VS南国レジャー四天王
南国ビーチで勇者の戦い……一応戦いだよな? を見つつ飯を食う。
「頭かち割ってやらああぁぁ!!」
棍棒を振り回す赤い鬼は、どうやらそれなりに強いらしい。
その姿と暴れっぷりで、ほとんどの人はいなくなった。
ギャラリーがいないのは幸いだな。邪魔になる。
「フリージングウエイブ!」
冷気の波が鬼へと飛ぶ。海パンのみの鬼じゃ、かなり寒いだろうなあ。
「うわさっみ! 海パンだぞこっち! おい冷気やめろや!!」
やはり寒いらしい。こっちは別に気温とか操作できるし、暑い寒いなんてなんでもない。
「今よ!」
「雷遁、飛びクナイ!!」
電撃を付与したクナイの乱舞だ。数で打たせないようにする手段か。
「しゃらくっせえ!!」
金棒を砂浜に突き立て、全力で振り上げている。
砂埃をあげ、風圧と一緒にクナイを散らしていく。
「もらったぜえ!!」
魔法使いの影に向けて突進している。だが遅い。
殴りつけたのは丸太。変わり身の術だな。
「ぬうう!?」
「マグマシャワー!」
魔法使いは上だ。忍者が抱えて上空にいる。
そこからマグマをドバーッと……あれどう処理するんだろう。
「あっ……ちいんだよ!!」
「雷神手裏剣!!」
電撃付きの手裏剣だ。鬼の動きをほぼ封じている。
「やるものね、勇者パーティーも鬼も」
「そうだな。それなりに経験積めそうだし、もうしばらく見守るか」
離れてぼーっとしながらデザートを食う。
南国っていいなあ。もう少し滞在期間伸ばすか。
「フルーツ盛り合わせきましたよ」
「食ってばっかいやがって」
「だって直接加勢は禁止じゃないですか」
「まあなあ……スイカばっか食うな。俺の分がなくなる」
さて勇者の方はどうなっているかな。
よく見ると、バナナボートに立ち、剣戟の応酬が繰り広げられていた。
「ええええい!!」
「やりおる。オレと同レベルにバナナボートを乗りこなせるやつがいたとは」
「負けません! この世界を平和にするまでは!」
二人の乗るボートは、完全に同じタイプのようだ。
青鬼はロングソードか。こりゃ剣とボートの技量が勝負の分かれ目だな。
「ふははははは! バナナボートクラッシュ!」
どうやら自在にボートの機動を操れるらしい。
これは勇者不利かな。
「負けられない! こんなところで!」
「勇者がピンチでやんすね」
「けどこいつら……あたしの魔法が効かないんだ!」
魔法使いのレベルが低いのか、魔法の練度が低いのか。
どっちもだなこりゃ……ちょいと分が悪い。
「ウオオオッルアアアァァ!!」
魔法使いに狙いを定めたようだ。
忍者の攻撃を無視して猛ダッシュしている。
「このっ! くるな!!」
「シャアオラアアァァァ!!」
「しまった! きゃああぁぁぁ!!」
棍棒のスイングを避けきれず、張った結界も破られ、魔法使いの体が宙を舞う。
「ミント殿!!」
落下前に忍者がキャッチし、近くの椅子にそっと寝かせる。
「ハッハハハハ!! あとはテメエだけだなあ!!」
「やれやれでやんすね」
ここにきて忍者から余裕が消えない。
少々本気になったのだろう、殺気が濃いな。
「まだやれそうだな」
「魔法使いちゃんどうしましょう!? あのままじゃ死んじゃいますよ!!」
「安心しろ。命に別条はない。忍者が回復ポーションを飲ませていた」
「えっ……いつの間に」
「観察眼は磨いておきましょう、リコちゃん」
さて忍者は何をしてくれるかな。未知の忍法とか見せてくれ。
「ガハハハハ! テメエも砕けやがれ!!」
「品のないやつでやんす。水遁!」
鬼に冷水を浴びせている。攻撃として成立しているかは微妙だな。
「そんなもんか? あの魔法使いといい、テメエら弱えなおい!!」
「それはどうでやんすかね」
わざと空中へと飛び上がり、敵のフルスイングを狙っているようである。
「落ちろや!!」
棍棒は忍者にヒット。マフラーがぐるぐると棍棒に巻き込まれていく。
「なるほど、うまいことやるもんだ」
「どういうことです?」
「見ていればわかるわ」
忍者は分身。マフラーは本物。そして棍棒を伝って、氷が鬼の全身を固めていく。
「なんじゃこりゃあぁぁ!!」
氷の魔石だろう。砕くと氷結魔法が発動する。
水遁はこのためか。完全に鬼の首から下を凍らせた。
「ちっ、こんなもんが砕けないほど……か、身体が……動かねえ……」
「マフラーを巻き込み、おぬしの視界を遮断したとき、勝敗は決まっていたのでやんす」
鬼の影にクナイが刺さっている。
それだけじゃない。小さな針を飛ばし続けていた。猛毒の針だ。
「お遊びはこれにて終了。少々ダーティなやり方でやんすが」
忍者の刀が、鬼の首に深々と突き刺さり。
「死んでもらうでやんす」
首を天高く切り飛ばした。
