ワーム料理
「うげぇぇぇ。口にまで入ったじゃんかよ」
「す、すまない。止まろうと思ったんだが、踏ん張りが効かなかったのだ」
マーギンは自分とローズに洗浄魔法を掛けて、ヌルヌルを綺麗にし終わったあと、ペッペッと唾を吐いていた。鎧を着ているヌルヌルローズに抱きつかれても何も嬉しくない。ただ、気持ち悪くて生臭いだけだ。
「マーギン、まだ出てきてんだぞ。いつまで遊んでるんだ」
どうやら、ここはビッグワームの巣になっているようで、次から次へと出てきている。大隊長とバネッサはそれを討伐しているのだ。
「ごめん」
「こっちは問題ないから、姫様を頼む」
「え?」
と、大隊長に言われて
カタリーナの方を見ると、プロテクションボールが数匹のビッグワームに取り合いされている。まるで、アシカがボールで遊んでいるみたいだ。
「姫様っ!」
ローズが助けに入ろうとした瞬間、
「いやぁぁぁっ!」
ぶしゃっ。
やりやがった。
カタリーナが自分を取り合いしていたビッグワームの頭を、見えない手で握り潰しやがった。同時に握り潰せるとかえげつない能力だな。
「姫様、凄いね」
トルクはカタリーナが何をやったか理解していた。
「お前もあれぐらいできるようになれよ」
「えー、無理じゃないかな? 同時に握り潰せるイメージが湧かない」
俺もだ。
下に落ちたプロテクションボールを大玉転がしのように押してくるローズ。カタリーナはその中でハムスターのように走っていた。
プロテクションを解除する。
「大丈夫か?」
「もうっ、気持ち悪かったじゃない」
自分の手で掴んだわけじゃないのに、ローズで手を拭くカタリーナ。
「ビッグワームに俺のプロテクションを破壊できる力はないけど、下に落ちたときに衝撃があったろ?」
「シャランランしたから平気」
それでこんなに甘い匂いがしてんのか。粘液の生臭さが鼻に付いてたから助かるわ。
マーギンはカタリーナにバレないように、少しスンスンしておいた。
「マーギン、僕はマーギンの何を見てればいいのー?」
そうだな。まだトルクに何も学ばせてない。
「ローズはカタリーナの護衛。ノクスのみで討伐する。アイリスもローズのところに来とけ」
3人を待機させ、ノイエクスに身体強化を掛けたタイミングがトルクに分かるように、魔法を掛けるときに指差し、解除は手を開くと目に見えるようにした。
マーギンに身体強化魔法を掛けられたノクスは自分の力が増したよう感じでビッグワームを倒していく。
「ノクスさん、今日は動けてますね」
と、ノクスの戦いを見ていたアイリスはローズに言う。
「あれはマーギンのサポートの賜物だ。自分で身体強化をしているような感じで動ける」
「へぇ、やっぱりマーギンさんは凄いですねぇ」
「うむ。さすがとしか言いようがない。マーギンと組んで戦うと、自分が数段強くなったと錯覚してしまうぐらいだ」
こうして、大量のビッグワームを討伐して任務が完了した。
「お疲れ様。タジキ、今から解体の仕方を教えてやる」
全てのヌメヌメを酢で洗い流すのではなく、仕上げのヌメヌメを落とすときだけに使う。
「滑らんように頭を剣か何かで刺して固定する。今回は土魔法の大串で固定だ」
マーギンが魔法で作った土の大串を頭に刺して地面に固定した。
「ここから剣を刺して、そのままここまで斬り割いていく。内臓を傷付けると洗うの面倒だから気を付けろよ」
ズバババと斬り裂いて開き、内臓を取り出してポイ。
「で、次はヌメヌメを皮ごと取り除くために身を4分割に分ける」
縦4本の身に分けた。
「皮を剥ぐのに、剣をこうして入れて、身を持ち上げて、そのまま剣を皮に沿って入れていく。魚の皮を剥ぐのと同じだな」
1本をマーギンがやり、残りをタジキやらせる。慣れるまでは結構難しいようで、途中で皮が切れたり、身がたくさん皮に残ったりした。
「くっそー。マーギンみたいに上手くいかないや」
「何回もやりゃ、できるようになる。で、身を水で綺麗に洗って、ヌメヌメが付いてしまったところは酢で取って、また水洗いする」
最後に縦長の身を4、50cm程度に切り分けてやると食材に見えてきた。
「と、こんな感じだ。残ってるやつを何匹か捌いとけ」
「うん」
マーギンは数匹を残して、残りは魔法で解体し、頭や皮はアイリスに燃やしておいてもらう。
「討伐終わったよ」
マーギン達は村長の家に報告に行った。
「ご無事でしたか。良かったです」
「ここ、ビッグワームの巣になってたぞ。27匹討伐した」
「えっ、27匹……ですと?」
「そう。ほとんどのビッグワームを解体したけど、食べる?」
