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カラスマと忍者の心得

 忍者の里の山奥にある修練場。そこは伝説の忍具を手に入れるための試練の場であった。さっきまでは。


「さーてがんばってしれんをつくるぞー」


「先生、やる気出して」


「でも具体的にどうするんです?」


「戦闘がメインらしい。つまり敵を作ればよし」


 そこは調べた。ご先祖様の霊とバトルさせりゃいい。


「私か先生が戦うの?」


「いんや、手加減間違えたらクリアできんだろ。勇者の剣と同じ方法でいく」


 黒い忍装束を来た、中身のない敵を錬成。

 全長2メートル。多少鎧武者のようにして、頭巾と額当てで顔をカバー。これで敵っぽいだろ。


「おぉー、それっぽいですね」


「クシナダ、アフレコ頼む」


「また!?」


「アフレコ係じゃないんですか?」


「決まってないわよ!?」


 本人も楽しそうだったし、面白いのでやらせたい。本気で嫌なら俺がやる。


「経験者にやらせるのが適任だろ」


「先生声優とかしてた時期あるでしょ? 知ってるのよ?」


「もう引退しちまった身さ……」


「哀愁出そうとしてもダメ。騙されないわよ」


 ここで意外にもリコから声が上がる。


「はいはーい! じゃあわたしやりたいです!」


「できるのか? お前女神の神託とかで声バレてんだろ」


「そこは変えればいいだけですよ。そういう機能もつけられるでしょう?」


「いいじゃない、やりたい人にやってもらえば」


 多少の不安は残るが、本人の希望を叶えてやろう。


「よし、じゃあ今回はリコに任せよう。結界張ったし帰るぞ。撤収」


 部屋にワープして準備を整える。

 テレビにコントローラーを繋いで、忍者の動きを確認しよう。


「よーしよし。二段ジャンプあり、空中ダッシュあると強すぎるか?」


「緊急回避にしません? あとビームとか遠距離手段がないと」


「完全にゲーム作ってるわねこれ」


「トリガーボタンと攻撃ボタンで技が出るように……」


「変わり身の術入れましょう。あと分身!」


 こうして好き放題作るのは結構好き。そしてそれっぽい難易度で完成した。


「さーて、勇者一行はどうしてるかな?」


 気になったのでサーチ魔法で画面に写す。山の中腹にあるお店で休憩中のようだ。団子とお茶とかあるのか……今度作ろう。


『拙者は先に偵察してくるでござる』


『すぐ戻ってくんのよ。先に行きすぎない』


『承知でござるよ』


 そして茶屋で休憩しているミルフィたち。ファンタジー装備で茶屋にいるの少し面白いな。俺も外から見たらこんな感じなのだろうか。


『あのー、勇者様ですよね?』


 男女の忍者数人がいる。修行中なのか休憩中なのか知らんが、あんまり強くないやつらだな。


『はい。私が勇者ですけど……』


『おおー、本物初めてみました! あの、試練に来たって聞きましたけど』


『はい。カラスマさんの装備を手に入れるためにですね……』


 こういう対応に慣れているのだろうか、二人とも淀みなく会話が進む。


『じゃあカラスマのやつ、迷惑かけてるわけじゃないのか』


『助かってるわよ。あいつ強いし、色々と思いつくしね』


『強くて面白くて頼りになります!』


『面白い? へー国が違えば、あの寒いノリも受け入れられるのねえ』


『空回りしてるイタいやつだったくせに、そっちじゃ受け入れられてんのかよ。優しいな勇者様は』


 カラスマは、里の人間からの評判はあまりよくないのだろうか。

 少しだけ居心地悪そうなミルフィとミントだが、連中はそれに気づかない。


『あんたらね……カラスマはあたしらの仲間なの。そっちがどう思ってるか知らないけど……』


『偵察終わったでござる』


 ミントの言葉を遮るように、カラスマが帰ってくる。それを見て忍者連中はさっさと帰ろうとする。わかりやすいな。


『じゃあ私達は帰ります。試練頑張ってください、勇者様』


『はい、がんばります』


 ミルフィの元気がない。戦闘前にモチベーション下げるなモブども。


『あの、カラスマさん……』


『拙者は気にしないでござるよ』


『いいの? 少しくらいお灸をすえてやってもいいのよ?』


『無駄でござるよ。それで二人の評判が落ちる方が悲しいでござる』


『そう、ならちゃっちゃと試練を超えて、新しい武器でも見せつけてやりましょ』


『そうですよ! 三人なら、ずばーっとゲットできちゃいますよ!!』


 こういう時のミントは強引に雰囲気を変えてくれる。いいバランスのパーティーだよ本当に。そして山の奥、ご先祖様のいる修練場まで辿り着いた勇者一行。


『御免。ご先祖様、どちらでござるか!』


 勇者PT堂々の入場である。それでは始めていきますか。


「リコ、アフレコ頼むぜ」


「お任せください! あーあー……よし!」


 マイク越しに喋るリコは、完全に男の声になる。さて俺もコントローラーを持っておこう。


「よくぞ参られたでござるな。我が子孫よ。にんにん」


「キャラ付けが安易よリコちゃん」


『これがご先祖様……』


「さあ拙者と戦い、打ち勝てればすべてを授けようでござる!」


 全員戦闘態勢に入った。さてどう動く?


