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カラスマと忍者の里

 今日も今日とて勇者の応援だ。テレビから冒険中の勇者の姿を見る。

 画面ではそれなり四天王最後の一人、それなりプリンスを打ち破った所だった。


「がんばってんなあ……」


「いい傾向ね」


 心身ともに成長し続けている。もう立派な勇者パーティーだろう。


「これならしばらくは安心かしら」


「魔王には届かないが、もうレベル50だ。大抵のやつには勝てるさ」


 これからの展開に希望を持ち始めていたら、カラスマと似た装束の男が現れた。


『カラスマよ。里に戻れ』


『えぇ!?』


 同郷の忍者っぽいが、突然帰れとはどういうことか。仲間も驚いている。


『拙者は旅の途中、中途半端に戻る気はないでやんす』


『そうよ、何勝手なこと言ってんのよ!』


『忍具がお前を呼んでいる』


『忍具? まさか、封印されし伝説の?』


『左様。里にて待つぞ』


 それだけ言って消えた。どうやらパワーアップイベントらしい。


『カラスマさん……』


『拙者はパーティーを離れる気はないでやんす』


『じゃあどうすんのよ?』


『行って確かめようと思う……本当に忍具なら、冒険の手助けにもなるでやんすから』


 どうやら三人で行ってみる方針らしい。強化されるに越したことはないだろう。

 ここでカラスマがパワーアップすれば、ミントみたいに成長できるかもしれないな。


「それじゃ、ちょっと調べてみましょうか」


「そうだな。無理な強化は死期を早める」


 里と武器のデータを拝見。さらにこれからのシレンとやらの記録と、ある程度の未来予知をモニターに出す。


「先祖の霊と戦って勝つと、忍具に選ばれて強くなるみたいだな」


「秘伝の忍法書も手に入るみたいだし、かなりお得よね」


 今のパーティーなら勝てそうだし、行かせてやるか。

 カラスマも里帰りしたいだろうし、別の文化に触れると強くなるかもしれん。


「しかしファンタジー世界って高確率で和風の国あるよな」


「そうね、何か理由でもあるのかしら」


「世界の外に思念が流れているとか、実は繋がりがあるとか、理由は複数ある。けど作る側からすれば便利なんだろうな」


「なら今日のおやつはお団子と羊羹ですね」


 急にリコが来た。とうとう飯時以外にも出没するようになったな。


「寝てろや。さっきまでそのへんで寝てたろ」


「ご飯がもらえる気配がしたので」


「ねえよ。勇者が忍者の里に行くところだ、お前も見とけ」


 そんなわけで里についたところから見てみよう。


『ここが忍者の里……私初めて来ました!』


『本来客人など招かぬ里でやんすからね』


『ここで何すればいいわけ?』


『待っていたぞカラスマ』


 里の長登場。いかにもな白いヒゲのおっちゃんだ。


『カラスマ、ただいま帰りました』


『試練はわかっていような?』


 ここで試練をおさらいしよう。

 ・山の上に修練場がある。

 ・そこに現れる先代を倒せ。

 ・カラスマと先代が認めれば参戦可能。


『あたしたちは入れないかもしれないってこと?』


『お互いの信頼がなければ、ともに戦う資格はない。後はそちら次第だ』


『信頼……大丈夫です! 私、カラスマさんを信じてます!』


『ならばこやつのことをどれだけ知っておる。なぜ勇者の仲間になったか。それまで何をしていたか』


『それは……』


 そういや話題に出なかったな。少し隠しているような気配もあった。


『長、道中で拙者から説明致します』


『そうか……わしらもお主を失いたくはない。無理だと思ったら諦めて戻ってこい』


『はっ!』


 そして準備を終えたら山登りが開始される。


「結構厳しい試練みたいですね」


「カラスマだけだと無理くさい。絆が試されるな」


 山を登りながら、過去に何があったか語られていく。


『拙者は里でも優秀な上忍の子に生まれ、その才能を開花させていった。まあ若手のスーパーエースだったわけでやんす』


『へえ、凄いじゃないの』


『そりゃもう飛び抜けていたでやんす。毎日を修練に使い、必死に強くなろうとした。そんな折、里に勇者パーティーへの同行者を求める使者が来た』


『確か王様の命令で、全国から集めたって聞きました』


『うむ、そして里は悩んだ。上忍は重要な任務についていて同行できない。烏合の衆を集めて目立たせることもできない』


 勇者PTってのは精鋭を集めた遊撃隊みたいなもんだ。魔王は勇者の力がないと倒せないほど無理ゲーで、軍隊は国の警備がお仕事である。よって自然と精鋭を集めての行動になる。