本当にヤンスキャラじゃなきゃかっこいいのになあ。
「やるねえ。実戦経験も戦闘訓練も豊富にこなしているな」
「いいんじゃないかしら。パーティーには必要な人材ね」
「あ、カニきましたよ」
「会話に参加しろやお前。なに追加注文してんだよ」
「安心したらお腹が空きました」
「さっき食ったばっかだろ!?」
緊張感というものがないねこいつは。
まだ勇者ちゃんが戦っているというのに。
「よくも、よくもミントさんを!!」
「あいつはな、遊び心が足りなかったのさ!」
「違うわボケ」
思わずツッコんでしまうが仕方ない。
どんだけレジャーに本気やねんこいつら。
「仲間を傷つけ、人々を惑わし、恐怖をばら撒く魔王軍を、わたしは許さない!!」
勇者の潜在能力が引き出されていく。
剣の力もあるが、どうやら感情の高ぶりで覚醒できるタイプらしい。
「こいつ……急に姿勢がよく……バナナボートの極意を身に着けたか!!」
「ねえよそんなもん」
「必殺!! シャイニングスラッシュ!!」
光り輝く剣が、バナナボートバカを両断した。
いいね。音速の二十倍くらいは出ていたぞ。
「こんな……こんなバカなあああぁぁぁ!!」
ボートごと大爆発し、海の藻屑となったのであった。
「ミントさん!!」
喜ぶこともなく、魔法使いに駆け寄っている。
「大丈夫よ。ちょっと痛かったけどね」
もう話せるレベルまで回復したらしい。割とタフなのかな。
「よかった……ミントさんが大怪我したらどうしようってわたし……」
「心配し過ぎよ。あとカラスマ、助かったわ」
「いやいや、同じ勇者パーティーでやんす。助け合いでやんすよ」
あっちはもう問題ないな。三人とも無事でよかった。
「よかったですねえ。最初はどうなるかと思っちゃいましたよ」
「勇者ってのは、そう簡単には負けないのさ」
「いいわね、ああいうの。お休み解禁されたら、また私と異世界救わない?」
「考えておくよ」
俺たちもお祝いムードだ。こうして勇者の成長を見るのは楽しい。
帰っていく勇者を見送ったら、俺たちも別の場所に行こうかな。
「……ん? 何だ?」
何か妙な魔力が漂っている。邪気に近いな。
「先生、これ……」
「ああ、勇者は気づいていないが……」
「どうしたんです?」
「変な感じがするでしょう?」
「………………あっ! なんかよくない感じがします!」
リコは結構鈍いな。飯食って眠くなってんのかね。
「そこにいるのは誰でやんす?」
忍者も気づいたか。
バーカウンターに座り、酒を飲んでいる何者かがいた。
南国なのに白いローブのようなもので全身を覆っている。
「やられちゃったか」
「やられちゃったね」
明らかにまともじゃない。あいつだけ死臭が強すぎる。
「いけない! あれは最後のレジャー四天王です!!」
「最後って……リコちゃん、あと一人はどうしたの?」
クシナダの疑問に答えるように、謎の人影は喋り始めた。
「邪魔だよな、勇者」
「邪魔よね、勇者」
男と女の声がした。一人から二人の声がする。
「あんた誰よ?」
「まさか、あなたも四天王ですか!」
勇者たちが武器を構える。
ゆっくりと戦闘態勢に入るのを確認してか、怪しいやつも勇者へと近づく。
「そこで止まりなさい! 妙な真似をしたら魔法をお見舞いするわ!」
「邪魔だよな、みんな」
「邪魔よね、みんな」
四天王最後の一人とやらに、尋常じゃない熱量が集まっていく。
「なによこいつ……」
「止まってください! あなたは……」
「殺しちゃおう……みいーんな」
「殺そうか……みいーんな」
圧倒的な熱の塊が、地面に叩きつけられ、砂浜も海も一瞬で光が満たしていく。
あいつ周囲の人間まで皆殺しにするつもりか。
「悪いが見逃せんな」
光速の八千倍で移動し、やつの背後に移動。
俺の右手にすべての熱と光を吸収し、最速で事象変換。
周囲の人間を安全な場所へ転送するエネルギーに変える。
今後同じことをしても、次元の軸がずれて周囲に被害は出ない。
民間人の安全を確保したら、気付かれる前に席へ戻るだけ。
「これでよし」
誰も何が起きたか理解できないだろう。
こんなもん1秒あれば10億回繰り返してもお釣りが来る。
「やっぱり先生が一番ね」
クシナダだけは見えていたようだ。流石は元俺の生徒だな。
「見えたのか」
「ええ、先生の生徒だもの。このくらいは当然よ」
離れた場所では、戸惑う敵と勇者一行がいる。
「あれ……? 消えてない?」
「あれれ……? 消えないわ」
「なによはったり?」
「確かに膨大な魔力を感じたでやんすが」
さてどうするかね。今の勇者には厳しい相手じゃないかな。
女神リコと魔法使いリコでリコが被ってしまった……魔法使いをミントに変更しました。
なぜ気づかなかった私よ。