『ならば参る! 雷撃手裏剣!!』


『バーニングバスター!!』


「甘いな」


 放電する手裏剣を避け、一直線に飛んでくるレーザーを日本刀で切り裂いてやる。


『そんな!?』


「フハハハハ! そんなんじゃ甘いでござる! にんにんでござるよ!」


「真面目にやれリコ」


「忍者ってこういうのじゃないんですか?」


 いかん忍者の知識が偏っている。思わぬところに落とし穴があったもんだな。


「忍法分身の術!」


 とりあえず五人に増えてみた。俺なら全員を完璧に操作できる。


「にんにん! にんにんでござる! ええっと、拙者分身でござるよ!」


「分身全員にアフレコしなくていい」


 テンパってるリコは気にしない。さささっとバトルに入ろう。


『ミルフィ殿!』


『はい! いきます!』


 ミルフィとカラスマによる同時攻撃だ。避けられることを念頭に置き、大振りはせず連続で攻撃を続ける戦法だろう。ミントを守ることも忘れていない。


「分身を倒したくらいでいい気になるでないぞ! にんにん!」


「火遁、爆雷砲火!」


『水遁、大激流!!』


 広い室内を炎と水がぶつかり合う。水蒸気が視界を覆い、気配を読みきれないミントは壁際へと退避していく。良い判断だが、追撃はさせてもらうぞ。


「豪炎手裏剣!!」


『変わり身の術!』


 あからさまだし、カラスマは読み切るだろう。だからこそ本命はミルフィだ。高速移動で接近し、刃を振り下ろす。


「斬るでござるよ!」


『負けません!』


 今の所は打ち合えているな。じゃあスピードを上げていこう。


『うぅ……』


 視界が悪いため、徐々に追い詰められていく。ここからさらにパワーもスピードも上げる。


『やらせんでござる!』


 カラスマとミルフィの同時攻撃が迫る。一回不意を突こう。両者の攻撃をまともにくらい、そのままカウンターで回し蹴りを叩き込む。


『きゃあぁ!?』


『ぬうぅ……ぬかった』


『バーニングブレイカー!!』


 追撃前にミントの魔法により分断された。いい判断力だ。三人は敵から距離をとって集まっている。


『仕切り直しよ! こいつ強いわ!』


『ちと厄介でござるな』


『でも諦めません!!』


 まだまだ闘志は衰えていないようだ。もう少し強くしてもいいかもしれない。

 ミルフィとミントは軽症。カラスマは味方を庇いすぎて少し怪我が目立つ。

 それも回復魔法で素早く治しているし、チームワークは悪くないように見える。


「奥義を教えてやろう。見て覚えろ」


 リコのマイクに向けて喋り、カラスマの目の前でゆっくりと印を結んでいく。魔力の練り方もわかりやすいようにして、魂を極限まで高める術を見せつける。

 やがて魔力と魂は黒い鎧となって全身を包む。


「秘伝忍法 魂魄霊装術」


 大昔に覚えた忍術だ。魂が折れない限り、全能力を際限なくぶち上げる。


『これが忍者の奥義……凄い、こんな魔法見たことないわ!』


「さあやってみせるがいい」


『秘伝忍法!!』


 流石に天才だな。素早く印を結んで魔力を練っている。だが足りない。

 全身に張り付くような、漲るような力ではなく、集中を切らせば魔力が散る。


「ふっふっふ、まだまだでござるな。それでは一流の忍者にはなれないでござる!」


 再びリコのアフレコに戻った。楽しそうだなこいつ。


『こっちで時間を稼ぐから、さっさと覚えちゃいなさい! ライトニングシュート!』


『信じてます、カラスマさん! ホーリーストラッシュ!!』


 雷と光が迫る。だがこの術は半端な攻撃など無意味だ。悠々と歩いてミルフィに殴りかかる。


『そんな!? うあぁ!?』


 剣でのガードも意味をなさず、そのまま壁に叩きつけられる。


