ある意味ご褒美
ビッグワームの討伐地域は王都から北の穀倉地帯。シュベタイン王都の食を支える北の領地みたいな地域だ。
「広いな。こんなところで見つけられるのか?」
大隊長が地中に潜むビッグワームを見つけられるのか懸念する。
「麦踏みのシーズンに出ることが多いんですよ。多分、麦踏みの振動を察知して襲って来るんだと思います」
皆のイメージは、チンアナゴみたいにニョロニョロと顔を出しているような感じだったみたいだ。
「大モグラも探すの面倒だったでしょ?」
「そうだったな。モグラみたいにおびき寄せる餌はないか?」
「餌は自分ですよ。自分達で麦踏みをやりながら、襲われるのを待つしかないですね」
「マーギン、モグラみたいに音が聞こえるかな?」
カザフはモグラが移動する音を聞き分けられた。
「どうだろうな? 俺にはモグラの音も聞こえんかったから、ミミズも音がするかどうか分からん。それにモグラみたいに土がモコモコとすることもない。いきなり地中から飛び出す」
「そんなの避けられんのかよ?」
「バネッサなら、尻のセンサーで分かるかもしれんぞ」
「そんなもん付いてるかっ!」
バネッサが尻を押さえながら怒る。
「ま、冗談はさておき、地中から飛び出してきたときにいきなり食われるわけじゃない。だいたい吹き飛ばされて、コケたところに襲い掛かってくる」
「ということはコケなけりゃ、対処できるんだな?」
「そう。来ると予想してれば慌てることもない」
マーギンはビッグワームがどうやって襲ってくるか詳しく説明する。ヘビのように鎌首をもたげて襲うのではなく、地面を這って口を開けて襲ってくるのだ。その口はロックワームと同じく、ヤツメウナギみたいな口だ。
「口は弱点か?」
「口の中はね。口自体は何本もの歯があるから硬い。倒し方のセオリーは襲ってくるビッグワームを避けて、首を斬るだ。それとアイリス、今回は命の危険性がない限り火魔法は使うな」
「炎の攻撃は効かないんですか?」
「そんなことはないが、今回は食材として狩るからだ。生焼けや丸焦げにしたら食えなくなる。ヌメリの臭いが身にこびりつくんだよ」
「私は何をすればいいですか?」
「餌役だな。吹き飛ばされて、どんくさいことをしてたら食われるぞ」
一番やらかしそうだからな。
「カザフ達は初めに言った通り、見学のみ」
「えーっ」
「えーじゃない。見ることも必要だと言っただろうが。ノクスは俺がサポートをする。アイリスが食われたらお前のせいだからな。気合入れてやれよ」
こうして大隊長とタジキ、バネッサとカザフ、マーギンにはトルクを付けて、アイリスを餌、討伐はノイエクスと担当を決めた。
畑を荒らしていると間違われないように、近くの家を訪ね、町長の家に討伐に来たことを伝えに行くことに。
「異国のハンターですと?」
「そうです。組合に行ったら、誰も依頼を受けないと困ってたみたいですので」
「ありがとうございます、ありがとうございます。もう何人か食われております。このままでは麦踏みもできず、いい麦が育たないのです。自衛しようにも若手の男は戦争に……」
「分かってますよ。ここは国の食料を支えてる地域でしょ? 俺達がなんとかしますよ」
それからも何度も、よろしくお願いしますと、手を握られた。その手はマメだらけの働き者の手をしていた。
「マーギンさん、私が目指したハンターとしての仕事です。頑張りますね」
と、アイリスが言う。アイリスは困っている人を助けられるハンターになりたいと言って、ハンターになった。本当に困っている人を目の当たりにして、気合が入ったのだろう。
「頑張っておびき寄せろよ」
「はいっ!」
お互いが近距離にいると誤誘導する可能性があるので、距離を開けて麦踏みを開始。
「わ、私達は何もしなくていいのか?」
今回、何も役割を与えていないローズが聞いてくる。
「カタリーナを餌にして、ローズも討伐に加わる? ビビって腰を抜かしたらまずいかなと思って、見てるだけにしようと思ってたんだけど」
「だ、誰がビビるかっ。それに姫様を囮にするわけにはいかん。自らがおびき寄せて討伐する」
「その間のカタリーナの護衛はどうすんのさ?」
「そ、それは……」
「ローズ、私のことは気にしないで。自分でプロテクション使って防御できるし」
「し、しかし……」
「なら、カタリーナはじっとしとけ。俺がプロテクションを張っておいてやる」
「自分でも張れるよ?」