「私達にビッグワームを食えとおっしゃるのですか?」
村長はそんなものを食わせる気か? と、怒ったような顔をする。
「いらないならいいんだけどね。食料不足なら、腹の足しになるかと思っただけ。今回依頼を受けた内容に、ビッグワームの食べ方指南も含まれてんだよ。不要なら全部王都に持っていくわ」
「食べ方指南ですと?」
「そう。ビッグワームは結構旨いんだよ。干せば保存食にもなるしな」
「ほ、本当に食べられるのですか?」
「俺達は今から食べてみる。一緒に食ってみるか?」
と、言うと、信じられませんと言いながらも食べてみることにしたようだ。
下処理したビッグワームの身を見て、これが本当にビッグワームなのかと疑うので、タジキにもう一匹解体させた。
「ほら、同じ身になっただろ?」
「は、はい」
「塩かけて焼くだけでも食べれるんだけど、ちょいと色々作ってみるわ」
タジキに手伝わせながら、バター炒め、天ぷら、チリソース和え、マヨ和え、唐揚を作っていく。
「うっめぇ!」
躊躇せずに食うカザフ達、ローズとノイエクスは戸惑っている。
「うむ、このチリソースのやつが旨いな」
「あまり辛くしてないので、好みでこいつを追加で掛けてください」
大隊長はカイエンペッパーを足して、辛口ワームチリにしていた。
「マヨ和え旨ぇな」
「だろ? 身にクセがないから、こういうのに合うんだよ」
村長も初めて食べるビッグワームの旨さに驚いたが、マーギンの作る料理の味にも感動していた。
「こんなに美味しいものを食べるのは初めてです」
「そりゃ良かった。そんなに珍しい調味料を使ってるわけじゃないから、自分達でも作れるぞ」
こうして、ビッグワームを楽しんだあと、夜の道を王都まで戻るのであった。
王都でもビッグワームの解体から調理まで、組合の食堂で実演していく。
「ビッグワームがこんなに旨くなるなんて知らなかったぜ……」
「傭兵にも行かないなら、ビッグワーム討伐に行けよ」
昼間っから組合の食堂でプラプラしているハンター達にそう言っておく。
「マーギンさん、ありがとうございました。これで少し食料不足もマシになるかもしれません」
受け付けの人からお礼を言われる。
「今回の畑はビッグワームの巣になってた。この地域の通常を知らないから、なんとも言えないけど、異常なんじゃないか?」
「かもしれません。去年、一昨年あたりから魔物の数も増えてますし」
「それでもだよ。一つの畑に一度に30匹近く出るのはおかしいと思うぞ。他に要因があるんじゃないか?」
「多分、戦争の影響だと思われます」
「戦争の影響?」
「はい。あの地域から北側がずっと穀倉地帯なんですけど、ウエサンプトンの穀倉地帯とつながってるんです」
「それで?」
「その穀倉地帯が紛争地になってます。大勢の人間が畑に入ったことで呼び寄せてしまったのではないかと推測しています」
主食の麦畑が戦場になってるのか。
「もしかして、ウエサンプトンから小麦とか輸入してた?」
「はい。ノウブシルクがウエサンプトンに侵攻してから、その輸入がストップして、食料が厳しくなっているんです」
「南側から米は入ってきてないか?」
「南側は化け物が出てて、それもままならない状況なんです」
これ、ゴルドバーンが干上がるのも時間の問題だろうな。
「そうか。早く戦争が終わるといいな」
「はい。このあとどこに向かわれる予定ですか?」
「まだ決めてないけど」
「もし良かったら、海側にも行っていただけると助かります」
「海の魔物は専門外だぞ」
「海の魔物ではなく、猿系の魔物がものすごく増えてるんです。柑橘系の畑が海側にたくさんあるんですけど、大きな被害が出ました。そのあと、魔物の食べるものがなくなって、街にまできてまして」
「リンマー、それともピコス?」
「両方です」
南側にチューマンが出てるから、海側に移動したのか。あいつら人も食うからな。
「分かった。考えておくよ」
「ぜひお願いします」
「大隊長、どうする?」
組合を出たあとに、どこに向かうか相談する。
「海側は見ておかねばならんと思っていたのだ。港がどうなっているのか確認する必要がある」
「ゴルドバーンからの商船が来なかったのは、こんな状況だからじゃない?」
「そうだとは思うが、港がノウブシルクに落とされたら、ゴルドバーンの敗北が確定する。そのまま軍港になって、シュベタインに大船団を送られるやもしれん」
「なるほど。タイベに攻め込まれたら落ちますね」
「そうだ。タイベには軍がないからな」
マーギン達が次に目指すのは、港街に決まったのであった。