『ミルフィ殿!!』


「にんにんナックル!」


「その名前はどうかと思うぞ」


 ミントへ高速移動して殴りつける。間に割って入ったのはカラスマだった。


『うぐっ……がはっ!!』


 まともにカラスマの腹へと拳がめり込む。


『カラスマ!!』


『これは元々拙者の試練。余計な心配は無用でござるよ……』


 魔力が乱れているのか、身代わりの術を使う余裕がないようだ。

 ここで追撃の手を緩めるのも失礼か。再度ミントへの攻撃を開始。魔法をものともせず、その細い首を掴む。


『あう……はな……せっ!!』


 呪文の詠唱も意識の集中もできないからか、弱々しい魔法を撃つことしかできないようだ。


『ミント殿に……手を出すなあああぁぁぁ!!』


 カラスマが振り下ろした刀は、霊装術の鎧を砕くことができず、その刃を散らした。


『バカなっ!?』


『ミントを離して!!』


 迫るミルフィに向けて、豪快にミントを投げつける。


『きゃあぁ!!』


『あうっ!!』


 ぶつかって二人とも転がっていく。そこへそっと左手を向け、火遁の術を解き放つ。


『やめろおおおぉぉぉ!!』


 カラスマの右拳が叩きつけられ、ほんのわずかだが霊装術の左腕にひびが入る。同時に解き放たれた炎は逸れていき、二人に当たることはなかった。


『カラスマ、あんたそれ……』


 カラスマの右肘から先には、純度100%の霊装術が発動していた。

 全身が無理なら右腕だけでも完璧にして、俺の攻撃を止めたのか。


「面白い。そういう工夫は大好きだぜ」


『やるなら拙者をやれ!! この生命でよければくれてやる!! だからこっちを見ろ! お前の敵はここだ!!』


 殴りかかってくるも、右腕さえ掴んでしまえば後は生身。全身装甲となった敵の攻撃を避けられない。


『ぐっ、げはっ!? うがあぁ!!』


『今助けます!』


 ミルフィが突っ込んでくるので、カラスマを投げつけ、魔力波ぶっぱでミントのところまで飛ばしてやる。


『うああああぁぁ!!』


 三人まとめてダメージを食らって壁際へ。さあどうする勇者達。


「ねえ先生、試練って強さだけでいいのかしら?」


「どういう意味だ?」


 クシナダは何か考えがあるらしい。詳しく聞いてみよう。


「ただ敵に勝ったら終わりじゃ味気ないじゃない。精神的な成長とか、忍者としての心得とか、そういうのは必要ないのかしら?」


「どう……なんだ?」


 説明もなく成仏しやがったご先祖様のせいでわからん。しょうがないからオリジナルでやるか。


「ふはははは! どうしたどうした! そんなものでござるか! にんにん!!」


「リコうっさい。叫んでばっかりじゃねえか。少しアフレコ交代な」


「えー、楽しかったのに」


「クオリティアップのためだ。ちょっと気になることもある」


 マイクをもう一本作り出し、俺の声を届ける。


「カラスマよ、おぬしは何を目指すでござる」


『いきなり何でござるか』


「勇者とともに戦い目指す場所とは、己が生きる意味とはなんでござるか?」


「先生、リコちゃんと変わらないわよ」


 ござる口調はカラスマもそうだし、忍者っぽいしありじゃねえかな。


「ござるは侍に近くないかしら?」


「確かに」


 アホなこと考えている場合じゃない。普通に進めよう。


『世界に平和を取り戻すために、拙者を仲間と呼んでくれたシルフィ殿とミント殿のために、拙者の命すべてを使う。それだけが今の拙者の生きる意味でござる』


「ものすごく真面目な答えが帰ってきましたね」


「ちょいと隠し事はあるみたいだけどな。ついでに払拭してやるか」