「いざというときに魔力切れしたらシャランランできんだろうが。大人しく見てろ」
マーギンはノイエクスとローズを討伐担当にして、同じチームに入れたのだった。
《プロテクション!》
カタリーナをボール状にしたプロテクションに包んでから作戦開始。
アイリスに麦踏みをさせ、ノイエクスとローズを10mほど離して待機させる。ビッグワームはアイリスを狙うはず。しかし、ノイエクスかローズを襲う可能性もあるから、自分が襲われる想定をしておけと伝えた。
そしてしばらく麦踏みをしていると、
ドゴォっ。
初めに襲われたのはバネッサ。
「よっと」
バネッサは下から突き上げられたときに、自らも上に飛び、上空から通常クナイを口の中に目掛けて投げる。
トスッ、トスッ。
そして、クルクルっと回って地面に降り、その場をパッと離れた。
「やったのか?」
カザフがバネッサに聞く。
「見とけと言われたからといっても剣ぐらい構えとけ」
短剣を抜刀しながらカザフに指導する。
ビッグワームはビッタンビッタンと暴れているが、こちらに襲い掛かってくる気配はない。
「死んでねぇが、効いてはいるみてぇだな。しばらくこのまま様子を見る。他にも来るかもしんねぇから、それも警戒しとけよ」
「う、うん」
そうカザフに言いながらも、片時もビッグワームから目を話さないバネッサ。まるで鞘から抜かれた研ぎ澄まされたような剣のような雰囲気に気圧されたカザフは反発することもできなかった。
次に襲われたのは大隊長。
「フンッ!」
吹き飛ばしに来たビッグワームを逆に踏みつける。そして、ヴィコーレの刃先を口に引っ掛けて、引き摺りだした。
「タジキ、斬れ」
「えっ、あ、うん」
タジキが振った剣はヌルんと滑り、致命傷を与えられない。
「叩き斬る力がないなら、獲物に対して真っすぐに剣を当てるように素早く振れ」
「そ、そんなこと言ったって……」
ヴィコーレに引っ掛けられているとはいえ、胴体はビッタンビッタンと暴れていて、狙いが定まらない。
「ならまずは、上段から真っすぐ素早く振り下ろすことだけを考えてやれ。当たらなくても構わん」
タジキはホープから学んだ、基本の剣の振り方を思い出し、当たらなくてもいいと言われたことで、余計な力が抜けた。
「フンッ」
スパッ。
タジキの振った剣はビッグワームの頭の下、つまり首の辺りを斬りつけ、半分ぐらいが斬れて、パクンと傷口が開いた。
「この場を離脱っ!」
大隊長はヴィコーレの刃先を外して、その場を離脱。首を斬られたビッグワームの胴体はその場でビッタンビッタンと暴れ続けるのであった。
「アイリス、構えろ」
マーギンから指示が飛ぶ。アイリスはグッと身体を丸めて衝撃に備えた。
ドゴォっ。
その刹那、吹き飛ばされるアイリス。
《プロテクションっ!》
空中にプロテクションを出して、アイリスをそこに着地させた。
「ノクス、斬れ」
「うぉぉぉぉっ!」
ヌルんっ。
「離脱しろっ、ローズ、次撃だ」
ビッグワームの姿を見て、一瞬怯み掛けたローズが剣を下から上に振り上げる。
ヌルん。
が、踏み込みが甘く、傷を負わせられない。
マーギン達を襲ってきたビッグワームは他のより断然大きい。推定10mクラス。そして、ビッグワームはノイエクスをロックオンして、ウニョニョニョと追いかける。
「ノクス、そのまま円を描くように逃げろ。ローズ、胴体が横向きになったところを斬れ」
ノイエクスは方向を変え、ビッグワームを誘導するように逃げる。そして、マーギンはローズに徐々に身体強化魔法を掛ける。
「ぬぉぉぉぉっ!」
走るスピードが上がって行くローズ。そして、ビッグワームに追いついて、剣で斬り付けたときに、マーギンがガッと身体強化魔法を強めに掛けた。
スパンっ。
胴体の真ん中から真っ二つに斬られたビッグワーム。
ビタビタビタビタっ。
2つに分かれたビッグワームがものすごい勢いで暴れる。
ぬちゃぬちゃぬちゃっ。
「いやぁぁぁぁっ!!」
ビッグワームのぬちゃぬちゃが飛び散り、ローズに掛かる。
「ゲッ」
「マーギン、なんとかしてくれぇぇ」
ぬちゃぬちゃローズがものすごいスピードで走ってくる。マーギンが身体強化魔法を掛けたままなのだ。
「待てっ! 今から洗浄魔法を掛けるから」
ずちゃっ。
思わぬスピードで走ったローズは止まることができず、マーギンに激突。
「いやぁぁぁ」
ぬちゃぬちゃローズにぶつかられたマーギンもまた、ぬるんぬるんまみれになるのであった。




