦、非戦闘員が大多数… 嫌でも死傷者は出る… 回復無駄打ちしてオロオロする子供はお呼びではないな? (*・ω・)
メンバーの飢えに対する基準が厳しすぎるw お米の価格が上がったくらいで食糧危機のような騒ぎ方してる我々を見てどう思うんだろうな?
カタリーナが、また余計なことをしたんじゃないのかな?
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