 精神面でもパワーアップさせてやれたらいいな。少しだけ先生っぽいことでもするとしよう。


「魔王を倒したらどうする? 里に戻れるのか?」


「先生?」


『どういう意味でござるか?』


 戦闘を一旦中断し、少しだけ話し合いに突入する。こいつの決意は立派に聞こえるが、少し危ういのだ。


「はっきり言おう。魔王を倒し、勇者パーティーとして褒め称えられても、里でお前を恨むやつは一生恨み続ける。むしろより深く憎む。お前じゃなく自分が武具を手に入れていれば、自分が勇者の仲間だったらってな」


『そんなもん八つ当たりっていうか、バカじゃないの?』


『そうです! カラスマさんに罪はありません!』


 それはその通り。だがそんな理屈は善人にしか通じない。


『そんなことは覚悟の上でござる。それでも拙者は世界が平和になりさえすれば満足でござるよ』


「お前、生きて世界を救う気がないだろ」


 カラスマの表情が驚愕に染まる。忍者が感情豊かってのも珍しい。


「お前はミルフィとミントのためだけに生きている。その身を犠牲にしようとしている。ピンチになればいくらでも命を投げ出す。だがそれは勇者パーティーがやることじゃない。死に急いでいるだけだ」


 今も一番前で二人を庇うように立っている。自然とそう動いているのだろう。


『なんでそんなことが言い切れるのよ!』


「そうやって死んだやつを、飽きるほど見た」


 単純に現世が嫌になったパターンから、自分の贖罪だと思うタイプまで複数いるが、そいつらは『いのちをだいじに』という命令の本質を理解できていない。このままいくと間違いなくカラスマは大怪我をする。


「その志は立派だと言われるだろう。褒め称えられるかもしれない。けれど、お前のすべてだと言ったミルフィとミントはどうだ? お前が死んで、自分をかばって死んで、それで悲しまないとでも思っているのか?


『それは……しかし拙者は忍者。命をかけて仲間を守るが役目……』


「その半端な霊装術もそうだ。自分の命なんてどうでもいいから、全魔力を腕に集中なんて防御を考えないことをしてしまう。雑に命をかける」


『死なせないわ。カラスマは死なせない』


『そのために仲間がいるんです! 死にそうなピンチでも、勇気で補ってみせます!』


「勇気は言い訳に使って美化するものじゃない」


 少しだけ荒療治を試す。こいつらに愛着でも湧いたかな。死んで欲しくない。


「勇気ってのは……できる限りの対策を講じて、実力をつけてつけて強くなって、やり残したことなんかなくて、それでも考え抜いて行動した結果、最後のひと押しとして使うものなんだ」


 三人に幻惑の忍術をかける。発動準備もなく、色もない無味無臭の幻惑術だ。


「勇気だけじゃ足りなかった未来を見せてやる」


 数秒後、三人が周囲を見渡しながら相手に駆け寄っていく。


『ミント! カラスマさん!!』


『ミルフィ……あれ? 生きて……?』


『そんな……拙者は……守れなかった』


 一瞬で幻覚を見せ終えた。自分以外の仲間が、このまま戦って殺される、もしくは自分が味方をかばって死んでいく。そんなあるかもしれない未来を。

 大人げない真似をしているのは理解しているさ。


「それが仲間を失うということだ。今のはあり得たかもしれない未来。そこで仲間がどんな顔をしていたか、それをよく覚えておけ」


 仲間の顔を見たまま、誰も動けない。心の中がかき混ぜられて、今何をすべきかもわからないのだろう。戦闘続行は無意味だな。


「今日はこの施設に泊まっていけ。明日の夜、お前たちの結論を聞かせてもらう」


 どんな形でもいい。勇者パーティーの結論を見せてくれ。


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