『国の要請を断るのも、魔王を放置して里に攻め込まれるのも厳しいってことね』


『そこで拙者が志願した。外の世界に出て、自分がどれだけ強くて、何ができるのか知りたかった』


『それだけ? だけなら黙ってる必要ないでしょ』


『カラスマさん、全部話してください。私たちはもう仲間です!』


 ミルフィは純粋だ。本来ためらうようなことでも、正しいと感じた事を実行できる強さと優しさがある。カラスマもそれを感じているだろう。


『……里は王都に比べれば小さい。拙者のような者は、好かれもするが疎まれもする。あまりにも才能がありすぎた』


 声のトーンが下がっていく。昔を懐かしむような、悲しむような声色だ。


『若くして中忍になるものはいる。しかし、豪族の子供を差し置いて、同期の拙者とその仲間が合格してしまった。そのせいか逆恨みの対象になり始めていた』


『ひどいです、そんなの……』


『くだらないことやってるわねえ』


『それに気づいた長は、拙者を逃がすように勇者PTへ斡旋してくれた。長には返せぬ恩ができたでござる』


 なるほどねえ……わからなくもないな。全員返り討ちにできるならいいが、カラスマはまだ頂点ってわけじゃない。里という小さい場所だということも面倒の種だ。


『なんかあんたキャラ違わない?』


『おっと、素が出てしまったでござる。少し間抜けな感じが必要だったんでやんすよ』


『そのままでいいですよ。カラスマさんはもう仲間です』


『正直キャラ作ってる感出てたわよ』


『マジでござるか』


 よしよし、カラスマの問題は里にある。実力を伸ばし、周囲が育てば、それだけで緩和されていく。それまで勇者と一緒にいるのは、実力磨きと見識を広める意味でもベストだ。


「自然に解決しそうね」


「だな。いいことだ」


「よかったです。じゃあついでに試練も見てみましょうよ」


「わかった。試練の中身を見てみよう」


 試練の場となる道場では、広い室内の中央で、半透明のおじいさんが正座していた。


『ワシもとうとう、天に召される時が来たか……』


「召されるなあああぁぁ!!」


 半透明の体がどんどん透明になってんぞ。


「お前……お前タイミングクソ悪いな!!」


「どうするんですかこれ!? 成仏しちゃいますよ!?」


「いや、えぇ……とりあえず行くぞ!」


 急いで瞬間移動。じいさんに話しかける。


「ストップ! ちょっと待て! 試練どうするんだよ!」


「何奴!! おのれ怪しい奴め!!」


「いや怪しくないって! 元勇者で、今はスローライフをしているものだ!」


「怪しさ満載ではないか!!」


 ちくしょうそれは言わないで欲しい。


「待っておじいちゃん。私は女神よ」


「わたしもです!」


「おぉ……確かに人間とは違う、神々しさに溢れておられる。女神様がわざわざお迎えに……」


「違う違う。試練どうするんだよ。今から忍者来るぞ」


「おぉ……そうですか。ですがもうワシは戦えるほどではない。武器だけでもと思いましたが……女神様が来てくださったなら、もう悔いはない……」


 じいさんがどんどん薄くなっていく。悔いろ。今のお前を悔いろ。


「どうか試練をよろしくお頼み申し上げる……」


「逝くなああああぁぁ!!」


 じいさんは天へと登っていった。


「どうします? 蘇生します?」


「いや、成仏したのに戻すって……なんか勇者っぽくないし」


 いくら今はスローライファーでも、やはりためらいが強い。


「しょうがねえ……俺たちで試練作るぞ!!」


 久しぶりの流れであった。

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[一言] おじいちゃん……なんかいい流れだったのにだいなしw
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